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人間賛美と怨嗟 中編

次です

中篇


 夕日が地平線に近づく頃、グルファクシはガルヘント大将軍の屋敷に到着した。

屋敷の入口で、グルファクシを背にするザラシュストラが。

「フィア、カグヤと王妃達の事は任せろ。俺が直ぐに占拠されたアルカディアから救出して合わせてやる。お前は叛乱を沈静化させる事に集中しろ」

 正面にいるフィアの肩を叩いた。

「ザラ兄…」

 フィアは目を丸くして驚く。国内の混乱を鎮圧する事に決心したとはいえ、本心はやはり王妃達の事で一杯であるフィアは、悟られないように振舞っていたがザラシュストラには見え見えだったようだ。

「ああ、判ったよザラ兄」

 と苦笑交じりの(参ったな)という笑顔を見せた。

ザラシュストラはフィアの後ろにいるフィアの護衛と叛乱制圧に助力する事を頼んだロードギアスとゼロスに。

「すまん。俺の勝手でこんな事になってしまった」

 ロードギアスは鋭い視線で。

「自分の契約は(ザラシュストラを王にさせ続ける事)だ。王の考えだと判断して付き合ってやるが…次はもっと考えて行動しろ」

 ゼロスは笑顔で。

「まあ、僕の契約は(ザラシュストラを助力する事)だから、任せてくれよ」

「ありがとう」

 ザラシュストラは感謝の言葉を述べてグルファクシに戻った。


外の景色をドーム状の壁全面に映し出す庭園型司令室でザラシュストラは、ガルヘントの大将軍の軍隊と合流したフィアの後ろにロードギアスとゼロスの、遠ざかる姿を見詰めた。


庭園型司令室のドームの間でザラシュストラは、水晶ベンチに座り右手でアゴを摩りながら…。

さて…どうする? ミラトのエティアとサラサのアルマデルを妨害する相手だ。どう対処する。

思案を巡らせていると、中空でゾリューの力を展開し白黒の縞模様の金属翼を広げて通信を司っている双子の姉のサツキと、青い髪をストレートに伸ばしサツキと同じ青色の制服に身を包む姉のサツキとは真逆の朧な月のように儚い美少女の妹イツキの、二人が。

「イツキ!」

「うん。これは国内に向けた高出力通信だよ。サツキ」

「首都アルカディアから通信を探知しました」

 とサツキは声を張った。

 サツキの右で同じ高さに静止してエティアを展開するミラトが「映像を出して!」と声を張り上げた。


 外の情景を映すドーム状の壁半分程の立体画面が展開する。そこに映る風景は、夕刻の差し掛かる噴水の広場である。

 ザラシュストラはその広場に覚えがある。

「首都アルカディアにある王が住むリーシャ城の内の庭園か…」

 と呟く頃に勲章を多量に下げる豪華な礼服に身を包む五十代と六十代の紳士の姿が現れた。

 六十代の紳士は軽く咳払いし。

「まずは、強力な電波による。通信の拝借について謝罪しよう。私はレーテンド・ルード・ソーディス。この国で大公をしている者だ。彼は…」

 叛乱の首謀者ソーディス大公が自分の左にいる紳士に手を伸ばし。

「ガーネンド・ガータ・ウインド公爵である」

 ザラシュストラは皮肉な笑みを浮べ

「正義の味方気取りか?」

「黙って」

 ミラトが釘を刺す。


 ソーディス大公は真っ直ぐと画面を見詰める視線で。

「なぜ、我々がこのような事を起こしたのか?と諸君達は疑問を感じているだろう…。我々の目的は現王であるフィーティア・ラ・ガルヘントの王位返還である! 諸君達もご存知であろうが、現王の上には、王に相応しい血筋と品格を備えた三人の王位候補がいた。だが、その三人は互いの謀殺により亡くなったと公式に発表されたが…。真実は間違いである。現王フィーティアにより暗殺され、そればかりか…前王もその手にかけたのだ。その真実を様々な方法で訴えたが全て、フィーティアに握り潰されてしまった。そんな事があっても良いのか! それは断じて間違いである」

 ザラシュストラは呆れ始める。

マジか。要するに自分達は正義の味方であって、悪はその王にあると…。愚かな権力を狙う連中と同じだ。

 とザラシュストラは右手を上げ。

「ミラト、見ても意味ない。切ったらどうだ?」

 ミラトはザラシュストラの言葉に沈黙で応えた。

「はいはい…」とザラシュストラは(見る価値無し)と判断して踵を返したが。


「我々には、この間違いを正す為に用意した力であるアルメット(超圧縮核反応兵器)とグラディウスの戦艦を保有している」

 とソーディス大公の発言にザラシュストラは百八十度方向転換した。

 立体画面に、首都アルカディア上空に静止するグラディウスが映り、次に別の広場を映し出す。

そこに映るのは、高さ三メータ前後の真っ白い円柱が地面から数十センチほど浮き、その円柱に数本もの配線が接続され、周囲に設置した操作機器に繋がる。


 アルメット(超圧縮核反応兵器) 南方の大陸の大国、メリアス衆合国だけが保有する強大な爆弾である。その仕組みは、中核加速機とされるの内部で一個の量子を発生させ、その量子にエネルギーを与え続ける圧縮加速により量子の力を強大化後、量子を放出する。その爆発力は千キロ四方を完全消滅させる。機器の詳しい構造は極秘とされ、設計者や開発の経緯等は全く世に知られていない。


ザラシュストラは、驚愕な事実に呆然としながら画面を見詰めていると、アルメットの機器を一人で操作する人物に視線が、何故か固定された。

僅か数秒の出来事だろう。

アルメットの操作機器を扱う人物。

それは真っ白な新雪と同じ色の髪に、その純白と同じ外套を纏う背中が振り返る。

男である。年齢はザラシュストラと変わらない。その男が薄っすらと、口を横に伸ばし笑う。その笑いはまるで肉食獣が捕らえた獲物に牙を突き立て歓喜する様と似ている程の狂気さが漂う。

男の体格は肩幅が張り強固さが滲む躯体には、純白の外套と同じ白さを誇る上下が一体化した服は両腕の袖が長い東方の伝統様式にある振袖形状は、まるで御使い神官のような威圧を放っている。

何より特徴的なのは、ザラシュストラと同じ東方に多いモンゴロイドの顔立ちに輝く瞳である。

夕暮れの落ちた明かりに関らず右眼は怪しく艶やかな金色に輝く金眼。左眼は空の青より深い紫に近く光がその色に吸い込まれそうに深い蒼眼だ。

ザラシュストラの時間が止まる。まるで世界だけがザラシュストラを置き去りにしたかのように…。唯一、ザラシュストラと時間が同期しているのは、立体画面に映る。右が金眼、左が蒼眼、と真っ白の服を纏う男だけである。

その男の口が動く。その動きだけがザラシュストラに判る。まるで、男がザラシュストラの精神に直接、呼びかけるように…。


―ハハ、始めまして、エ・フォネスト・ドッラークレス・レイコス(是に異端する超龍の真正の証明)よ。私はエ・ルーネスト・ドッラークレス・レイコス(是に流転する超龍の真正の証明)だ…。よろしく


ザラシュストラは男の言葉を理解した瞬間、全身が凍て付く程の寒気に襲われ、体を小さく縮めた。

立体画面の映像がソーディス大公とウインド公爵の方に変わる。演説を始める映像を他所に。

ザラシュストラは、縮め震える両手を動かし、目の前の持ってくる。水に濡れた手のように溢れ出す手汗、ザラシュストラの脳裏に一つの言葉が過ぎる。

恐怖である。ザラシュストラの全身を恐怖という感情が駆け巡る。

得体の知れない恐怖に怯えるザラシュストラを他所に。

「フィーティアは自分の妃達を見捨てて逃げた卑怯者である。そのような者に王など任せられない。さあ、立ち上がろう! 今こそ、この国で生きる為に、戦う時である」

 ソーディス大公の演説が終了した。


数時間後、グルファクシ内のドーム状の庭園型司令室では、立体映像で構築されたミニチュアの首都アルカディアの周りに、ザラシュストラ、ミラト、サラサにサツキ、イツキの五人が集まっていた。

サラサがミニチュアの上部を指差し。

「現在、首都アルカディア上空にはグラディウスが静止している」

グラディウスの小さなミニチュアが現れる。

「それを頂点としてピラミッド型の私のエティアと、サラサのアルマデルを阻害する結界のようなモノが張られて、首都の様子が全く判らない」

 ミラトの動く指先に合わせて、グラディウスを頂点として首都アルカディアを覆うピラミッドの映像が描かれ。

「さて…どうするの?」

 と、ミラトは右にいるザラシュストラに視線を向ける。

 ミラトに同期するように全員の視線がザラシュストラに集まるも、当の本人は先程の映像にあった男の事で上の空であった。

 無言のザラシュストラに、ミラトは右肘を入れ。

「チョッと聞いてるの? ザラシュストラ」

 ザラシュストラの意識が上の空から帰還して目線をミラトに向け。

「ああ…聞いているよ。どうするか、だろう?」

 ザラシュストラは、ミニチェア映像のグラディウスの真上を指差し。

「侵入する経路は、グラディウスの上空から降下してアルカディアに侵入する」

 ザラシュストラの指先がアルカディアのミニチェアを指し。

「その後、王妃達の捕まっている場所に潜入して、王妃達をアルカディアの外に連れ出しグルファクシで保護という算段だ。まあ、アルメットの事とか色々とあるけど…今はそれが優先だ」

 ザラシュストラの左にいるサラサが

「王妃達の捕まっている場所なんて直ぐに判るの?」

 と首を傾げる。

「大丈夫。そんな事が出来る場所なんて限られるし、中に入れば否応無しにそういう情報は飛び交う」

「へ…そうなんだ」

 とサラサが納得しているとミラトが。

「だったらサツキかイツキのどちらかを連れて行って」

「はあ?」

 ミラトの予想外な申し立てにザラシュストラは首を傾げた。

 ミラトは自分の正面にいるサツキとイツキを見詰め。

「サツキとイツキには、契約の力以外にお互いにしか交信できないテレパシーのような力があるの。多分、敵は私達の契約の力だけを阻害しているから使える筈…。二人のどちらかを連れてこっちとテレパシーで交信すれば内部の詳しい状況も判るし、王妃達を救出した場合に直ぐにグルファクシで駆け付けられる」

「ああ…なるほど」

 ザラシュストラは首を縦に大きく振って頷きサツキとイツキの方を見詰めると、サツキが素早く挙手し。

「私が行きます」

「じゃあ決まりね」

 ミラトは即決定を下し。

「サラサ。目的の上空に何か不審なモノがないか探るわよ」

「はいはい」

 とサラサが続き、お互いのエティア、アルマデルを最大展開してドームの中空に上昇した。

「おい、待て。俺はその提案を飲み込むとは言っていないぞ」

 ザラシュストラは中空に昇ったミラトに呼びかける。

「ザラシュストラは女の子一人守れない程に弱いの?」

 と中空からミラトが投げた問いに。

「そんな訳無いだろう!」

「じゃあ、別に構わないでしょう」

 ザラシュストラは何も言い返す事が出来なかった。


 日が落ちた夜のアルカディ上空一万五千メータの高さにグルファクシが静止していた。


 グルファクシ、底部の輸送ゲート室に対降下用スーツに身を包むザラシュストラとサツキの二名がいた。

 ザラシュストラは右手を挙げ、対降下用スーツに包まれた右手を握ると、ギュッと生地が擦れる音をさせて感触を確かめ。

「サツキ、準備はいいか?」

「はい」

サツキは歯切れ良く答えた。

ザラシュストラと同じ対降下用スーツに身を包むサツキは、ホホを赤く染めて照れ臭そうにザラシュストラ正面に来て。

「あ、あの…よろしくお願いします」

「う、うん…」

 ザラシュストラは、サツキの初々しい恋人のような反応に戸惑うも、互いを離れないように結ぶ腰にある接続ジョイントを伸ばし、サツキの接続部分と繋げ離れないように互いを密着させる。サツキの背中がザラシュストラの腹部と密着した状態で、サツキがザラシュストラの顔を見上げ。

「あの…手を…握っていてもいいですか?」

「え、ああ…」

 ザラシュストラは左腕を差し出すと、サツキは両手で左腕を抱え込み。

「エヘヘ…落ちるのって怖いじゃないですか。これで怖くないです」と嬉しそうにサツキは微笑む。

 ザラシュストラは、サツキの可愛らしい反応にどう対応すればよいか困り右手で頭を掻いた。

 そこに…。

「二人とも準備はいい?」

 ミラトのアナウンスが流れる。

「ああ…何時でもやってくれ」

 ザラシュストラが答えると、ガックンと床が下がり始め夜景のアルカディアが広がる。

 上空の冷たい強風がザラシュストラとサツキを襲う。サツキは強風に顔を背けザラシュストラの左腕を強く抱き付く。ザラシュストラは強風などに微塵も動じる様子も無く威風堂々とする。

 ミラトのアナウンスが続く

「二人が降下したと同時に、アルカディア上空五千メータに位置するグラディウスに向けてジャミングを二十分間発射するわ。時間内に上手く降下して」

「了解」

 ザラシュストラは頷き。

「サツキ、行くぞ!」

「はい!」

 サツキはザラシュストラの左腕に顔を埋める。

 ザラシュストラは、サツキの両足を右腕で抱えて走り、ゲートから外に飛び出した。

 突風と無重力がザラシュストラとサツキの二人を包み、ザラシュストラは小さくなるグルファクシを視認する。

 上空一万五千メータから降下する二人の落下速度は上昇し、夜景のアルカディアが近づく。その夜景は占拠された事が嘘と思える程の美しさにザラシュストラは。

“サツキ…サツキ、夜景が綺麗だぞ”

 ゾリューでサツキに呼びかける。

“ご、ごめんなさい。怖くて目が開けられません”

 サツキの左腕に抱き付く力が強くなる。

“あ…そうか、すまん”

 ザラシュストラは右腕もサツキに添えると、サツキは右腕も抱え込み子猫のように小さく丸まる。


 降下する二人は、五千メータラインにいるグラディウスの横を過ぎり、ザラシュストラがゾリューでミラトに呼びかける。

ミラト、聞こえるか?

 ギイイ――とザラシュストラの脳裏に鉄を削るような音が響き頭を振る。

 能力を阻害する領域に入った事を確認したザラシュストラは、眼下のアルカディアを見渡し降りるに最適な場所を探していると、空中に金属のⅤ字翼を持つ二体のダロス達が飛行している姿が目に入り込んだ。

 グルファクシの放つジャミングにより探索レーダが妨害されたので、警戒の為にダロスが巡回しているのか?とザラシュストラは考えるも、二体のダロス達の四つ目が、明らかにこちらを凝視していた。

(見付かった!)

 ザラシュストラは両腕でサツキを強く抱き締め、身を細くし空気抵抗を低減させ落下速度を加速させる。

 今までの倍近い速さで落ちる二人に追い付く為、ダロス達も速度を上げた。

 落ちるザラシュストラ達の加速は限界を向え、二体のダロス達は二人を囲む。

 クソと、ザラシュストラは舌打ちする。

 囲む二体のダロス達は、二人を捕縛しようと巨大な手を伸ばす。

 ザラシュストラはダロスの巨手を睨み…。

レイコスを発動するしかない!と、オッドアイの双眸が青く輝きレイコスが発動する寸前、ザラシュストラ達の足元から真っ白な光源の球体が現れ、素早くザラシュストラ達を球体が取り込んだ。

 ダロス達は、例の如く突発的な事態に対処が出来ず回避行動をする。その隙に、一瞬でザラシュストラ達を飲み込んだ光の球体は残像を残す高速で、直角的なラインを描きながら首都アルカディアへ消えてしまった。


 ザラシュストラとサツキを取り込んだ光の球体は、無人の公園に降り立つと、光の球体は天辺から、巻かれた糸が解れるように分解し姿を変える。

そこには、二メータ程度の空中に光の文字で幾何学模様が描かれた文字の円環の中心でサツキを抱えて唖然と浮かぶザラシュストラの正面に、少女が同じ高さで浮かんでいる。

夕日のように暖かい色の赤いショートの髪に藍色の外套と白の上着に紫色の短いスカートの下へ細い足を覆うタイツを纏う少女はザラシュストラ達の方を向く。

 夕日と同じ赤い瞳に子猫のように丸く可愛らしい顔立ちの少女は、十六のサツキと同い年であろう雰囲気を放っている。

 少女が右手の中指と人差し指を立てて挙げると、立てた二つの指の間に光が灯り、その光る指先で空中に幾何学模様を描く。

 ザラシュストラ達の周囲を囲んでいた幾何学の円環が光の粒子となり空中に消えた。

 三人は、重力に引っ張られ地面に着地すると、ザラシュストラは抱えるサツキを下ろし互いの接続ジョイントを外して少女の方を向く。

「アルキメス(幾何学魔導)…。トゥーラ(幾何学魔導士)か?」

 呆然とするザラシュストラにアルキメスの使い手トゥーラの少女がお辞儀をして。

「始めまして、トゥーラのユリ・タカハラです」

 ザラシュストラも会釈で返し。

「では、一つ聞かせて頂こう。なぜ、俺達を助けた?」

 と疑問の視線で問い掛ける。

「全く、お前はもっと他に侵入する方法がないのか?」

 と公園の奥から女性の声が響く。

 ザラシュストラは、知っている女性の声に(まさか…)と青と黒のオッドアイの瞳を大きく開き声がした方向を向いた。

 数名のガルヘント兵士が現れた次に、兵士達に囲まれて鎧を纏う女性が現れる。

 燃えるような紅の髪をポニテールに纏め、流れるような柳眉と凛とした顔立ちに女性用の鎧が似合う男装の麗人、フィアの武王妃ルフィリアであった。

 ザラシュストラはルフィリアの正面に行き。

「捕まっていたんじゃないのか?」

 武王妃ルフィリアは失笑し。

「私の実力を見くびるな。あの程度の輩など赤子の手を捻るようなモノだが…。ダロスがあっては話が別だ」

「ほう…なるほど、流石、ガルヘント大将軍の娘で西方最強の剣術使いだな…」

 ザラシュストラは驚きつつ内心、感心していると空気を押し潰すような重低音が夜空から響く。

 V字翼のダロス達が編隊を形成して夜の上空から現れる。

「こっちだ」

 とルフィリアがザラシュストラ達を公園の奥に誘導する。

 そこには公園の木々が広がる遊歩道が縦に割れ地下へ続く回廊が現れていた。

 ルフィリアを先頭にザラシュストラとサツキ、トゥーラのユリに兵士達は地下へ入ると、入口が閉まり公園の遊歩道となった。


 地下へ潜る階段は入口が閉まった瞬間に、左右の隅から明かりが置くまで灯り道を照らす。一行が、階段をある程度下ると、天井から無数のライト達が照らす巨大空間に出る。その巨大空間には、数百人規模のガルヘント兵士達とガルヘントの公務職の人々がいた。

ザラシュストラ達がいる場所はその圧巻な様子を一望出来る入口にいる。

「おいおい…なんだこれは?」

 と驚くザラシュストラ。

「ここは非常用の地下シェルターだ」

 とルフィリアが告げ「こっちだ」とザラシュストラ達を案内する。


 ルフィリアは、ザラシュストラ達を後ろに連れながら説明をする。

「災害や戦争といった国家の非常時に使われるアルカディアの地下全体に広がる特殊施設で、今のような非常時に最下層のアルツクォーク発電所で電力を供給。各保管庫に備蓄した食糧や飲料水を使う。更にアルカディアの各場所に入口があり、人質としてまだ捕まっている残りの王妃達がいるリーシャ城の後宮にも多数の入口を設けてある」

「残りの王妃達がリーシャ城の後宮に! カグヤは? いや…残りの王妃達の身の安全は?」

 ザラシュストラの足が止まる。

ルフィリアは後ろを振り向き。

「レミセルア、カグヤ、レイランの三人は密偵の報告では大事に扱われている。心配をするな」

「良かった」

 とザラシュストラは安心した表情を浮べて胸を撫で下ろす。

「それよりも、お前がまた来たという事は、陛下は安全な場所にいるのだな」

 ルフィリアの言葉にザラシュストラは頷き。

「ああ、フィアは大将軍の所で各地に勃発した叛乱の鎮圧に軍を動かしている」

「そうか…お父様の所に。なら早く首都の混乱を収めて駆け付けなければ…」

 ルフィリアは唇を細くして安堵の表情をする。

「そんなに心配するな。オメガ兵団の戦闘員の内、三人を鎮圧に協力させているんだ。今頃は、かなりの地区の事態が収まっているだろう」

「借りが出来たな」

「何、気にするな。俺がそうしたいだけだ」

 ザラシュストラは手を振って軽く告げる。


 地下のシェルター空間に設けられた簡易テント作戦室内にザラシュストラとサツキは通され、長テーブルに首都アルカディアの地図が広がった室内でルフィリアが地図の中央を指し。

「今現在、リーシャ城から後宮へレミセルア・カグヤ・レイランの三人が閉じ込められ、その周りをダロス及び叛乱軍の兵士達が囲っている」

「ほう…完全包囲か。よく逃げられたな」

 ザラシュストラは感心しながらアゴを摩る。

「お前が陛下を連れて逃げた後、ユリ殿が現れて、その助力で何とか…」

 ルフィリアは左にいるユリに視線を向ける。

 訝しくザラシュストラはユリを見詰め。

「なぜ、東方のトゥーラが西方の事情に首を突っ込むんだ?」

 ユリはためらう様に視線を泳がした後。

「詳しくは言えませんが…。私は、この叛乱に関わっていると思われるある人物の捕縛が目的で派遣されました」

「関わっている人物の捕縛?」

「はい…そうです」

「その一人を捕まえるのにガキのトゥーラを派遣したのか?」

「心配ですか?」

「…いや、その赤い髪、アルキメスの開祖ゼオンの側近であり、トゥーラの中でも強大なアルキメスの素養を代々受け継いでいる五大家という五つの血脈の一つにいたな…」

 ユリは瞳を大きく開いた次に。

「…赤い髪の女性なんて世界中に沢山いますよ」

 ユリは穏やかな口調ながらも鋭い視線でザラシュストラを睨む。

 だが、当の本人は微風のように受け流し。

「ああ…すまなかったな。確かトゥーラの間では五大家の事は秘密だった」

 と微笑でザラシュストラは返した。

「詮索はそれ位で勘弁してやれザラシュストラ」とルフィリアが呟き。

「一応は、協力してくれるのだから。ありがたく助力を仰ごう。トゥーラの力の強大さは判っているだろう」

 ザラシュストラは肩を竦めた後。

「まあ、ルフィリアがそう言うなら致し方ないが…。おかしなマネをしたら排除する。いいな」

 鋭いオッドアイの眼光でユリを数秒間ほど凝視した後、ルフィリアに視線を戻し

「で、後宮にいる王妃達を救うには如何すれば良いか作戦があるのか?」

 ルフィリアは柳眉を顰め

「下手に動けばダロス共が防衛に来る。幾らトゥーラがいるとてダロスの前では…。その力はお前がよく知っているだろう。だから、今のところ、これと言ってないのが現状だ」

「なるほど…」

 と、ザラシュストラは地図を睨みながら。

「侵入する手立てはあるんだろ。まあ、定石として首都の外から陽動を仕掛けてそこに注目を集め、手薄になった警備の内に人質奪還が確実だな…」

「おいおい、首都の回りはダロス共が警備して出る事が出来ない。他の通信機器はジャミングにより使えない。外部と全く連絡がつかない状態でどうする?」

 ルフィリアは皮肉な笑みを浮べる。

「サツキ…」

 ザラシュストラはテントの入口側にいるサツキに呼び掛け。

「どうだ。テレパシーとやらでイツキに、グルファクシに伝わっているか?」

「はい、大丈夫です」

 サツキは大きく頷いた次に

「ミラトさんからですが。ニクスが任務を終えてグルファクシに到着したとの事です」

「そうか…なら都合がいい。ニクスのオルフェウス(無限鋼糸)なら陽動に向いているな。よし」

 とザラシュストラは左手の平に右の拳を打ちつけ。

「ルフィリア、明日の早朝に首都の周りで待機している俺の仲間が、首都の外で大規模な陽動を起こす。それに乗じてリーシャ城後宮に潜入後、後宮からカグヤ達、残りの王妃三名を奪還後。上空にグルファクシが到着し、王妃達を連れて逃げる。どうだ? 悪くない作戦だろ」

「上手く行くのか?」

 ルフィリアは首を傾げる。

「心配するな。何が何でもやり遂げてやる。俺自身に誓ってな」

「ふう…。まあ、一人が一国の一師団クラスの戦闘力を持つ北方最強のオメガ兵団の方が太鼓判を押すし、ザラシュストラと陛下の絆もある。信じてみよう」

 ルフィリアは、任せるといった笑顔を浮べていた。

 ザラシュストラはサツキに視線を合わせ。

「と、言う事だが…。そっちは?」

 サツキは微笑み。

「その作戦で行くと来ました。陽動開始は朝六時キッカリに始めるそうです」

まだ続きます

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