第四十八話 沖縄上陸
輝く太陽が肌を焼く。
同じ日本だと言うのに、一度飛行機に乗ってからというもの雰囲気が違う。
これが本州と他島の違いというやつだろうか?
「おい、ジュダ何してる?時間はないんだぞ」
「分かってるさ。俺よりも、あそこで早くも男に口説かれてるじゃじゃ馬をなんとかしろ」
俺を呼んだ男ーーバルギーが金髪の髪をかいてじゃじゃ馬ーーシャルの首根っこを掴んでバスに放り込む。
まあ、三人共金髪だから周りの視線を一身に浴びてバルギーと俺はバスから出てきたが。
「まったく、なんであいつはこうも要らん要素を増やすのか…」
「それがシャルだからな。あいつもアレで苦労してるんだ。それよりも、アイツを何とかしろ。被害が出てからでは遅いぞ」
シャルを口説いていた男、もといその土地に住む地縛霊を見て呟く。戦時中の時の霊であろう、ひどく憔悴した感じの若者の未練がましい眼が痛々しい。
地縛霊はそこから動く事は基本的にないが、動きたいと思えば誰かれ構わずに取り憑きたがる厄介な奴だ。犠牲者が出る前に、対処するのが吉だろう。
「他人を気にするとは、お前は優しいねえ」
「馬鹿言うな。シャルの心残りを少しでも減らす為だ。他意はない」
「へいへい。…だが、良いのか?お前だって、まだ『完成』してないんだろ?」
ヒラヒラと手を振って俺はバスに乗り込む。そんな物、一人二人くらい対して意味は為さない。
どの道、ここでやる実験が成功すれば全員が『完成』に近づく。そうすれば、この腐り切った世界でさえも、安寧の地が生まれるかもしれない。
光の無い世界だから、闇しかない世界だから、闇に穴を開ける。それが出来るのは、あの人だけだ。
「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。シャルは自分の事を考えなさい。ここで『暴走』なんてされたら、止められないぞ」
「大丈夫。あの人がくれたお守りが効いてる」
平均的な日本人と同じくらいの身長の俺よりも二周りも小柄なシャルが胸元に下がるお守りを握る。
五分程して戻ってきたバルギーは俺達よりも一つ後ろの席を独占する。
まあ、もともと四人で来るはずだったから別に問題無いが。なんにしても、バルギーを信頼するつもりはない。背後を取られたつもりで臨戦態勢は解くまい。
「無駄だぞ、ジュダ。お前がいくら殺気を出そうが、俺は怯まない。『監視者』として、それだけの力がある」
まるで人の心を見透かしたようなバルギーの声。そうだ。奴の剣はやろうと思えば、このバスの中にいる全員を両断する事が出来る。
俺とシャルが徒党を組んでも、敵う奴じゃない。
「裏切りなんてしないさ。俺もシャルも、どのみち希望なんて無い」
達観した面持ちで窓の外に目を向ける。ゆっくりと動き出した外の風景は、茹だるような熱射を浴びて明るく輝く。俺も、隣にいるシャルも、対比する自分の運命を呪って暗い闇の道を進んだ。
空は青く、澄み渡る。まるで、対比した俺達を笑うように。
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最近の飛行機というのは、携帯電話を切らなくても安全に運行出来るように作られているらしい。まあ、それでも完璧とは言えないから切るように言われるのだが…。
「(ふあ〜、…眠い)」
「(ご主人、ご主人!雲です!雲が私達に並んでますよ!)」
「(ご主人様、大きな雲です!あの中に、天空の城とかありませんかね⁉︎)」
ストラップ姿のままでは退屈だろうと、気を利かせて二人が窓の外を見られるように配慮したのだが、どうやら失敗だったようだ。
如何せん、朝が早くて眠いというのに、この二人の声が頭の中に直接聴こえるものだからどうにも寝にくい。
やはり置いてくるべきだったろうか?
「まあ、退屈しないから良いけど」
「なんか言った?」
「いや、別に」
クラスの談笑する声がそこかしこから聴こえる。隣の席になった彼も、後ろにいる友人と話をしていたはずなのに、僕の呟きに反応したのは旅行という非日常で感覚が鋭敏になっているのだろう。
本来なら、僕だって旅行は楽しみだ。だが、僕の場合は空を飛んだり、海中で息が出来たり、地震を予知したりするような人達が周囲にいる。それに、旅行ではなかったが、青森には行った事があるし。
数時間のフライトは順調に進んでいく。青い海を眺めては感慨に耽り、雲の絨毯を眺めればとある黒い羽を持つ成人男性の顔が浮かぶ。……やばい、自分でもどうかと思うほどに周囲に毒されている。
やっぱり疲れが溜まってるのかな。向こうに着いてからも休む時間は無さそうだし、寝ておこう。
目を閉じて真っ暗な世界に身を委ねる。
頭の中には相も変わらず声が響いているが、それもやがて夢の隙間に落ちていく。
高く高く、雲より上を飛ぶ飛行機よりも高く、意識が落ちたと思ったら昇っていく。
幸福な気分かと思えば、眼下に広がったのは……戦場だった。
「な、なん……だこれ?」
おかしい。僕は飛行機に乗っていたはず。夢にしては空気の張り詰め方がやけにリアルで、焼ける家々の熱波がジワリと肌を焼くのを感じた。
ガラリと崩れ落ちる瓦作りの家々の中から一人、人間が出てくる。それは、町並みにまったくそぐわない金髪を持ち、逆光となってよく見えないが、確かに剣のような物を持った男の人だった。
男はこちらに気付かないまま更に町並みの奥へと向かっていく。僕はといえば、いきなりの状況に戸惑い動くこともままならない。
ただ一心に願う事はといえば……
「こんな事…あっちゃいけない」
本来ならありえない光景。だが、僕はこれだけの惨事を起こす存在を知っている。…いや、僕自身がそれだ。
「彼らを…彼女らを…妖怪達を…そんな事に使うなぁぁぁぁぁ!」
力の限りに叫ぶ。憑依もしていない今の僕にはあの人を止めるだけの力なんて無い。そもそも、僕達との距離は声が届くほど近いわけではない。
それでも、叫ばずにはいられない。こんな惨事を認めたら、彼らは存在出来なくなる。
力の限り叫ぶ。それだけしか出来なかった。
夢の中だとかそんな事は関係なく、ただ虚しく虚空に消える声が枯れるまで、僕は叫んだ。
乾いて張り付いた喉を僕は、目が覚めるまで酷使し続けた。
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「「(海だーーーーーーーー‼︎)」」
「(うるさい!)」
海で隔たれた日本国ーー沖縄に到着した僕達を出迎えたのは、空港の窓から見える真っ青な海の水と白い砂浜だった。
海を見るのは久しぶりなだけに、コンとコルはテンションが高い。勿論、僕だって少しはテンションが上がる。でも、飛行機内で見た夢を思い出しては、僕のテンションは下降せざるを得なかった。
結局、あの夢が一体なんだったのか、それを教えてくれそうな人は誰もいない。
ただの夢だったのか、それとも予知夢のような怪しい何かなのか。
喉に何かが引っかかっているような違和感をどうしても拭えない。何かに警戒すべきなのか?しかし、警戒するべき何かも見当がつかないのにどうやって?
「考えてもどうしようもないかな。今は、ただの夢だったと割り切ろう」
旅行中変な心配の種を自分の中に植え付けたくはないし。
「赤原く〜ん、そろそろ集合時間!」
「ごめん!今行く」
空港からバスへと移動し、そこから見学場所へと移動する。
最初の見学場所は…どこだったかな?
「この学校意外とハードなスケジュールで行くよね〜。初っ端から首里城って本腰入れ過ぎな気がするよ」
修学旅行の日程表を見ながら、隣にいる梶原さんと少しばかり談笑する。
バスの席は先生が厳正なる審査をもって一人一人決めていったらしい。その厳正なる審査で、僕は梶原さんの隣という学級委員ペアを組まされた。
ただ、学級委員ペアというより、実際の所は梶原さんは僕の監視役のようだ。……先生がハラハラした顔でこちらの様子を伺っているのが良い証拠である。
「そこまで警戒されるような事したかな?」
「いろいろやってたと思うよ?始業式サボったり、学級委員の仕事サボったり、休学中にもいろいろやってたって噂になってるよ」
「……」
ぐうの音も出ないとはまさしくこの事である。前半二つは紛れもない事実だし、休学中にいろいろやってた……もある意味では本当だし。
「(ご主人、看板が見えてきましたよ!)」
看板…というよりかは案内板と言った方がいいのだろうか?残り何キロと書かれた標識の横をバスが通っていく。この様子だと…精々十分くらいだろうか?
「赤原君…逃げたりしないでね?」
「いや、逃げないよ。…梶原さん、目が怖いです」
やっぱり監視役みたいだな…。
笑いながら睨まれるという滅多に無い機会に冷や汗を流しながら、バスは駐車場にゆっくりと入っていくのであった。
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「よし、点火!」
「ちょっと待て。こんな所で点火して良いのか?」
首里城から少し離れた木々の中、バルギーからの指示に苦言を呈す。
当たり前だ。首里城自体ではないとしても、その周囲で爆発を起こせと指示しているのだから。
「問題無い。文化物の破壊は確かに国家間で亀裂を生むが、俺たちがしようとしているのはあくまで何もない『道路』を爆発させるだけだ」
それでも一般市民に被害者が出るかも……などとは考えていないか。そもそも、文化財を破壊しない事を要求したのは俺達だ。最悪、こいつらは何も言わなければ首里城すら爆破するつもりだったろう。
「いや、その方が都合が良かったのか?」
「何をしている、ジュダ。早く点火しろ」
「くっ…、すまない」
苦虫を噛み潰したような顔の俺と、新しい玩具を見つけた子供のような顔をしているバルギー。俺達兄妹の常識が間違っているのかと錯覚をしそうだ。
椅子にふんぞりかえって命令する王のように、そしてそれを忠実にこなす家来のように。
屈辱感を覚えながらも発火装置に俺は手をかける。
車の穏やかな喧騒が耳に届く。それを壊す罪悪感と恐怖心に板挟みになりながら、俺は発火装置のボタンをゆっくりと押した。
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………皆様、残念なお知らせです。
沖縄観光初日、早くも終了致しました。
いや、違うのです。本当はもっと色んな所を巡る予定だったんです。でもですね、警察に事情聴取なんてされようものならどこの学校だって中断しますよ。まさか、首里城付近で爆発事件が起こってそれをウチの生徒が見ている、なんて状況が起こる事を誰が予想できますか?ええ⁉︎
というわけで、今僕達は急遽ホテルで缶詰めという状況なわけです。
ホテルの部屋割り自体は決まっていたから混乱も少ないが、如何せん爆発を見た生徒も少なくない。同室のクラスメイト達もその話題で華を咲かせていた。
不謹慎といえばそうだが、被害者が出ていないらしいのでは咎める事も出来ないだろう。
不幸中の幸いなのか…はたまた前提として不幸が起きた時点で不幸だと断ずるかは微妙だ。
「(面白くないです!まだまだ見たい所はあったというのに!)」
「(そうは言っても、コン。四ヶ所同時に爆発が起こったとなると只事ではありません。ご主人様の安否にも関わるかもしれないのですから我慢しましょう)」
「(大人ぶっても無駄ですよ?ホテルに向かってる途中で声を殺して泣いてたの知ってるんですから!)」
「(そ、そんな事は‼︎)」
缶詰め状態の今ではこの二人の他愛ない口論も楽しいものに変わる。…ちなみに、僕もコルが泣いてたのは知ってる。
下手すると明日もこの状態なのでは、とてもではないがテンションも上がらない。
「ヤバかったよな〜、あの爆発。車も何台か燃えてたもんな!」
「な〜。違反駐車してるのが悪いとはいえ、ご愁傷様って思うわ」
「こんなのが明日も続くのかな?うわ〜、だったら帰りてえわ」
クラスメイト達の談笑は…なんというかしょうもない。おそらく、どの部屋もこんな感じの会話をしているのだろう。
ホテルの一角に目立たない休憩所があったのを思い出す。今の状態なら、あそこに近づく人間もいないだろう。
特に会話に参加していなかった僕が席を外しても、クラスメイト達は時間を忘れて話し続けるだろう。僕は財布一つを持ってなるべく注目を集めないように部屋を出る。…もちろん、狐のストラップになっているコンとコルに注目されない為だ。
エレベーターを使って一階に降り、ロビーを横切り更に遊戯室を横切る。
そのまま長い廊下を歩いて廊下の終着点にある休憩所に入る。元々はタバコを吸ったりする空間なのだろうが、ホテルは学校が貸し切っており各階に休憩所はある。
一階にある休憩所をわざわざ使う教師はいないと踏んだ休憩所は読み通りもぬけの空。
自販機で飲み物を三本買ってストラップを椅子に置くと、二人はすぐに変化を解いた。
「ご主人!こんな空間があるならはじめから連れてきてくださいよ!」
「そうです、ご主人様!あれだけ私達を脅しておいてこの仕打ちはあんまりです!」
「ええっ!」
開口一番に怒られた。しかもコルに至っては涙目で。
「えっと、…僕もここまで目立たない場所に休憩所があるとは思ってなかったし、それに少しやり過ぎるくらいじゃないと警戒心が緩むでしょ?」
「「そ、それはそうですが…」」
「何が起こるか分からないからこそ、あらゆる可能性を考えなきゃいけない…分かるね?」
「はい…」
「かしこまりました…」
二人は怒りを治めて目を伏せる。どうやら、僕の言いたい事が分かってもらえたようだ。…まあ、どもった一瞬で考えた『らしい』言い訳を言っただけなのだが。まあ、結果オーライでいこう。
「あっ、雷咼さんもここに来たんですね」
不意に休憩所の入り口から抑揚の無い声がする。
コンとコルから目を離して入り口を見ると、土花が丁度ドアを閉めて入ってくる所だった。
「あれ?土花、どうしてここに?」
「友達のテンションの高さに追いつけなくなりまして」
流石は土花。今の今までクラスメイト達の談笑の輪に加わっていたらしい。これが対人スキルの差だろうか。
「そういえば聴いたよ。土花が一番爆発を間近で見たって。大丈夫だった?」
「ええ。近いと言ってもバスに移動している時に反対車線で爆発したので、特に怪我人は出ませんでした」
自販機で飲み物を買い、僕の隣に腰掛ける土花。コンとコルはそんな土花をジト目で見ながら飲み物を啜った。
そんな二人を見て苦笑いした僕に、土花はプルタブを開けて抑揚の無い声で僕の知らない事実を打ち明けた。
「雷咼さん、もしかしたらアレは妖怪テロかもしれません」
「「「はい?」」」
僕とコンとコル、三人共が土花の言に驚きを隠せなかった。コルに至っては返事した後に飲み物で少しむせた程に。
「よ、妖怪テロ?どういう事ですか?土花」
コンが僕を跳び越えんばかりに身を乗り出して問う。土花はまるで怪談を話すように、僕達にしか聞こえない程に小さな声でゆっくりと呟いた。
「爆弾の信管の代用として使われたのが……妖怪だからです」
今この場には僕達しかいない。にも関わらず、彼女が小声で言ったのは場を盛り上げる為ではない。
ただ単に、普通の人が関わってはいけないと彼女自身が分かっていたからだ。
たとえ、確率が億万分の一だろうと、更にその確率を下げようとしたのだ。
僕達の『事情』がまた再び、動き出したのを悟ったから。
コン「ええ〜、どうも、皆さん。コンです」
コル「コルです」
コン「この度は投稿にお時間がかかった事を作者の代わりに謝罪致します」
コル「致します」
コン「本来ならば作者直々に謝罪するのが筋ではございますが、故あってこのような形になりました」
コル「というか、文化祭が終わって達成感を得た所に周囲がカップルだらけで無気力になっただけですけど」
コン「馬鹿馬鹿しい…」
コル「馬鹿馬鹿しいですね〜」
コン「しかも、今回はゲスト無しですよ!どんだけですか⁈やるならちゃんとプランを考えて…はっ!申し訳ありません、愚痴になりました」
コル「作者の方は後でちゃんと焼きを入れておきましょ。今はそれで手打ちです」
コン「文化祭で部誌を九十三冊売ったとか言ってましたけど……よくこんなので売れましたね、部誌」
コル「えらく今回は話の流れが急ピッチでしたね〜。急ぎ過ぎは良くないのですよ」
コン「まあ、ようやく話としては進める段階になったとは思いますけどね。今回出てきた爆発の実行犯。彼らの活躍次第で私達の活躍も増えるのですから!」
コル「皆様、どうか私達に熱い応援を!ひがな一日中家でテレビ見ている黒い幼女には負けたくありません!」
コン「そうですよ!途中から入ってきていつの間にか溶け込んでますけど、そもそものご主人の相棒は私達なのですよ!」
コル「作者はそれが分かっていないのです!」
コン・コル「はあ…はあ…はあ…」
作「あの〜、愚痴は終わりました?」
コン・コル「まだまだありますーー‼︎」
作「では後でそれは聞くとして…今はタイトルコールで最後くらい締めてくださいな」
コン「ご主人の守護兼相棒を務める私達が頑張る『狐の事情の裏事情』!」
コル「次回はご主人様と土花さんが本格的な調査に乗り出します!」
コン・コル「私達に清き一票を‼︎次回もお楽しみにーー!」
作「選挙活動みたいになってますね…」




