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第二章 国家という愚獣 初篇

第二章です

初篇


 ガルヘントのフィーティア王、王位転覆事件から二週間が経過した現在。グルファクシはオメテオル共和帝国の空中戦艦やグラディウス等が修理保全などで停泊する高さ八千メータの高層ビル型空中港バベルタワー内部のポートに繋がれていた。

 バベルタワーで補修を受けるグルファクシ艦内の資料作成室の席でザラシュストラは、眼鏡を掛け、戦闘服ではない簡素な黒のフリースとGパンで黙々と調書の作成を行っていた。

 机の板は特殊な画面で構築され、その上をザラシュストラがペンでなぞると文字が画面に映りこみ画面に文書を構築する。ペンタッチ型電子入力機器で次々と文章を製作する横にサツキがいる。

「あ、そこチョッと変えた方が判りやすいですよ」

「そうか、判った」

 ザラシュストラは促されるまま訂正を加える。

 サツキの公式文書の製作能力が高い事を知っているザラシュストラは、その指導を仰ぎながら報告用文書を作成する。公式文書には様々な形態があり、その種類は数百種に及ぶ。その全てをザラシュストラは知っている訳では無い。だが、サツキはその全てを理解していると同時に、その文書に最も適した書き方も判っているので度々、ザラシュストラは頼むのだ。

「あ…」と、サツキはザラシュストラの入力ペンを持つ右手に自分の右手を沿え

「ここはこういう表現が適していますよ」

 スラスラとその表現を書き入力された。

「お、ありがとうな」

 ザラシュストラは感謝の言葉を告げた瞬間、ジョウドの狂気の笑みが過ぎった。

 サツキの表情がハッとする。サツキはザラシュストラと密着しているとその思考を読んでしまう。

 (しまった)とザラシュストラは添えられたサツキの右手から自分の右手を離したが、サツキが真剣な顔をして。

「あの人の事が気になるんですか?」

 ザラシュストラは入力ペンを置き、掛けていた眼鏡を外し。

「ああ…。ごめんな」

「怖い、恐怖、怯え。そんな気持ちが沢山来ました」

「そうだな…」

「それと自分も皆にはそう見えているのかと悩んでいる気持ちも…」

 ザラシュストラは頭を掻きながら。

「アイツと俺は同じ存在。アイツは俺を同族、兄弟と言っていた。間違いじゃない。俺はアイツと同じだ。だから、皆にもそういう風に見えているのかなって」

 と自分の両手の平を見詰める。

 その手にサツキが手を重ねた。

「サツキ?」

 とザラシュストラは顔を上げると正面にサツキの顔がある。

「フィーティア陛下やカグヤさんはザラシュストラのもう一つの正体を知っても怖くない。寧ろ、もっと早く知りたかった。そうすれば、アナタを助ける事が出来たと、言っていました」

「…だが、やっぱり知って欲しくなかった。知ってしまった以上、俺の運命に巻き込まれてしまう。前継承だった曽祖父ツラシュストラと同じように…」

 とザラシュストラは痛々しく悲しみを含めた笑顔を顕に

「俺もあの男、ジョウドと同じように狂えば良かったのかな? そうすれば、こんなに苦しむ事なんてなかったのかな? そうすれば、大切な人達を巻き込まずに一人で孤独に生きていけたのかな? 北方の覇王ヴィルヘルムなんか成らず、サツキや皆と契約なんてバカな事をしなくて良かったのかな?」

 ザラシュストラの前にサツキの困惑した顔が広がる。

「ごめんな。こんな、こんな事を言ってもどうしようもないな。後は自分一人で大丈夫だから、ありがとうサツキ」

 ザラシュストラは手を引いて眼鏡を掛け、文書製作に戻るとサツキが、ザラシュストラの背中に抱き付いた。

「…私は、ザラシュストラがどんな事になってもずっと傍にいますから」

 ザラシュストラは眉間にシワを寄せ

「サツキ、その感情は俺との契約によるモノだ。だから」

 と続きを告げようとしたが、その口は唐突に塞がれた。

 その口を塞いだのはサツキの唇だった。

 オッドアイの瞳を驚きで広げるザラシュストラの唇に重なるサツキの唇と瞳は閉じホホは赤く染めていた。

 ゆっくりとサツキは離れ

「お、おやすみなさい」と駆け足で消えて行った。

 呆然とするザラシュストラだが、まだ感触が残る唇を右手で触るとその表情は悲しみに変わる。

「よう、ロメオ(色男)」

 と何処からともなく流しの金髪で軟派そうな男が現れた。

「ニクス…」

 ザラシュストラは男の名前を告げる。

 ニクス、オメガ兵団の一人。契約者にしてオルフェウス(無限鋼糸)の能力者である。性格は胸元が開いたワイシャツに美形の顔と、軟派な女垂らしその者である。

 ニクスはザラシュストラの左の席に座り

「いや― 羨ましいね。あんなに思われて男冥利に尽きるんじゃない?」

 ザラシュストラは呆れたように肩を竦め

「サツキのあの感情は契約によるモノだ」

「そうなのか? もしそうなら俺にもその影響がある筈だけど、全くないぞ」

「サツキは、あの子は、特に人生を縛る位に強い契約だから。サツキの契約は、俺との間に子孫をもうける事だ。だから、影響力が強い」

「でもよ。そうだとしても、サツキちゃんがかわいそうじゃないか?」

「どうして?」

「だってお前はその気持ちに応えていないじゃん」

「当たり前だ。契約の影響を受けているだけで本心じゃあない。だが、何時かその本心に気付いて精神が拒絶反応を起こす。その時、契約の破棄をして貰う。俺からは破棄が出来ない。その権限は契約者にある。それを早める為に相応の距離を取っているんだ」

「そうかい…。でも、俺にはサツキちゃんの行動が本心から来ているように見えるだけどなぁ…」

 ニクスは横目でザラシュストラを見ると、ザラシュストラは文書の作成開始した。

「どっちが先に折れるのかね?」

 ニクスは薄ら笑いつつ

「俺は、ザラシュストラが折れる方に賭けるけど」

 ザラシュストラは無言で返事をする。

 ニクスは「はいはいそうですか」と肩を竦めて席を立ち

「ザラシュストラ。もしあのガルヘントの陽動をぶち壊しにした白髪のヤツとやる時は俺を呼んでくれよ」

「リターンマッチか?」

「ああ…このニクス様の麗しい美顔に掌手を叩き込んだ事を後悔させてやるのさ」

「善処しておく」

「善処じゃねえ。絶対だ! じゃあなザラシュストラ」

 ニクスが去って行った。

 ザラシュストラの脳裏にジョウドの姿が過ぎる。そして、ジョウドが放った視覚出来ない強力な圧力を思い出し…。

(なんだ。あの力は、元からある特殊能力か?)

 と思案を巡らせていると、ジョウドと共にいたレミという乙女を思い出した。

 レミはジョウドと契約している。ジョウドに髪から血の一滴までジョウドのモノであるという強烈な契約である。そして、相当な憎悪を向けられた。それはまさに復讐の憎悪。思い当たる節はある。北方の覇王ヴィルヘルム繋がりであろう。

 ザラシュストラは机に両肘を置き両手を重ね、その手に自分の額を当て苦悶する。



 数日後、ザラシュストラはゼロスと共に南方の大陸にあるキリアス国の空港にいた。昼頃の空港は人でごった返し、その中をザラシュストラは紺のズボンに薄めの黒い長袖に左腕へ外套を抱え

「やっぱり南方は暖かいなゼロス」

「ああ…そうだね」

 とゼロスは黒を基調とした薄手のスーツに上着を右腕に抱える。

 ゼロスはザラシュストラと歩きながら。

「しかし、良いのかい? 普通に高速飛行船で入国するなんて居場所を教えている様なものだぞ」

 ゼロスは飛行船の停留広場を向く。丸く横長に伸びる飛行船の外周に装着された円錐の白い柱状の機械、音速を超える為に空気抵抗の壁を破壊するハイ・トランジランサー(空気抵抗破壊振動子)と、前後左右と飛行船の種類によって位置が違う赤い菱形の電磁エンジンが高音と光を放ち、各停泊所から出発停泊を忙しなく行っている。

 ザラシュストラは肩を竦め

「そのつもりなんだから」

「はあ?」とゼロスは首を傾げる。

 ザラシュストラは微笑しながら

「ガルヘント叛乱の時、ミラトのエティアや、サラサのアルマデルを防ぐ結界のような力が働いて首都アルカディアの様子が探れなかっただろう?」

「ああ…」

「あの、俺達オメガ兵団の存在が気に入らない南方の大国メリアス衆合国が提供した情報通りここにあの男、ジョウドがいるなら…。必ずミラトとサラサの観測能力を阻害する力を使って重要な場所と姿を隠している筈だ。だから、俺達が囮となってジョウドの回りに引っ付いている腰巾着を引っ張り出すのさ」

 ゼロスは右手で頭を抱え

「つまり、荒事になると…」

「そういう事」

「何で僕とザラシュストラなの?」

「市街戦になった時に融通が利くのって俺とゼロスかニクスしかいないだろう」

ゼロスは「ハア…」と大きな溜め息を吐き。

「そういう事は始めに言ってくれ」

「それを言ったらゼロスはついて来ないだろう?」

「…まあ…当たり前だけど…」

「それに、人を使う事を知らないねってゼロスが言っていただろう? だから使ってみた」

「…余分な事を言うんじゃなかった」

 ガックリ肩を落とすゼロスの背中をザラシュストラは押し

「まあ、いいじゃないか。偽情報だったら観光で終わるって」

「僕は全くそんな気がしない」

 不安を露にするゼロスと共にザラシュストラは外へ出る。


 二人は適当なタクシーを拾う。タクシーはアルツクォーク式電磁増幅装置の稼動するヒュイーンという独特な高い音を放ち車両は走り出した。


シャンバラではアルツクォークと呼ばれる赤い結晶の鉱物によって機械的動力全般が生み出されている。アルツクォークに電流を流すと数十倍にして放出する特殊な効果を使って様々な車両や工場の動力、果ては電熱コンロなどの一般用途まで使われ、シャンバラの人間世界に於ける根幹を支えている。


タクシーで、ザラシュストラは左の助手席に、ゼロスは後部座席に座り移動する風景に目を通す。

そして、タクシーが空港から離れた所で、助手席のサイドミラーをザラシュストラは見詰めると、後方にいる車両の人物が座席に屈み、軽機関銃を取り出す様子が見えてしまった。

タクシーの運転手が

「お客さん。どこの出身? ご旅行の目的は?」

とお馴染みの営業トークを繰り広げる。

ザラシュストラは「フ…」と呆れた顔をして肩を竦め

「早すぎだろう。なあ、ゼロス」

 と後部座席のゼロスに振る。

「そうだね…」

 ゼロスは眉間に右手を当て苦悩する。どうやら、ゼロスもザラシュストラと同じ様子を見たようだ。

 唐突にタクシーの運転手は懐から拳銃を取り出し、ザラシュストラに向け

「ようこそ、オメガ兵団の方々。悪いがアンタ等はここで消えて貰う。悪く思わないでくれよ」

 ザラシュストラは左手で頭を掻きながら

「後ろで追っている連中はお仲間か?」

「ああ、そうだ。アンタ等が来る時間を見計らって」

 ヒュンと風を切る音がタクシーの運転手に扮していたエージェントの拳銃の下で発した瞬間、エージェントが構える拳銃の先端が消えた。

 拳銃の先端を切り裂いたのはザラシュストラの右手から現れたイースピアの刃だった。

「はあ?」

 エージェントが間の抜けた声をしたのが運の尽きである。

 ザラシュストラは、エージェントの顔面に左の鉄拳を叩き込み、エージェントが運転席の右ドアに自分を叩きつけ、ザラシュストラは右手のイースピアを指揮棒のように振るう。運転席のドアが切り裂かれ、ザラシュストラはイースピアを握り締めた右手でエージェントの顔を殴ると、エージェントは外に飛び出し道路に転がった。

 素早くザラシュストラは運転席に回り

「作戦成功!」

 と運転を始める横の助手席にゼロスが移り

「何が成功だ…。全くロードギアスの言う通りもっと考えて行動してくれ」

 ゼロスが助手席の窓を開けた次に、後方で待ち構えていたエージェントの仲間の車両達が銃撃を始めた。

「飛ばすぞゼロス」

 ザラシュストラはアクセルを最大まで踏み

「全くこんなトラブル、二度とごめん被りたいね」

 ゼロスが左腕を外に伸ばすとその周辺の空間から漆黒の鋼板が発生し、互いにプレスし合い漆黒のガトリング、エウリュトスを創造した。

 ゼロスのエウリュトスが轟音と火花を放ち後方にいる敵車両を弾幕で粉砕する。

「流石!」

 と誉めて運転するザラシュストラの右側に銃ではなく対戦車ロケット砲を構える車両が現れた。

 ザラシュストラは素早く右手に握るイースピアをその車両の前方のタイヤに投擲する。

 パンクを起こした車両はスピンをして行くが、ロケット砲の砲弾だけは発射された。ザラシュストラは自分の能力である身体加速をする。体のあらゆる器官が世界とは別の時間に飛び込み世界が緩慢になって、ゆっくりと向かって来るロケット砲弾を視認する。

世界が緩慢となる領域にいるザラシュストラは、再度イースピアを右手に創造し、ロケット砲弾に投擲、その砲弾の先端にイースピアが突き立った。

ザラシュストラは世界が緩慢となる身体加速を解いた。

二人の乗る車両の右でロケット砲弾が爆発する。

車両は大きく振られるも、ザラシュストラはハンドを的確に操作して体勢を戻した。

「市外に行くぞゼロス!」

 と声を張って運転するザラシュストラ。

「はいはい。お好きに」

 ゼロスは呆れながらエウリュトスで後方にいる敵車両を叩く。


 激しい銃撃のカーチェイスを繰り広げる一行は市外を離れ、閑散とする平野の一本道に入る。

 ザラシュストラは前方で急カーブして崖になっている先に

「お、なんだ丁度いい所があるじゃあないか」

 と更にザラシュストラはアクセルを踏む。

 このまま、直進すれば崖に突っ込む勢いで加速する車両。

 ザラシュストラはハンドルから両手を離し、両手にイースピアを創造して構えると、車両の天井を切り裂き、オープンカーにしてしまった。

 ゼロスは顔面を蒼白にして。

「まさか…」

 と何か思い当たる事があるようだ。

 ザラシュストラはゼロスに微笑み。

「そう、車両から飛び出して向こうの崖までジャンプする」

「…む、無茶だ…」

 ゼロスは否定する。なぜなら、その向こう側の崖まで目算でも三十メートルはあるのだ。

「大丈夫、加速が足りない分はゼロスのエウリュトスの発射反動で稼いでくれ」

 とザラシュストラはサラリと、さも当然の如く告げた。

「…もう、本当に最低だ!」

 とゼロスが叫ぶ頃には、崖寸前である。

 ザラシュストラはゼロスを左肩に抱えて立ち上がる。

 そして、その瞬間が来た。最大速度に加速した車両は一直線に崖から発射した。

 即席の飛び出しに関らず、二人を乗せた車両は綺麗な孤を描いて真っ直ぐに、目的の対岸の崖に伸びる。だが、その勢いも半分の距離で失速し、落下する瞬間にゼロスを左肩に抱えるザラシュストラが飛び出す。

 抱えられて後ろを向くゼロスは、エウリュトスのガトリングをその後方に伸ばし豪射する。

 エウリュトスの発射反動で二人の飛翔速度は加速度的に上昇し、見事ザラシュストラ達は対岸の崖に着地した。

 ザラシュストラはゼロスを肩から下ろし、向こう側にいる敵を見詰め。

「おおお、奴さん。驚いているぞゼロス」

 ゼロスはその傍で両手両膝を地面につけ馬なりでうつ伏せ

「もう、こんなの勘弁してくれ…」

 と疲れきっていた。

「やれやれ」とザラシュストラは呆れていた傍で上空から光の球体が降り立った。

 地面の数十センチで浮かぶ光の球体はその光を拡散させ、幾何学模様の円環に囲まれるアルキメスのトゥーラ、ユリの姿がある。

 アルキメスの円環の中央にいるユリは見下ろす高さの空中で。

「ガルヘントの時も思いましたが、もっと静かに来る方法ってないんですか?」

 と訝しい表情を浮べていた。

ザラシュストラは微笑み

「別にいいじゃん。でも、この騒ぎでキリアス国内の通信が激しく飛び交ってあの男の位置が大体判っただろう?」

 ユリは賛同していいのか、否定していいのかと迷う顔をしながら

「でも。何か…」

「それで良しだ」

 とザラシュストラは頷いた。

 ユリは大きく呆れたように「フウ」と溜め息を吐き

「まあ、いいです。早く中に入ってください移動しますから」


ユリの飛行アルキメス(幾何学魔導)に運ばれザラシュストラとゼロスは、とあるビルの屋上に到着した。

「こっちです」とユリの案内でビルの中を巡るザラシュストラとゼロスは、応接間に通される。中央にテーブルと四方を囲むソファー、壁には絵画と外が一望出来る大窓の来客用、しかも上客であろうと察する事の出来る客間である。

 ザラシュストラは応接間の大窓から見える風景に目を通す。高さは三十階位で、周囲にあるビル群と同じ高さである。

「ここは、何処なんだ?」

 とザラシュストラは尋ねる。

 ユリは応接間の中央にあるソファーに座りながら。

「ヤハギリ商社です。もちろん、商社としての仕事もチャンとやっていますが、極一部に朱日国の首相調査官が勤める部門があります」

 ザラシュストラは「ああ…」と納得した表情を浮かべ。

「つまり、民間企業を隠れ蓑にしたスパイ機関ね」

 ゼロスは、ソファーに座りながら

「で、メリアスが言っていた僕達に援助する協力者って君と朱日国政府なの?」

 目の前に置かれたテーブルの上にある紅茶に口をつける。

「はい。それと…あなたは始めましてですね。ユリ・タカハラです」

 とユリは向かい合うゼロスにお辞儀をした。

「いやいや、こちらこそ…よろしく」

 ゼロスも同じくお辞儀で返した。

 ザラシュストラは外を見つめながらゾリューで交信を始める。

ミラト…どうだ?

 キリアスの上空百キロで静止するグルファクシの庭園型司令室のドーム状室内中空で能力全開の、白黒の縞模様の金属翼を両肩に広げるミラトと繋がる。

“バッチリよ。キリアスにいるジョウドを援助している連中が忙しくなく動き回っているわ。揺さぶり成功ね。今、私のエティアとサラサのアルマデルを使って人の動きを追い、サツキとイツキのゾリューの通信傍受による情報収集を行っているから、明日には何処にいるか掴めるわ”

そうか、判った。引き続き頼む

“了解!”

 とゾリューが終わった。

「あの…」とユリがザラシュストラの後ろに立ち。

「どうした?」

 とザラシュストラは後ろを振り向く。

「今日はここに泊まったほうが良いかもしれませんよ。実は、先程…お二人が泊まる筈だったホテルが襲撃されたらしくメチャクチャになったと連絡がありました」

「はあ…敵さんも必死だね」

「ここでしたら多分、安全だと思いますし。それに、私がいればアルキメスを使って直ぐに逃げる事も出来ます」

「判った。じゃあ、頼む」

「はい」


 夜、ヤハギリ商社の簡素な守衛用宿直室でザラシュストラとゼロスは寝袋に入っていた。ユリが気を利かせて「チャンとしたお部屋を用意します」と言ったが、ザラシュストラとゼロスは首を傾げ「おいおい、何時、敵に襲われるかもしれないのにお行儀良く寝る事なんて出来ないだろう」と二人は驚いた。

 ザラシュストラは東方の朱日国独自の文化である畳の上で寝袋に入りながら。

「なあ、ゼロス…」

「ん? 何?」とゼロスは左に寝袋置き、壁にもたれ掛かって本を読みながらザラシュストラに返事をした。

「ユリって子は普通の女の子なんだな」

「そうだね。何時、敵の襲撃があるのにチャンとした所で寝ましょうなってビックリだったな。そんな普通の女の子がなんでこんなヤバイ事に関わっているのかな?」

「…半月前にあったガルヘントの事件に助力した俺と同じ存在のジョウドっていう男の事をユリちゃんは(お兄ちゃん)って呼んでいたんだ」

「え! じゃあ、兄妹なのかな?」

「そうだろうな…。そうなると、それを差し向ける大人って酷いよな」

「妹を出汁にしてか…」

 二人は自然と黙ってしまう。

 そこにコツコツと部屋のドアに近づく足音に、二人の視線が鋭くなりドアを睨む。

 ザラシュストラは寝袋から出てイースピアを構え、ゼロスは左手にエウリュトスを創造しドアの右壁に体を付かせる。

 ドアが一回、二回、三回とノックした次に数秒間隔を置いて一回ノックがあった後。

「私です」とユリの声がした。

 ザラシュストラと、ゼロスは構築した武器達を消してゼロスは、元からあるドアのロックを外し、自前のノブが破壊された場合に警報が鳴る装置も解除してドアを開ける。

「お帰り」

 とゼロスはドアを開くと寝袋を抱えるユリが立っていた。

「遅くなりました」

 ユリが部屋に入った後、ゼロスはドアのロックを掛ける。

 ユリは自分の寝袋を畳に広げていると。

「いいのか? 別に俺達と一緒に就寝を共にする必要はないぞ」

 ザラシュストラが気遣う。

「いいえ。大丈夫です。それにもし逃げる場合はこの方が、都合が良いと思います」

 ユリは微笑む姿にザラシュストラは

「判ったよ」と寝袋に入る。


真夜中の一時に差し掛かる。ユリを真ん中に左にゼロス、右にザラシュストラと寝袋で川の字に眠る三人。その部屋の入口には小型の対人センサーが置かれていた。

ユリがゆっくりと目を開けて右にいる仰向けのザラシュストラの方を向き。

「起きていますか?」

「ああ…」

 とザラシュストラの返事が返って来た。

 ユリは少しだけ驚き瞳を大きく開くも平静に戻り。

「あの…レミがあなたの事をダークネス・ドラグラー(魔龍帝)っていましたが…。本当ですか?」

 ザラシュストラは目を開き視線を天井のまま

「ああ、本当だ。俺は三年前に北方を破壊した覇王ヴィルヘルム、ダークネス・ドラグラーだ」

「そうですか…」

 ユリは悲しい顔になり、その表情を寝袋の縁に隠す。

 ザラシュストラが、顔を隠すユリに尋ねる。

「レミという女の子は北方の出身なのか?」

 ユリは頷き

「三年前の北方覇王戦争が起こった時に兄さんが保護して連れて来ました」

「そうか…」

「…なんで北方の王様達と戦争をしたんですか?」

 ユリの問いにザラシュストラは目を瞑り。

「俺の力不足で戦争という最悪な事態で解決を図るしかなかった」

 ザラシュストラはユリに顔を向け。

「なあ、チョッと聞いて良いか? ジョウドという男と兄妹なのか?」

「はい、私と血の繋がった兄です」

「そうか…。酷いよな、妹を使ってお兄さんを探せなんて命令されて…」

「違います。私が自分で言い出したんです」

「へ? 自分で、どうして?」

「助けたいんです…」

「…助けたい?」

 ザラシュストラは余りにも真剣なユリに釣られて言ってしまった。

「ガルヘントの時に見た兄さんは私の知っている兄さんじゃあなかった。きっと何かあって、それで三ヶ月前に…。だから、あってチャンとお話して力になれるなら力になりたい」

「…そうか」

なんていい子なんだ…と、ザラシュストラは目頭が熱くなった。

「明日は、その居場所が判る。そうしたら、直ぐにそこに侵入する。きっと会えるから休んで置こう」

 とザラシュストラは微笑む。

 ユリは目を丸くした後、ホホを赤く染め。

「やっぱり、ソックリ。なんかお兄ちゃんと話しているみたいです」

「へ?」とザラシュストラは間抜けた声を放った。

「オヤスミなさい」

 と、ユリは寝袋に顔を隠してしまった。

 ザラシュストラは天井を向き「オヤスミ…」と明かりの消えた蛍光灯を見詰め…。

(そうか、似ているか…。同じ存在、エ・フォネスト・ドッラークレス・レイコスとエ・ルーネスト・ドッラークレス・レイコスだからかな? だが、なぜだジョウド? お前の事を助けたいと思う大切な人がいるんだぞ。同じ存在なの俺にはお前の行動が理解できない)

 ザラシュストラは静かに目を閉じた。


まだ、続きますよろしくです

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