第八話 恋が始まるわけがない!
「と、いう事でやってきましたー!お値段以上ニ〇リ!」
マンションからバイクで20分。国道沿いにあるニ〇リに来ていた……というのは今の私からしたらどうでもいい事だった。
私はバカだった。こいつは察しが悪いってここ最近でわかっていたのに。
『付き合ってもいいぞ。買い物』
とかマジでどこの鈍感主人公さんですか。これの主人公さんですね。
しかし、今更『交際の事だ』とは言えない。
「で、何買うんだ?」
さすがにずっと落ち込んでいる訳にはいかないので、気を取り直して蒼神に質問をしてみる。
「そうだな……まだはっきり決めてないんだよなー実は」
「そうなのか?」
買うものくらいあらかじめに決めておいた方がいいと思うんだけどな。使える金にも上限はあるし、揃えたいって思うと案外高くつくからな。
「ああ、昨日実は考え事しててさ」
考え事?蒼神も考え事するんだな。なんとなくだけど、直感で生きてる雰囲気あったから意外だな。
「何考えてたんだ?」
「ああ……まぁそんな事より買い物済ませよう」
ん?なんじゃその返答。腑に落ちなさすぎるんだが。
「買う物決めてないんだろ?」
「ああ、そうだった」
バカなのか?こいつはバカなのか?いや、でもこれは動揺しているとも取れないか?さっきから、というか家出たときから汗とかすごかったし、目が泳いでいる。
なんか隠してるな。
「私に言いたい事あるなら言えや」
「お、おう……」
おっと、蒼神を少しビビらせてしまった。自重自重。
「いや、この間の事なんだけどさ」
「この間?」
「なんでも言う事聞くって言っただろ?」
「ああ、あの時の。それが?」
そう言うと、蒼神は少し顔を逸らした。
「あれから考えたんだ。『付き合ってくれ』って言うのは『買い物に』じゃなくて『恋人になって欲しい』って事なんじゃないかってさ」
へ、へぇぇぇええ!!!
い、今更私の本意に気が付いたのかよ!?いや、しかし、気づいてくれたのなら良しとしよう。
それにしても、今蒼神がそうとう恥ずかしい事を言ったように思えたが、当の本人は気にしていないらしい。
「いや、ごめん。俺の勘違いか」
勘違いじゃなーい!
なんで一回気付いたのに訂正するんだよ!?ふざけんなよ私を弄んでんのかゴルァ!
「も、もし、私がそういう意味で『付き合って』って言ってたらなんて返答した?」
告白をする機会なんてのはいくらでもある。ここで蒼神の意思を聞いておくのも悪くはないだろう。
まぁ、最初から正しい意味で捉えてくれたら、それが1番平和だったんだけどな。
「うーん……わからん」
「私はダメなのか?」
「いや、そういう訳じゃないよ。あかね、可愛いし世話焼いてくれるし」
ほ、ホントになんでこんな恥ずかしい事平気で言えるんだよ。
「でも、まだあまりお互いの事よく知らないでしょ?」
「ま、まぁな」
まだ私は蒼神の両親を見たことはないし、そもそも、こいつがどんな趣味を持っているのかさえ知らない。
「やっぱり交際ってのは生半可に始めてもすぐに散るだけだと思うから、付き合う前に相手の事はよく知っておきたい」
そんな事考えてたんだな。なんか私が尻軽みたいに見えるじゃねぇか。
「でも、俺の家の事知ったら嫌だと思われるかもな」
「え?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
なんだよ。めっちゃ意味深発言しといて気にするなとか無理があるだろ。
「まぁそんな事は置いておいて、まずは買い物だ。あかねも手伝ってくれ」
「お、おう」
〇
「いやー、疲れたー」
ニ〇リでは、特に目立った問題はなく、円滑に買い物は進んだ。俺はあまり家具の良し悪しがわからないから、そこのところはあかねに意見を求めたりした。
あかねの提案『まずはリビングから揃えよう。私が邪魔しに来る事を考えると生活感がある部屋は嫌だ』という意見を聞いて、ホテルと言うかそんな感じの非日常感のある家具を二人で吟味し、選んだ。
あかねはどうやら、これからも俺の部屋に通うつもりらしい。別にあかねやあかねの親御さんが迷惑に思わないのなら俺は構わないけど。
そして、今俺たちは昼食を食べに、万博記念公園にやってきている。明確に言うならエキスポシティにあるフードコートに来ている。
「あかね、ここ、ちょっとカップルとか多くないか?」
「ん?ああ、そうだな。交通の便も悪くないし、店もいっぱい入ってるから人気なんじゃないか?」
「あの、俺はまぁ別に気にしてないけど、誤解とかされるかもよ」
「誤解?」
「俺たちが付き合ってるって」
「……ッ!」
あかねが手に持っていたスチール缶を勢いよく握りつぶす。
「は、はぁあ!?」
やっぱり嫌だったのか。それならここを早く出た方がいいかもな。ってか片手でスチール缶潰せるのな。あかねとは何が何でも喧嘩はしないでおこう。
あかねの反応からして、誤解されるのは嫌だと悟ったので、席を立つ。
「ここ、たぶん南茨高の生徒もいっぱい来てるだろうし、誤解されるのが嫌ならどこか別の―――」
場所を変えようと歩き出そうとしたら、
「べ、別にここでいいだろ……」
と、俺の手を掴んでそう言った。
「そ、そうなのか?まぁそれならいいけど」
あかねがここでいいなら、まぁいいんだけど。あかねも、好きな人に見られたら勘違いされるとか思わないのかな?俺は特に好きな人いないからいいけど、あかねの噂が流れるのは悪い気がするんだが。
「蒼神は何食べるんだ?」
「そうだな……」
ここにはたくさんの店がある。ラーメン、たこ焼き、ファストフードなどなど。挙げていくときりがない。
「じゃあ……ハンバーガーでいいかな」
選ばれたのはマ〇ドでした。
「せっかくここまで来たのに、それでいいのか?」
「うん。今日はハンバーガーの気分だ」
「先に買ってきていいぞ。私待ってるから」
「お、ありがとう」
席を立って、ハンバーガーを買いに行く。
○
私も何を食べるか決めないとな。
席を立たずに、どんな店が入っているのか周りを見渡す。
「!?」
急いで顔を伏せる。
まさかの南茨生グループがいた。同級生で顔見知り、中には同じクラスのヤツもいる。確かあいつの名前は……今宮だったっけ?
なんとなくだけど、ああいう女は苦手なんだよな。上手く表現はできないんだけど、なんというか性悪な感じがする。非行に突っ走ってた私が言うのも違う気はするけど。
まぁ、ああいうのとは一生関わらないようにすればいいだけだ。きっと向こうも同じことを思っているはずだ。
「でさー……が……で」
だんだんと今宮とそのグループの声が近くなってくる。
「で、今宮は好きな人とかいんのー?」
なんと、今宮グループは低い壁を挟んだちょうど真後ろの席に陣取った。
「最近転校してきた男子とかどうなん?」
「え?蒼神君のこと?」
しかも、後ろの席で蒼神の話題が始まった。
今蒼神が帰ってきたら面倒くさくなりそうだな。
「確かに蒼神君カッコいいし、優しい感じするからいいよね」
鈍感だけどな。
「好印象じゃん。告白しちゃえば?」
気づいてもらえないんだよなーそれは。恥ずかしい思いをしたくないのであれば、ここで思いとどまっておくべし。
「あかね、戻ったよ」
おっと、最悪のタイミングで戻ってきた蒼神氏。なんでこのタイミングで戻ってきたでござるかー?
「ん?蒼神君?」
後ろの席から立ち上がり、こちらを窺ってきた今宮氏。お前関係ないんだから首引っ込めてろ。
「ゲッ……栖原……」
そして、どのようにこの状況を回避しようか思案する私。逃げ道はない。
そして、のちに語り継がれる鈍感転校生、ゆるふわ女子、そしてヤンキー女子による地球の運命を賭けた三つ巴合戦が始まることとなった……(始まりません)