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家出王子の学校生活  作者: 夜行乙
6/8

第六話 願い


 朝だ。


 デジタル時計は5時と表記されている。


 昨日はあかねが無い家具も散らかる勢いで暴れたせいで、体力も尽き、その場で寝てしまった。


 ふと横を向くとあかねが昨日と同じ服のまま寝ていた。


 どうやらあかねも同じ状況らしい。


「あかね。そろそろ起きた方がいいぞ」


 肩をポンポンと叩いてあかねを起こす。


「ん?」


「朝だぞ」


「朝?」


 あかねがゆっくりと目を開けて、むくッと起き上がる。


「あれ?なぜか蒼神の声が聞こえた……?」


 どうやらまだ寝ぼけているらしい。


「気のせいでも夢でもないぞ」


「あっそ…………?」


 あかねは、ふぁああとあくびをして、太陽が差し込む窓に向かって背伸びをした。


「はぁぁぁああ…………まぶしい……?」


 そういえば、昨日は風呂に入ってないな。


「あかね。昨日風呂入ってないだろ?風呂先に入っていいよ」


「ん、ありがと」


 未だに眠そうにしているあかねは、お風呂の方によたよたと歩いていった。


「この間に朝ご飯でも作っておくか」


 〇


「あれ?風呂の位置が逆?」


 どうやら私はまだ寝ぼけているようだ。


「はぁ。昨日は疲れたからな」


 脱衣所に入り、服を脱いで風呂に入る。


 ん?あれ?このシャンプー私のじゃないんだけど。クソ、母さんか。たまに間違えたヤツ買ってくるもんな。


 仕方ない。今日はこれを使うか。


 でも、間違えたシャンプー買ってくるという事は母さん帰ってきてるって事か。2週間ぶりくらいか?


「そういえば……」


 昨日蒼神の家で暴れた後の記憶があまりない。


 もしかして、あの後疲れてそのまま蒼神の家で寝たって事は……無いか。


 きっと昨日は記憶をなくしながらも自分の家にたどり着き、そして床に突っ伏して寝たと。そういう事だろうな。


 しっかし、なぜこんなに朝早く起こした?母よ。


 私が風呂に入っていないと見破っていても、少し早い気がする。


 まぁいいか。早起きは三文の徳という(ことわざ)があるくらいだ。三文がどんくらいの価値かはしらんが、今日はきっとジュース一本くらい誰かが奢ってくれるという事だろう。


 頭と身体を洗って、風呂場から出る。


「あ、着替え忘れた」


 クソ、下着も何も持ってきてないか。


 仕方ない。タオル巻いて自分の部屋行くか。


 下着諸々を取りに行くため、タオルを巻いて脱衣所を出る。


 私の部屋は、玄関から入ってすぐの場所にある。風呂場の斜向かいだ。


 ……あれ?風呂の位置が逆ってのは寝ぼけてたからと思ったけど、シャワーを浴びてばっちり目が覚めた今でも、部屋のレイアウトが逆に感じる……というか本当に逆だ。


 そういえば……蒼神の家のレイアウトって私の家と鏡合わせだったよな。


 ……………………!!!


 〇


「さて、一応作れるヤツを作ってみたが」


 フライパンから目玉焼きをお皿に移す。


「まぁこれくらいなら作れるわな」


 いただきます。


 お皿に乗せた目玉焼きに醤油をかける。


「あああ!!!」


 どうやらお風呂から上がってきたらしいあかねは、大声を出して近寄ってきた。裸で。


 こちらにドスンドスンと力強く歩いてくる。裸で。


「なんで裸なんだ!?」


「なんで目玉焼きに醤油かけた!!!」


 へ?醤油?


「なんでって……おいしいじゃん」


「ふつうは塩コショウだろ!?」


「いやいや、醤油だって!」


 互いににらみ合い、視線から火花が散っている。


「やるか!昨日の続き!」


「ちょっと待て!」


 しかし、これは俺が折れないとダメな状況だと再認識する。相手はバスタオル一枚を巻いてるだけだ。一旦醤油塩コショウ論争はやめだ。


「あかね。自分今なに着てる?」


「?」


 あかねが目の前にあった姿鏡で自分の姿をみる。


「あ、ああ、あああぁぁぁああ!!!」


 姿鏡を見たあかねは急に叫びだし、


「こっち見るな!!!」


「はぅ!!!」


 頬を思いっきりぶん殴られた。


 〇


「ほ、本当に昨日は何もしてないんだな?」


 今、私たちは学校の最寄り駅から学校に向かっている最中だ。


「神に誓うよ。寝てる間の事はわからんけど、やましい事は何もしてない」


 あやしい……確かに……体に異常はないようだけど……。特に痛いところもないし。


「そういえば、今日は自分で飯作ったんだな」


「ああ。目玉焼きくらいだったら作れるからさ」


 味付けの話は……ダメだな。こんな人が多い駅で塩コショウ醤油論争を繰り広げる訳にはいかない。


「そ、そうだ。今日お昼誰かと飯食う用事あるのか?」


「今日は当郷と一緒に学食に行くつもりだ」


「あ、あっそ」


 当郷か……あいつ、悪い奴ではないと思うんだけど、ちょっと怖いからな。私が精神的に恐れている同級生トップ5には入るかもな。


 でも、そんな事は関係ない。今朝、自分の家に帰ってから軽くサンドウィッチ“二人前”作ってきたんだ。


「その……私も行っていいか?」


「いいんじゃないか?男子ばかりっていうより女子がいれば華やかになるからな」


 は、華やか!?私が参加することで華やかになるだと!?


 ク、クソ……!こいつ、私を動揺させようとしてるな!?ふざけやがって!こんなので私はど、動揺なんて、し、しない!


「あ、でも」


「な、なんだよ?私が参加したらダメなのか?」


「いやいや。そういうのじゃなくてさ。あかね目立つでしょ?食堂なんて人の多い場所に行ったら」


「まぁ……私嫌われてるし……」


 確かに、不良が急に学食に来たらみんなの注目を浴びるのは当たり前か。そうだよな。いくら蒼神でも不良の女と一緒に居て変な噂とか立ったら迷惑と思うだろう。


 やっぱりこれは私から辞退―――


「いやいや、そういう事でもなくてさ。だってこんな金髪の美女連れてきたら絶対嫉妬深いヤツに恨まれるって」


 ドキューン!!!


 じゃなくて!!!


「は、は、はゎゎ、ぁ……ぅ」


「ん?どうかしたの?」


 な、なんて事……言いやがるんだ!


 美女とか……前にも蒼神にこんな事言われたけど、あの時よりなぜか刺さる。今まで誰にもそんな言葉言われた事なかったからか?


 美女……私が?いやいや、ないない。こんな非行女だぞ?蒼神には私が美女に見えるって、そう映ってるのか?


「や、やっぱり私学食行くのやめとく」


「え?なんで?」


「べ、別にいいだろ!」


 あ、つい強く言ってしまった……。嫌われたかな……。


「そうか……残念だな」


 しっかりと落ち込む蒼神。少し申し訳ない気分になるのはなぜだろうか。


 そうだ。今弁当渡そう。喜んでくれるかな……って、何考えてんだ私は!


「あ、あのさ。これ……」


「弁当箱?」


「あの、サンドウィッチ作りすぎたから、これやる」


 ああもう!恥ずかしい!!!


 そのままダッシュで逃げるように学校まで走った。


 〇


 これ……あかねの手作りだよな。


 弁当箱を開けると、サンドウィッチが6個入っていた。3種類のサンドウィッチが二個ずつ入っていて、右からたまご、ツナ、ハムレタス。見るからにおいしそうだ。


「こんなのもらっていいのかな」


 しかし『これやる』という発言があったんだから受け取って問題ないんだろうけど、なんとなく悪い気がする。対価を支払わないと気が済まない。


 このサンドウィッチなら……うん。俺なら1500円支払えるぞ。


 いや、しかし、好意でもらったものに俺が値段を付けるのは失礼にあたるのでは?それに好意に金銭でお返しをするのは何か違うよな。


 くそぅ。俺は何をしたらいいんだ!何もいい案が浮かばない!


 もやもやした気持ちを抱え込んだまま、自分の教室に入る。


 先に学校にダッシュで行ったはずのあかねは、席にカバンを置いてどこかに行ったようだ。


「おはよ、春斗」


 自分の席に着いたところで、当郷が教室に入ってきた。


「おう。おはよ」


「……どうした?なんか悩み事でもあるのか?」


「え?ああ、いや、なにも」


「そうか?まぁそれならいいけどさ」


 そうだ。あかねへのお礼、思いついたぞ。


 ほら、アニメとかでよく見るやつ。あれだよあれ。


 ああいうのは大概、ヒロインが失言し、主人公が願い事として体目当ての願いをしようとするというのが定石だ。


 しかしながら、あかねは純情な乙女である。あかねなら鬼畜主人公のような体目的の返答ではなく、ちゃんとした願い事を言ってくれるだろう。


 俺が叶えられる夢などたかが知れているが、ここはミリネシア第三王子として、ミリネシアを代表し全力を尽くそうではないか!


「これで行こう!」


 完璧だ……完璧すぎる!


「どうした?」


「あ、いや、なんでもない」


 〇


 今日の学食には本当にあかねは来なかった。俺は当郷との約束もあったので、あかねからもらったサンドウィッチを持って行った。


 あかねが作ったサンドウィッチとても美味しかった。正直な所、どんなサンドウィッチであろうと大差はないと思っていたが、これは今までの俺の常識を凌駕する美味さだった。


 そして現在は放課後。授業は全部終わった。


「そういえば、蒼神は何か部活には入らないのか?」


「うーん……そういえば当郷はイラスト部に入ってるんだったよな」


「ああ、そうだぞ」


「じゃあイラスト部今度お邪魔してもいいかな?」


「おお、マジで!?こっちはいつでも新部員募集中だからいつでも来てよ!」


 絶対来いよなー!と大声で言って部室の方へ走っていった。


 教室を見まわしあかねを探すが……もちろんいない。いつも教室を出るのは一番早いからな。


 俺も走ってあかねを追いかける。


 〇


 弁当、喜んでくれたかな……


 昼休みからずっとそれだけが気がかりだ。蒼神の舌に合わなかったらどうしよう。


「おーい!あかねー!」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「蒼神」


 蒼神が学校の方から全速力?で走ってきた。


「すまん、先に行って。あまり教室に居たくなくて」


「いいよ、気にしないで」


「そういや、サンドウィッチどうだった?」


「ああ、めっちゃ美味かったよ。いやぁ、こりゃ胃袋掴まれちゃったな」


 おお、私の弁当大絶賛だな。やはり母さんの言った通り男は胃袋から……これは素直に喜んでいいよな。


「ありがと。次は―――」


 おっと危ない!私の『お昼ごはんで蒼神の胃袋掴む作戦』の事を口走ってしまう所だった。


「なんて?」


「いや、なんでもない」


「あ、そういえば、お弁当のお礼したいんだけど」


「え、いいよ別に」


 そんな、私は美味しいって言ってくれるだけでいいのに。


「俺がお礼をしたいんだ。させてくれ」


 う~ん……私は別に礼はいらないんだけど……まぁ蒼神がしたいって言うならいいか。


「わかった。じゃあ何かくれるのか?」


「いや、お礼はもう考えて来てる」


 ほう。それをさっさと私に聞かせなさい。




「あかねの言う事ひとつ、なんでも聞いてあげる」




 えええぇぇぇぇええええ!!!

 あかねさんが作るサンドウィッチ、俺も食べてみたいなぁ

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