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ありえない! はず、だったんだけどなぁ……。

 

 待ちに待った放課後。

 クロイスが話があると言っていた。


 その噂は広がっていないはずだけど、ただでさえ中庭は目立つ場所だ。

 放課後の鐘が鳴ると同時に、慌ただしい様子で飛び出したクロイスが気になってかすでに野次馬がたくさんいた。


 姿を見たものが噂し、中庭に立っているクロイスを見た者は、何事かと思って足を止める。

 そして、人が人を呼ぶ悪循環の完成だ。


 つまりクロイスが待っているその場所は……ものすごく、注目されていた。


「あそこに行くの、嫌なんだけど」

「男なら堂々と行ってらっしゃい」

「全く、他人事だと思って……」

「そうね。よく主人公はあの場に飛び込めたと思うわ」


 イブさんもその光景に思うところはあったのだろう。

 まだ理解してくれるだけありがたいけど、ボクが行かないとダメなんだろうなぁ……。


 周りが誰が来るのか注目している中、ボクは一歩を踏み出す。

 ゆっくりと……しかし着々と前へと進む。


 緊張でか周りの音が聞こえなくなったけど、それでも……ようやくクロイスの前までたどり着くことができた。


「お待たせ」

「……ああ。随分と時間がかかったな」

「人、集め過ぎじゃない?」


 もう全生徒が見ているんじゃない? というくらいの注目だ。

 さすが王族、貴族の興味も独り占めだね。


「なに。予行練習としては悪くないだろう」

「ふーん。何のか聞いても良い?」


 こんなに大勢を集めても、いつもの緊張したクロイスはいない。

 ……言っちゃ悪いけど、クロイスよりもガイアルのほうが頼りがいはある。


 でも、この場……今ボクの目の前にいるのは、堂々とした立派な一人の男性だった。


「それは、王族として、上に立つものの宿命として、だ」

「それってボク、関係ないよね?」


 返事はない。

 代わりに、両肩を掴まれた。

 ボクらは至近距離で、ボクはクロイスを見上げる形で見つめ合う。


「……俺は卒業したら王家に戻る」

「うん。知っている」

「だからだ。ハヤト、お前にも来てほしい」

「うん……ん? それって父さんに関する罪滅ぼし?」


 いくら両陛下を説得するといっても、何らかの処罰は下されるだろう。

 その罰として、王家に仕えろってことかな?


「いや、両親は俺が説得する。そのためにもハヤト、お前が必要なんだ」

「そうなんだ。頑張ってね」

「……だからだな、その」


 次第にクロイスの目が泳ぎ始める。

 ……イブさんから聞かされている分、余計に気まずいな。


 だからって肩を掴まれている以上、逃げ出すこともできない。

 ……仕方ない。


「ハ、ハヤト?」

「うん、いいよ……ボクも一緒にいってあげる」

「そうか! それはもちろん!」

「うん。これからメイドとしてがんばるよ」

「……え?」


 ガイアルのところでも、ボクの家でも、意外と使用人として働くのは合っていたようだし。

 だったら、クロイスのお世話もできそうかな。


「じゃ、そういうことで」

「待ってくれ、違う!! 俺はお前が欲しいんだ!!」


 その言葉に、周囲の音が聞こえてきた。

 キャー! キャー! という黄色い悲鳴だけど、それなら聞こえないままのほうがよかった。


「それってメイドとしてかな?」

「いや……そうだな。ハッキリ言う。一人の女としてのお前が、欲しい」

「ボクは男に戻るつもりだよ?」

「そう、だな。だから、まずは両親を説得し……俺と過ごしてくれ。そして時が来て戻りたいというなら、俺は止めない」

「つまり、ボクの意思が変わらなければ良いってことだよね?」

「……そうだ」


 クロイスは近くにいるのに、ボクと目を合わせない。

 ……彼のこの顔は、何度も見た。


 そんな悲しみを堪えた顔をされたって、ボクはもう決めたんだ。


「いいよ。ボクはもう、姉さんの身体でいる。そう思えるように、諦めさせてね?」

「…………いまなんて?」

「クロイスがボクを、女にして?」


 自分で言って、カァーッ! と顔が熱くなったのを感じた。

 これじゃまるで、ボクがそう誘っているみたいだ。

 ……けど、親友にあんな顔をさせるなら。

 ボクだけのワガママで周囲を振り回すよりは。


 それに、イブさんの後押しが大きい。


「ク、クロイス? さすがに返事をもらえないと、ボクも恥ずかしいのだけど」


 そう言って覗き込んだクロイスの顔は、ボクと同じくらい真っ赤に染まっていた。

 でも、覚悟は決まっているのかガシッ! と肩は強く掴まれたままだ。


「……ああ。もう男に戻りたいだなんて、思えなくしてやる」

「うん。これからよろしくね」


 そしてボクらは、中庭で口づけをした。

 ……皆がヒューヒューと囃し立てる声がうるさいけど、クロイスの幸せそうな顔を見ているとそれも気にならない。


 そのまま二人で見つめ合っていると、イブさんが近づいてくる。

 ボクらの恩人でもあるので、彼女なら無碍にできない。


「上手くいったようね」

「ああ。約束通り、イブ嬢にもついてきてほしい」

「え?」

「フフ、ハヤトのいる場所に私アリ、だから当然ね」


 ちょっと二人、何言っているかわかんないかなー。

 そんな感じで現実逃避していたら、イブさんにちょんちょん、とつつかれた。


「な、なにかな?」

「おめでとう。貴方は親友のクロイス王子を無事攻略できたようね。あとはハッピーエンドしか残っていないから安心しなさい」

「え、それって両陛下も許してくれるってこと?」

「そうね。詳しくは知らないけど、貴方が悲しむようなことはないはずよ。メインヒロインの私も一緒だし!」


 自らをまだメインヒロインと宣言するのは……と思ったけど、彼女は正真正銘ヒロインだった。

 もっとも本人には言えないし、ボクにとっては……だけど。


「それ、ボクがメインヒロインの株を奪ったってことになるけど」

「そうね。まさかハヤトがヒロインになるなんて……ま、未来なんて皆が幸せになれば関係ないのよ」


 結局、僕が姉さんに、いや……姉さんみたいな悪役令嬢になって親友を攻略するなんてありえない!

 

 ありえない! はず、だったんだけどなぁ……。


「ではハヤト、早速俺の両親へと報告へいくぞ」

「え!? 今からなの。ちょ、いきなり陛下にとか待って!!」

「何。今の俺らなら説得くらい余裕だろ。これからも傍にいてくれるんだろ?」

「その返し、卑怯じゃない?」


 せめてもの抵抗として、イブさんも道連れにする。


「え? ちょ、私は関係ないでしょ!」

「これからはイブさんも一緒なんでしょ! ほら、行くよ!」

「嫌ぁ! ただの庶民が陛下になんて会えるわけないじゃない!」


 二人でギャーギャー言っていても、クロイスはそのやり取りを微笑ましく見守っているだけだ。

 その笑顔に、ボクもキュンと……心が惹かれていたらしい。


 いつの間にかボクの心も、クロイスに攻略されていたのかな?


 不確定になった未来に答えられる人は、いなかった。



くぅ~(以下略

10月中に完結と宣言通り、これにて完結となります。


毎日更新の大変さを思い知りましたね……。

三ヶ月間、お付き合いありがとうございました!

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