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行間 MOB男な灰魔術師と極彩色の花束 ドフトゴールド2






 焦る僕とは対照的に、

 田舎者の貧乏貴族であるはずの姫様は平然と答える。


「分かってるわよ。でもここでは一弟子なんだからそんなに気にしなくてもいいんじゃない」


 気にしなさいよ! 


 トラモント公爵家の姫君って言うことは、現皇帝の親族か親戚かなんかだよ!


 確か皇帝に選定された後は、生家を離れるという立場になるらしいけど、そんなもの形式的な話だ。トラモント公爵家くらいになるとその姓を冠する分家も多いが彼女は機嫌を損ねちゃダメな家系の一つには違いない。


「彼女はレオナルド陛下の姪だよ」

 宰相様が知りたくもない事実を教えてくれる。


 その紹介を受けた『黄金ウン…』もといステファニア様がフフンとばかり胸を張る。

 だが、我らが姫様がほとんど反応を示さなかったことに自尊心が傷つけられたのか明らかに不満そうな顔をしていた。


「うぁ! あのトラモント家の姫さまなんだぁ! そこにシビれる、あっこがれるぅ! ヒューヒューだよ!」


 仕方がないから僕の方で褒めておくことにした。

 なにが『あの』なのかどこが『そこ』なのかなんて僕にだってわかっちゃいないけど。

 こういう時はとりあえず、褒めとけ! 褒めとけ!


 僕の上手いとは言えないおべっかに、しかしまだ幼いステファニア様は姫様から僕に視線を動かし、

「あら、あなたはなかなかメコメがあるわね。名前はなんというの?」


 メコメコ? へっこんどんのか? 『見込み』のことか? 


 なんかきっと周りの大人の口真似をしてるだけなんだろうなぁ。


「いえいえ、美しいステファニア様に名乗るほどの者ではございませんでゲス」

 揉み手をせんばかりに卑屈な笑顔で持ち上げておこう。


 六歳児としてはいささか卑屈な態度が過ぎたのか、後ろから微妙な空気は感じる。


「色んな意味で変わってるね」

「ゲスってなんだい?」

「下衆ってことじゃないですか」


 色々言われているが、トラブルに巻き込まれるくらいならプライドなんて僕は雪隠送りにする自信があるね。


「……」

 ん?


 僕は視線を感じて首を曲げると、果たしてそこには先程までなんの関心も持たずに修行を続けていたジル様がこちらに視線を向けていた。


 ただしその視線は興味とかじゃなく、侮蔑だ。


 美少年の軽蔑の眼差しが『ご褒美』なんていう域まで残念ながら僕は達していないので、心が傷ついただけだったが。


「オーホッホホホ、ホホホ、ほ、ほっ、ゴホッゴホ……オェっ」

 ステファニア様が高笑い? を上げる。


 クソう! ベタなネタを!

 僕の腹をねじ切る気か!


 僕は笑いを堪えるのを隠すため、片膝をついて顔を伏せることで誤魔化した。

 ただし背中がプルプル震えるのだけは抑えられなかったけど。


 跪いた僕の姿にお嬢様の自尊心はマックス満たされ状態上機嫌になったらしい。

「気に入ったわ。お前私のジュウシャにしてあげる。 フィリップ様この子をちょうだい!」


 ううむ。美人に飼育されるのもイケる気がするが、あくまでもそれは美人限定なので10年後に再チャレンジお願いします。源氏計画とか悠長なことしてられるか。だって刹那に生きる若者だから。


「残念ながら彼の主人はここにいないし、彼自身もすぐに自由都市フリスタッドに行っちゃうらしいよ」

「ええ!? そんなのダメ!」

 ステファニア様が落胆の叫びをあげる。

「そんなのフィリップ様ならどうにでもなるじゃない!」


 うーむ、迷いのない権力の乱用ですな。

 しかし、ここまで高く買ってもらえるならロリの気はなくとも悪い気はしません。ヌフフ。


 パチン。

 アイてっ。


 ニヤついていたら後頭部をはたかれた。振り返ると冷め切った表情の姫様が立っている。

 ついでにマリーという名の『妖精もどき』もその肩で同じような目つきで見ていた。


 あんた私の何なのさっ。


「馬鹿な話は止めてそろそろ入門試験テストを始めない?」

 その言葉にステファニア様が一瞬で反応する。

「バカって何よ! バカって言う奴はバカじゃないんだからね!」


 え? 馬鹿じゃなきゃなんなんだい?


「んー、そうね。貴女の言うとおりだわ。さっさと始めましょ」

 姫様華麗にスルー。

「そ……う?」

 コテンと首を横に倒してステファニア様が不思議そうにしているが、姫様は一切構わず、スレイマン師に促す。


「そうだね」

 とそれまでの成り行きを穏やかに眺めていた魔導師が前に進み出る。

「それじゃあ、二人の内どちらかと遊戯ゲームをやってもらおうかな」


遊戯ゲーム?」

「そうだね。魔力を測定するには現在幾つか方法があるんだけれど、代表的なものは何を計測するかで12の方法に分類される。その殆どが動物の名前がついているんだけれど一番多いのは牛でふたつ。なぜだか分かるかい?」


 え? なんかいきなり授業が始まった? というかふたつって多いか?


「さあ」

 と、姫様はあっさりと諦めている。スレイマン師の視線が僕に移り、それに釣られるように姫さまとステファニア様達の視線が集まる。


「はい! 神様が『色違い』で手を抜いたんだと思います!」

「答えは牛、または牛の魔獣の文化的歴史の深さと長さに関係しているんだ」


 あれ!? 元気よく答えたのにスルー!


「牛が家畜として我々人の文化に登場してきたのはとても古くて、おそらく数千年昔。エスドニアによる大陸南部統一よりもずっと前のことだと言われている」


 スレイマン師は『道具箱』なのか『ガラクタ山』だか分からないところをゴソゴソしながら説明を続ける。


「まだ魔法が体系化されず、魔術がなかった頃。石の食器や石の武器を使っていた時代。そういった頃から牛はその力強さから農耕などに欠かせないものだった。同時期に神話のもととなる話も作られたことから神話には牛が登場する逸話エピソードに事欠かない。魔術の用語には神話から名称ネーミングを取られたモノが多いから自然とそういった名前が多くなるんだね」


「多くなるんですのよ!」

 何故かステファニア様が自信満々に姫様に向かってビシっと指を突きつけているが、本人わかってるんだろうか? あれ? もしかしてステファニア様って残念な子なのかしらん。


「ああ、あったこれだ」

 とスレイマン師が引っ張り出してきたものを皆に見せる。


 板?


 なんか薄く小さな黒い板を何枚も引っ張り出してきた。


「これは『ネメネの獅子』という測定方法なんだけど……」

「ネメネメのシルという方法ですのよ!」


 なめこ汁? ……じゃないよっと。






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