アーサーとチャンス
すでにボロボロのセトにアーサーは驚きを隠しきれなかった。
ーーーシロにあそこまでやられたはずなのに
セトは手負いのはずであるがそれでも、まだアーサーとの実力差があった。セトはアーサーの斬撃を避けるか、腕に風をまとうことで剣の軌道を変えたりしてアーサーの懐に迫る。
「クソっ!」
アーサーはつい悪態をつく。何度やってもセトには剣が届かない。シロのほうもまだ嵐の中から出てこれなさそうだ。
「貴様はあの白いのが心配のようだな!」
図星のアーサーはセトに返す言葉が出ない。
「あやつの心配よりも自分の心配をしたほうが良いのではないか?貴様は魔法も使えぬただの人間。我に歯向か人間なぞ貴様が初めてだ」
セトはシロと戦っているときは分からなかったが戦っている時、常に笑っていた。今もアーサーと戦っているがセトは嬉しそうだった。
「ここまで我を楽しませた礼として貴様にチャンスをやろう。十分間、一撃でも我に攻撃を与えることができたら我は貴様を殺さず逃がしてやろう。ただし、できなければ我は貴様を殺す。さあ、どうする人間よ」
「いいぜ、受けて立ってやる。だが、俺だけじゃなくシロも一緒だ。俺とシロは一心同体、俺だけ逃げるなんてしない!」
「いい度胸だ。だが、あの白いのは我の妹を傷つけた!それは許すことなどできぬ!」
「なら、俺がお前に三回攻撃を与えることができたらお前はシロのした事を許してくれ。そして、この戦いの後、必ずシロにはおまえの妹に謝らせる。これならどうだ?」
少しの沈黙の後セトは再び口を開いた。
「.....いいだろう。だが分かっているな。貴様が失敗すればこのことはなかったことになるぞ」
「ああ、分かってる」
アーサーはこの賭けに乗るしか今の状況を打開し生き残るという方法は無いと思っていたからこそ今まで以上に強い覚悟ができた。
「では始めよう。さあ、どこからでもかかってこ...!?」
アーサーはセトが言い終える前に動き出していた。そしてセトの懐にたった一足で入り込み、ためらいなく剣を振り下ろす。セトはアーサーの異常なまでの加速についていけずワンテンポ反応に遅れるがギリギリのところで避けた。
「…まずは一撃」
セトは致命傷は免れたが僅かに斬られていた。
ーーーなんて速さだ!人間にこんなことができるなど聞いたこともない!ましてこの我が人間に後れを取るなどあってはならん!
セトは驚きと怒りを感じながらアーサーを睨みつけた時、セトは再びアーサーを見失った。
ーーーどこ行った!?
セトはアーサーを見つけようと首を左右に振る。そして気配を感じ上を見上げると、凄まじい気迫の込められた突きがセトの目の前に迫っていた。セトは反射的に回避行動を取りまたも致命傷を免れる。だが、さっきよりも深い傷がセトの顔に刻まれた。傷口からはドクドクと鮮血が流れ出てきており、セトの茶色い毛を真っ赤に染めていく。
「…二撃目、次で最後」
アーサーは一撃一撃に喜々することなく静かな雰囲気だった。しかしその眼には熱い闘志の炎が灯っている。
ーーー我が人間に本気を出すことになるとはな…
セトも気配が変わった。本気の状態だ。アーサーもセトの変化に気付き剣を強く握りしめる。次の瞬間、お互いの姿は消える。辺りには強い風と剣が生み出す金属音が奏でる不思議な空間がそこにあった。
七分が経過したあたりからアーサーの姿がだんだんと見えるようになってきた。そして、セトの攻撃を避けきれず剣で防ぐも勢いを殺せずに吹き飛ばされる。そこにセトは間髪入れずに攻め込んでくる。セトはアーサーに拳を突き出すがアーサーはそれを剣先を突き立てて軌道をずらす。アーサーはセトが体勢を崩したところを狙い、そのまま剣をふるうがまたも風がセトを守る。だがアーサーは剣の勢いをそのままに砂漠に勢いよく振り下ろした。それのおかげでアーサーはセトの追撃を免れた。
残りはもう二分もない。アーサーはあと一歩のところで苦戦していた。どうしてもセトの作り出す風の鎧がアーサーの攻撃を弾く。
「どうした!人間よ!もう残りの時間は一分ほどしかないぞ!」
セトは残りの時間を気にはしているが一番にはアーサーとの戦いを少しでも長く続けたいがための言葉だった。
ーーークソ、どうしたらいいんだ...あと、一撃なのに...
アーサーは残りの力を振り絞りセトに向かって走り出す。アーサーは戦闘の中で考える。
ーーーセトに認識されなければ...
一か八か、アーサーは最後の大勝負に出る。アーサーは体を右に向けて開き、剣の刀身を後ろにもっていき体と剣を一直線にすることで相手には剣を見えなくさせた。そう、剣を隠す。それがアーサーがセトの風の鎧を攻略するために考え出した策だった。
アーサーはセトに真正面から突っ込み剣を下から斜めに振り上げた。
ーーー最後はあっけなかったな
が、セトはそれを易々と避け拳の突きを食らわす。セトはそう思いながらアーサーを殺した。
しかし、、、
セトには全く手ごたえがなかった。ただ空を切っただけに感じられた。セトは驚きつつも後ろを振り向くとアーサーはまたセトの懐に入っていた。そう、アーサーはセトに対して凄まじいほどの殺気を放ち、セトはそれに翻弄させられたのだ。構えは先よりも体勢を低くしていた。
ーーー見事だ!我を騙すとは!だが、
セトは剣が当たるところに風を発生させる。アーサーはさっきと同じように下から振り上げるがその剣は風をすり抜けセトを斬った、ように見えた。
ーーーな、なに!?
アーサーの手には剣は無く、剣はまだ宙に浮いていた。なんと、アーサーは剣を振りぬいたようにセトを錯覚させたのだ。この一瞬の間にアーサーはセトを二度も欺いたのだ。そして振り抜いた時の回転の勢いを利用して再び剣を手にしセトに斬り込む。
ーーーいける!
アーサーは確信した。さすがのセトも反応が遅れ、剣がセトの風の鎧を突破しセトに最後の一撃が入る、と思われた
その瞬間、辺りは凄まじい地鳴りとともに砂漠が大きく揺れた。そのせいでアーサーは体勢を崩してしまいセトに剣が当たったか当たっていないような、そんな曖昧な感覚だけが剣を握る手には残っていた。セトはアーサーから距離を取った。そして地震が止んだ時、
「時間だ...」
セトは無慈悲にもアーサーにそう告げた。