第七話 告白タイム
「あかねの言う事ひとつ、なんでも聞いてあげる」
えええぇぇぇぇええええ!!!
なんでもって……なんでも!?
迷う……これは一体何をさせるのが正解なんだ!?わからない。
「今すぐじゃなくてもいいからさ、思いついたらなんでも言ってよ」
「わ、わかった。考えとく」
これはじっくり考えないとな……家に帰ったら様々なパターンとその反応予測をしなくては!
〇
「なんかあかねの反応が予想と違ったんだが……まぁいいか」
今日はあかねのバイトが休みという事で料理を教えてもらう事になっている。
一応必要な食材や調理器具などは揃えた。包丁、まな板、調味料に食材。これらは全て家に来る前にスーパーで買ったものだ。
あかねが一緒ではなかったので、本当にこの調味料で合ってるのか?と心配ではあるが、違ったら俺が買いに行けば何とかなるか。
ちなみに集合は俺の家に6時という事になっている。さすがに向かいの部屋だから遅刻したりすることはないよな?
ピンポーン
インターホンが鳴る。画面にはあかねが映っていた。
「ちょっと待って。今開けるから」
『あくしろ』
玄関に猛ダッシュ。急いでカギを開ける。
「いらっしゃい」
あかねは、帰ってからシャワーでも浴びたのだろうか。なんだかいい香りがする。
「じゃまするぞ」
「うん」
「……」
あかねを家にあげる。
「今日ぶりだけど、本当に何もないよな。家具」
「そうだよね。早く買いそろえたいんだけどなかなか」
「たしか今週末に買いに行くんだよな」
「まぁそうだね。後から家に届けてもらうって感じになるけど」
「その日さ、私バイトないから買い物手伝ってやるよ」
「ホントに?それはありがたいな」
移動手段は……電車が無難なんだけど面倒くさいしバイクでいっか。別にあかねにバイクの存在を隠しても同じマンションだから意味ないだろうし。
そういえば、ヘルメットは俺のしかないよな。明日買いに行くか。
「さて、じゃあ料理すっか」
「ご教授ください」
「お、おう。今日は肉じゃがを作る」
「おお!噂に聞く肉じゃが!」
よくギャルゲのヒロインが主人公に食わせたりするあの肉じゃがを作るというのか!
確かに、画面の向こう側に見た肉じゃがは例え絵であってもおいしそうだった。一回は食べてみたいと思ってたんだよな。
「噂?」
「あ、いや、なんでもない」
失言だったな。肉じゃがは日本の国民食みたいなものだもんな。もちろんアレルギーとかの諸事情により食べれない人もいるかもしれないが、大体の人は食べたことがあるんだろう。
なので、ここでは俺も肉じゃがを食べたことがあるという事にしよう。
「作り方は知ってるか?」
「いいや、何も知らない」
「じゃあ初めからだな」
「よろしくお願いします!」
「ま、任せろ!」
おおっ!なんとも頼もしい!
「まずはジャガイモとニンジンを適当に切れ」
「適当って、どのくらい?」
「サイズはお好みだ」
「わかった」
包丁を手に取り、野菜を切り始め―――
「ちょっと待った!」
「ん?どうした?」
「なんだその包丁の持ち方は!包丁はな、こう持つんだよ」
包丁を握る俺の手の上に、あかねが手を重ねて持ち方を修正させてくれる。
「で、左手は猫の手だ」
「こ、こうか」
「そうだ」
なるほどなるほど。包丁の持ち方と、左手を猫の手にして野菜を補助するというのはわかった。
ところで、あかねはいつまで俺の手に手を重ねる気なのだろうか。そろそろ野菜を切りたいのだが。
もしかして、まだ包丁の持ち方を間違えているのか?
包丁の持ち方を少しずつ変えてみる。
「おい、蒼神。何してるんだ」
「俺の包丁の持ち方間違えてる?」
「ん?いいや、間違ってないぞ」
「そうなのか?じゃあなんでいつまでも俺の手に手を重ねて来てるんだ?」
「!?」
何かに気づいたように、俺から手を引くあかね。
どうした。俺の部屋に虫でもいたか?
「い、いやぁ、すごい筋肉質な手だなと思ってハハハ」
「そ、そうか?まぁいいや。じゃあ野菜切るね」
「早くしろ!」
なんか今日のあかね、怒りっぽいな。もしかして、今日何か予定あったのかな?それで無理に誘ってしまったから怒ってるとか?
「もしかして、あかね怒ってる?」
「怒ってない。だから早く野菜を切れ」
「それならいいけど」
まな板の上に置いたジャガイモとニンジンを一口サイズに切っていく。
「丁寧だな」
「ありがとう」
「ほ、ほめてねぇよ!」
順調に野菜を切っていき、全て切り終わった。
「次はどうすればいい?」
「玉ねぎをくし形切りにしろ」
「くし形切りとは?」
「はぁ、そこからか。普通に切るだけだよ。言葉では説明しにくいから、見て覚えてくれ」
あかねが包丁を手に取り、慣れた手つきで玉ねぎを切っていく。
「こう切るんだ。わかったか?」
「わかった」
あかねの指示通り、くし形切りとやらで玉ねぎを切っていく。
「お前、本当に料理下手なのか?ここまで見ると結構できてると思うんだけど」
「まぁ、野菜は切れるんだけどね。問題はこの後って言うかなんて言うか……」
「苦手な所は私が教えるから。問題ないって」
「ありがと」
「じゃあ次は肉だ……が!実は私の家に余ったやつがあったからこれを使ってほしい」
「いいのか?」
「大丈夫だ。母さんには断ったから」
でも、これはなんだか高い肉な気がするんだけど……この赤身に網目のような脂。これは霜降り肉という奴ではないか?
ぜっっったい高いよなこれ。
「どうしたんだ?次の工程に行くぞ」
「お、おう」
「じゃあフライパンでこの肉と玉ねぎを炒めろ。後で砂糖使うから用意しておけ」
「わかった。確か砂糖はここに……あったあった」
「それ塩だぞ」
「……」
〇
「いやぁ、まさか調味料の見分けが付かないなんてな。カッカッカ!」
「し、仕方ないんだよ。塩とか砂糖とかレタスとキャベツとか、ズッキーニとキュウリとか似てるじゃん!」
「まぁそうだけどよ」
自分なりのわからない理由を述べてもいまだに笑い続けるあかね。なんか少しムカつくけど、悪意たらたらの妹よりかはマシだな。
いや、妹と比べるのはあかねに失礼だな。
「そんな事より!出来上がったんだから食べようぜ」
「そうだな。じゅあ蒼神が作った肉じゃが、私が点数をつけてやるよ」
いただきますを言って、俺が作った肉じゃがを二人で食べる。
「こ、これは……!」
俺が作ったとは思えない程、美味しいかった。
これはあかねに補助してもらったにしても、美味しくできたと自分でも思う。ジャガイモにもしっかりと味がしみ込んでいる。
「美味しいな……これは95点だ」
「おお!高得点!」
しかし、個人的には100点だったのだが、どこで減点されたのだろうか。
「減点ポイントは一つだ」
「ほう。教えてくれ」
「調味料を見分けられなかったところだ」
「え、でも味で点数を付けるんじゃないのか?」
「そうだけどな。でも調味料は料理の味に直結するだろ?」
「まぁ……そうだな」
「そうだろ?その調味料を見分けられないのは重大な減点対象だと判断した」
「調理の工程も点数に入れるなんて初心者に優しくないぞ」
「いいだろ別に。95点も付けてやったんだから」
どうやら俺が100点を取るのは相当後の事らしい。俺に調味料の見分けなんてできないからな。
「そんな事よりさ、もっと重要な事があるんだけど」
「もっと重要な事?」
なんだ?今週末に家具を買いに行く話か?そういえば俺もバイクで行きたいっていうのを話さないといけないよな。
もしかして、大事な話ってどういう交通手段で行くかって事なのかな。
「もしかして、今週末にどうやって家具屋まで行くかって事?」
「違う」
どうやら違うらしい。ではなんだ?重要な事って。
〇
「重要な事って何?」
本当に忘れてるんだなこいつは。
「なんでも一つ言う事聞いてくれるんだろ?」
「ああ、その事ね。なんか決まったの?なんでも言ってよ」
なんでも……なんでも……
「本当になんでもいいんだよな?」
「なんでもいいよ。俺にできる事であれば」
「じゃ、じゃあさ……私と……私と!」
い、言うぞ!言っちゃうぞ!
「あかねと?」
「わ、私と……付き合ってくれ!!!」




