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行間 MOB男な灰魔術師と極彩色の花束 ドフトゴールド1

今回は男子視点





 どうも。

 従者Eこと灰魔術師Eです。


 六歳です。

 突然お邪魔します。


 名前はもうありますが、呼んでもらえません。

 どうやら姫様はまだ怒っているようです。


 怒られるようなことをしたので、文句は言えませんが。

 してなくても言えないんですけどね。


 僕の名前なんて知っても意味は無いから別に構いはしないのでどうでもいいのですが。


 そんな無意味な僕は、姫様とお嬢様のお供で帝国の首都、帝都。その中でも選ばれた人しか入れない内壁街っつーところにいます。

 別に僕が選ばれし者たちであったわけではありません。

 従者Eと名乗った通り、お供で来ているだけですから。


 ここはなんでも宮廷魔術師、黒魔導師の工房アトリエだそうです。

 工房アトリエというのは別に絵を書くわけでも、ペンダントを作るわけでもございません(そういうこともあるでしょうけど)。黒魔導士の研究所のことです。


「ああ、ジルは私の弟だよ。君と同じ六歳で、君の元婚約者エクスフィアンセだね」


 さすが姫様。宰相様の弟君と婚約までしていて、知らない間に婚約破棄までしているとは。

 モテモテっすね。


「婚約者!? しかも元って……いや聞いてないっ」

 言ってないんですけどw


 ギロリんと姫様の鋭い眼光が僕を射抜く。

 どうやら思わず心の声が漏れてたみたいだ。危ない危ない、アウトアウト。


 『位怖クリフシャドウ』なんて発動しなくても十分に殺傷能力のある視線から気配を消してサッと逃れる。


「うん? 昨日言っただろう? 君と縁組させるつもりだったのは私の弟だよ。つまり君は私の義妹になる筈だったわけだ。それは白紙になったけど、でも私の婚約者にしたわけだからいいじゃないか」


 目の前で告げられる衝撃の真実(笑)


「良い訳あるか!!」

 ぐぬぬ! となっている姫様は大変珍しいし見目麗しい。

しかし沸騰し過ぎでヤバイ感じなので止めないとな。


「ふざっ……モガ!」


 姫様がこの国の最高権力者をさらに怒鳴ろうとしたので後ろから口を塞ぐ。


「ンー! ん!」

 ん! の部分で頭突きが飛んできた。後ろから羽交い締めにしていたのでまともにおでこに直撃した。


 なは!


 と悶絶している僕を無視して、大人たちは席を立つ。

 まだお茶も飲んでないんですけど!?


 誰も助け起こしてくれないので、おでこを抑えながら黙って皆の後をついていく。

 どこに行くんだろうって、まぁ姫様がスレイマンという黒魔術師の弟子と勝負するらしいから、きっとその弟子がいる場所だろう。


 イーサン・スレイマン。


 なるほど、宰相の言う『最高』の言葉に疑いはない。

 というか、これで『最高』でなかったのなら、僕は自分の才能の無さに灰魔術師を廃業するね。


 溢れ出ている魔力の量、その質。

 使い魔たちの精度。植えられている植物の品種改良具合。


 万能型でありながら、その要素のどれも突出した個性。

 正直言って灰魔術師の『目』でその姿を見るのは少し辛いくらいだ。

 これでもきっとその魔力を抑えるための魔道具を使用しているのは分かったのだから、僕程度の魔術師じゃ本当の実力は測定不能である。


 四人の後を気配を消しながら付いて行くと、やがて裏庭に出た。

 こういう時、靴を履いたままの帝国様式の生活習慣は便利だなぁ。


 その裏庭は森の茂みがポコンと凹んだように開けた場所になっていた。

 煤のついた小さなレンガの焼却炉。丸太を切っただけの椅子と机。洗濯物を干すためだろうポールが二本。それだけだ。


 空いたスペースに二人の子供がいるのが分かる。

 彼らが弟子なんだな。


 一人は男の子。たぶん。

 そして宰相様の弟君であるジル様なんだろう。

 お兄さんや知らない人間が来たというのに全く顔を向けようとしない。

 なんか変な針金の塊に手を翳している。

 どうも灰魔術で言うところの内気法と同じ修行のようだ。内気法というのは言ってみれば魔力のコントロールのことね。


 青い髪を短くしていて服装が男子貴族のものだからそう判断したけど、顔立ちや体つきだけみると女の子みたいだ。少し目つきがキツイし、表情が暗いが、そんなこと僕に言われる筋合いは一ミクロンもないだろう。


 さっきの宰相様の言葉じゃ同い年ということだから、まだ性別がはっきり出るほど男性ホルモンが分泌されているわけでもない。綺麗な顔には違いないけど。羨ましくなんてないんだからねっと作法に則って言っておくか。


 もう一人は、女の子だ。

 こっちは間違いなく女の子だ。入ってきたのがフィリップ様だとわかるとすぐに立ち上がった。


 白のフリルの付いたドレスに、金色の刺繍が見える。

 禁色の紋章ということは公爵家か何かだろう。

 それよりもなによりも、こんなフワフワしたドレスを魔術師修行に着てくる神経が分からんが。


「フィリップ様、ごきげんよう」

 歳の割には掘り深い大ぶりな顔立ちだ。いかにも北方白人種という青い眼の少女である。


「すっげぇ!」

 と僕があんぐり驚いてしまうほどの存在感だった。


 灰魔術師の『目』で見て凄いってんじゃないですよ?

 普通の目で見ても凄い。

 いや、灰魔術師の『目』で見ても、その魔力量はさすが『帝国最高の黒魔術師の弟子』なんだけどさ。

  

「めっちゃ巻いてるぅ」

 と思わず変なイントネーションになるほどその少女の長い金の髪は巻いていた。


「は、初めて見た!」

 彼女は長い髪を頭の天辺で盛ってそこから溢れ出るように幾つかの『管』が巻いて巻いて胸のあたりまで垂れ下がっている。男子の僕には正直『便器から溢れでたウ○コ』にしか見えないが、女子的にはこういうのなんて言うんだろう? ロココ調?


 駄目だ。吹き出しそう。ごきげんようって生まれて初めて聞いたわ。ウケるぅ!


「あら? フィリップ様。後ろの……コは?」

 しっかりした言葉で『黄金ウ○コ』の女の子が訪ねてきた。


 女の子は少しキツイ目で姫様のことを見たり、視線を外したり、また見たりを繰り返している。

 二月ほど姫様と行動を共にして、初めて姫様を見た同性の反応としては、極々一般的な反応なので僕も最早変に思ったりしない。

 女の子も子供にしてはアクが強い、悪く言えばちょっと老け顔だが、年齢が合ってくれば間違いなく迫力のある美人になりそうだ。


 しかし、うちの姫様はなんといっても神様ベッチューって感じだからな。

 本人の凶暴さは外見に反映していないというチート女子だし。

 あんまり悪口を思っていると、思っているだけで数発殴られる危険があるのでこの辺で。


 姫様を初めて見た時の反応は、ナタリーお嬢様の様にぽ~となるか、『黄金ウ○コ』嬢の様にキッとなるかのどちらかみたいだ。どういう違いでそう別れるのかは僕のような苔生した男子には解りかねます。


「彼女はオヴリガン公爵家の姫で弟子志願者。後ろの少年はその従者だよ」

 とフィリップ様が僕まで紹介してくれた。

 正確に言うと姫様の従者じゃなくてお嬢様の、なんだけど。


「オヴリガン公爵家? ああ『あの』? いなかの人に先生のおしえがわかるのかしら?」

 女の子はそこでようやく『勝った』とばかりにニヤリと嗤った。

 幼くても同性同士で優劣を付けたがるのが女子なのか、生粋の貴族だからなのかはわかりませんけれど。


 オヴリガン公爵家が中央貴族社会でどういう存在なのかがよく分かる態度だ。

 こんな小さな子供でも『はみ出し者』のオヴリガン公爵家。政争に敗れて三百年間落ちぶれた『流刑地』貴族の立ち位置が分かるらしい。


 あながちそれは間違いではないし、僕自身は関係のないことなのでどうとも思わないが、姫様はどうかしら。

 冷めてる様に見えて、売られた喧嘩は二束三文で買い上げる人でもあるからなぁ。


 ちょっと心配になりながら姫様の顔色を覗くと、意外に平然とした顔をしていた。

「……帝都の女子の間じゃ、あんな髪型が流行ってんのかしら」

 ああ、やっぱり姫様もあの髪型が気になりましたか。

 やっぱり女子的にも『ナイ』のかな?


「私自信ないわ……」

 姫様ずっとストレートだもんねぇ。というかストレートかパーマかとか言う問題でも無い気がするが。

 でもきっと似合うと思うな。ウププ。


「お会いできて嬉しいですわ。私はステファニア・L・トラモント。スレイマン先生の一番新しい弟子ですわ」

 彼女は優雅な仕草で手をクルリと回してから腰を折って頭を下げてきた。


 一番新しいってそれって一番下っ端ってことじゃねぇの?


「うん。よろしくねファニー」

 と姫様の方はシュビっとばかりに右手を上げて、しかも愛称で返事を返した。

 

 絶対わざとだな。しかもファニーって。あれか? 髪型か?


 んん? トラモント?


「あら! ダメですわ。あなたも姫君なんだからちゃんとした作法マナーを守らなきゃダメだんだから!」


 ちょっと子供らしい反応だが、それより『も』『姫君なんだ』という言葉から、ステファニアが公爵家の女子であることが分かる。帝都で『姫』と呼ばれるのは帝室の血を引く未婚の女子だけ。つまり公爵家の女の子であるということだ。


 トラモント公爵家って……えええ!!


 僕は急いで姫様の袖口を引っ張って無礼な態度はしないように耳元で囁く。


「姫様! トラモント公爵家っていったら当代陛下の出身だよ!」

 『黄金ウ○コ』とか思ってすんません!


 僕は現皇帝レオナルド・『トラモント』・ガッテミウス陛下の名前を思い出した。






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