第四十九話 西洋の強襲者
『へえ〜、旅行先でも妖怪絡みとは不幸だね〜』
「黒部さん、茶化さないで下さい」
電話口から黒部さんの高笑いが聞こえてくる。
土花と別れた後、一応の経過報告と意見を聞きたかった為黒部さんに電話したのだが…
『沖縄にもテロリストとかいるんだな〜。道路とはいえ爆発事件起こすとか俺以上に頭ぶっ飛んでるな!』
「いえいえ、いきなり人の屋根を吹き飛ばすのもどうかと思いますよ。いったいどれだけこっちにダメージがあったと思うんですか?」
こんな感じで、むしろテロリスト側に入ってしまいそうな程に喜々としているのだ。
この人の過去をいつだったか聞いたが、その時もこの人は外法と呼んでもいいくらいの事をしていたし……。普通の人生は送っていないに違いない。
「とりあえず、少し調べてみます。出来れば久城さんに頼んで妖怪爆弾の作り方とか聞けたら聞いといて下さい」
『分かったよ。俺もそんな爆弾は認められないからな。そうだな…九時くらいに電話してくれ。それまでには聞いておく』
電話の切れる音がしてツーツーという無機質な音が響く。やっぱり電話は苦手みたいだ。
「さて、行くかな」
「(ご主人、急いでください!予定時間が差し迫ってます!)」
「(土花さんを最後まで待たせるつもりですか?このままではお迎えの来ない親を待つ子供のようになってしまいます!)」
「二人共…少し黙って」
一人でぽつんと佇む土花。…失礼ながら、少しだけ見てみたいと思ってしまう僕なのであった。
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「誰かが言いました。貴女の親は悪魔だと」
パラリと本のページをめくる。誰にも読めない、誰にも理解されない、古い逸話の載った一冊の本を。
「誰かが私に聞きました。貴女の生命は望まれないと」
また一ページ。また一ページと本をめくる。
薄暗い部屋でも分かる程の綺麗な長い金髪を持つ少女が、分厚く古い本のページをゆっくりとめくる。
その姿は毒。…誰もが息を呑んで目を離せなくなるほどの神秘。
その言葉は鎖。…彼女の声が、言葉が聴く者の精神に語りかける。
「わたしの命も、この一節と同じ」
「誰もわたしを助けない。誰もわたしを離さない。誰もわたしを…連れ出さない」
重い音を立てて本を閉じる。
周囲には誰もいない。あるのは無数の本と、壁一面に貼られている呪符の数々。
まるで監禁、否、監禁そのものを目的として造られた部屋で、少女はポツリと涙を流す。
「わたしも……光に触れてみたい」
彼女の着る淡い赤色をしたドレスが、涙に濡れる。深い深い悲しみを讃えて。
少女は本を持って立ち上がり、一歩壁に近寄り、小さな手を貼り付けた。
その姿は、慕う誰かを失った悲劇のヒロインの残像を伴い、無機質な部屋に嗚咽が少しこだました。
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さて、昨日はとんだハプニングがあったが、一応自由時間という名目で何とか外に出る許可が出た。…と言っても、あまり遠くには行けず、精々が歩いて行ける距離なのだが。
俺達にとっても、他の生徒にとっても、自由が与えられれば不満はある程度解消出来る。
なにより、事件のあった首里城はその距離内にある。現場検証くらいは出来るだろう。
「あまり証拠を残さないでくださいね。警察に見つかったら厄介ですから」
「分かってるよ。…でも、本当に大丈夫か?俺達のやってる事って…」
「当然ながら、犯罪なのです」
だよな〜。ルイの言う通りだよ。こんなのバレたら諸々の罪でどうなるか……
「…あの、何でルイがいる?」
「気付いてなかったんですか?だから言ったんですけどね?『大丈夫』って」
ーー今から一時間前ーー
僕と土花は合流すると一先ず現場検証をしようという事が決まり、爆発現場の近くまで来て草陰に隠れたものの……。
「警察…いるね」
「まあ、当然ですね。あんな事があった直後ではやはり近付くのは難しそうです」
「でも、調べなきゃ何も分からないし」
「雷咼さん、憑依して私達に幻術は掛けられますか?」
当然、幻術自体は掛けられる。だが、問題はそれが自分にしか掛けられない事だ。
古今東西、狐は他者を化かすが、あくまでそれは自分の姿か別の物に幻術を掛ける事で行っている。
僕に掛ければ土花には掛けられず、土花に掛ければ僕は掛からない。最悪、僕だけで行けなくはないが場所が四箇所あるだけに分担したいのだ。
「掛けられるだけで充分です。大丈夫ですよ」
「 ? 」
土花の言葉の意味を把握出来ず、ただ確信して言う彼女の言う通りに憑依する。
コンとコルの最も得意とする能力、『幻術』。それは他者からの視認、観測を一切除去する。他者に風景として認識させる。
「それじゃあ、私は西側と北側の現場に行きます。雷咼さんはここと、南側をお願いします」
何事も無いかのように、土花も憑依して跳んで行ってしまう。最後のイタズラが成功したような笑みが、少し気になった。
認識を誤魔化したまま、俺は西側をある程度検分した後、すぐに南側に跳ぶ。
俺が西側でかけた時間と移動時間を合わせても精々三十分くらいのはずだが、土花は既に二箇所を終えて俺を南側の爆発現場で待っていた。
「早いな」
「土蜘蛛は探索するのには適した妖怪ですから。地面に落ちている不純物も危険物も、立っているだけで識別出来ます」
「便利なもんだな」
一々丁寧に歩いて検分していた俺とは違って、立っているだけで検分出来るらしい。そりゃ、早く終わるわけだ。
「それじゃ、ここも早く終わらせるかね」
「そうですね。ここは一番爆発も派手みたいですし。ちゃんと探索しましょう!」
二人で拳を握って気合いを入れる。首里城正面から南側のここは土花達が爆発を見た現場であり、且つ一番爆発が大きかった所だ。
証拠が残っているとしたら、ここに違いない。
「よし、始めるか!」
こうして意気込んで探索を始めて今に至る…。
「で?ルイは今までどこに隠れてたんだよ?」
「家を出る時からずっと、土花の中にいたのですよ」
「私も飛行機に乗るまで気付きませんでした。相変わらず、違和感も何も感じませんでしたし」
作業を続けながらルイに問答する。コンやコルは当然ながら、妖怪組は今回の旅行に結構執着する者が多かった。
カゲメは昔日本を歩き回っていた過去があるので、唯一海に隔たれて行けなかった沖縄に興味があったらしい。
セレは当然ながら、海が目当てだ。僕達と行動を共にすれば海で好きなだけ泳げると思ったのだろう。温泉やプールで満足なぞ、出来るはずもなかったのだ。
この二人に関しては手練手管を使って付いてこようとしていたので、大人気ないとは思いつつも黒部さんに頼んで二人が寝静まった後に部屋に結界を張ってもらった。
家を出る時の二人の非難の声は凄まじいものだった。
恨む、呪うの単語が出てきた辺りでは御守りでも持って行こうかと思案した程に。
しかし、完全にルイは想定していなかった。そこまで執着しているようにも見えなかったし、俺も土花も一番の伏兵を忘れてしまっていた。
「あなたは妖怪をナメ過ぎなのです。人間の考える事なんて、大体皆同じなのです」
「さいですか。それで?土花は何でルイが『投影』なんて能力があるのを知ってたんだ?まだ、殆ど話なんてしてないのに」
「まあ、ここに着いてからの移動時間とかでコツコツと、といった所ですか。ルイさんも渋らずに教えてくれたのでスムーズでしたし」
土花曰く、ルイの個人的な能力は思った以上に多岐に渡るらしい。
初対面の時に言われた通り、大元は『地震操作』と『精神寄生』らしいのだが、言葉通りの単純な物ではないらしい。
『地震操作』は文字通り地震を操る。起きた地震を小さくしたり大きくしたり、はたまた前兆なく起こす事も可能だそうだ。
しかし、問題は『精神寄生』の方だ。
元来、その人が扱える妖力は妖怪の質と使用者の実力が鍵となる。だが、ルイはその定義を破壊する。
「妖力の意図的な暴走だけでなく妖力の増大と投影、そして妖力の消費を無視して攻撃出来る禁じ手 『呪術』。わたしがドーピング剤と呼ばれる所以なのです」
「確かに、いくら妖力を消費しても瞬時に回復するんだったら立派なドーピング剤だな。身体への副作用が怖いが」
「その点は問題無いのです。わたしは生まれながらに憑依が出来ないのです。身体的にも、魂的にも繋がりが無いから副作用はないのです!まあ、憑依が出来ない分誰かの体内に潜んでないとあっという間に、殺られてしまうのですが」
憑依が出来ない。妖怪としては信じられないし、それでは実用的とは言い難い。なんせ、常にルイを守って戦わなければならないのだ。憑依出来るから妖怪を軽蔑する人間は価値を見出すが、そんな厄介な妖怪をそう簡単に守ろうとは思わないだろう。
「という事は、ルイのマスターってのは妖怪に友好的だったのか?」
「そうなのです。家柄的には、妖怪を軽蔑する傾向にあったのですが、マスターだけは優しくしてくれたのです。だから他の妖怪達も、全力でマスターに仕えたのです」
「その人は、私みたいに多数の妖怪で憑依していたんですか?」
「それは違うのです。わたしの投影でマスターの精神に妖怪達の能力をインストールしていたのです。だから、沢山の妖怪がいればいる程、マスターは強くなったのです」
近・中距離の範囲内にいる味方の妖怪達の能力を精神にインストールする。それが『投影』。今現在俺達が使っている手段の正体。
だが、異質な物を肉体が無理やり取り入れようとするならば、どうあっても摩耗する。それが肉体ならば治癒するが、精神の傷は自然治癒にも時間がかかる。この手段は憑依しているからこそ、出来る事だろう。
「土花、大丈夫か?」
「ええ、…まだ、なんとか。ただ、これを多重に掛けるとしたら、精々あと一個といった所ですか。正直、キツイです」
土花の面持ちが少し険しくなる。憑依して感情を好きに出せるようになったからといっても、土花が弱音を吐くのは珍しい。それほどまでに負担が大きいのだ。
「よくこれを多重に掛けてたもんだな。お前のマスターって奴」
「マスターの家は『色の名家』。色は沢山あってなんぼです。一色二色程度では家の名が廃るというものです。まあ、わたしが仕えるまでは憑依の高速切り替えを得意としたみたいです。だから、集団戦闘ではほぼ無敵だったとか」
なるほど。各妖怪の特性を理解して運用、活用して集団戦を制する。確かにらしい戦い方と言えるだろう。
だが、それでも幾つか疑問は残る。根本的且つ、外せない絶対的な枷の存在を。
「なあ、ルイ。人間が憑依するのって、上限ってどのくらいなんだ?勿論…生死を問わずだ」
憑依の高速切り替え、と一言で言うのは簡単だ。だが、いくら妖怪に友好的な人間でも無限に憑依出来る妖怪を従える事は出来ない。
俺が憑依出来るのはコンとコル、そしてセレの実質二組。
本来ならばこれでもイレギュラーな程だ。もし、これが十も二十も憑依出来るなら、それはもう天災レベルの戦力と言える。
「マスターは頑張って十二って所です。でも、わたしは憑依出来ませんけど戦闘に関与はしてましたから実質十三です」
「十…三」
正直、そんな人間いていいのか?チート以外の何物でもない、とは思った。
だが、そんな俺の心境を更に壊す一言をルイは自慢気に語った。
「まあ、マスターの家での最高記録は確か三十二だったはずです。まあ、そいつは無茶して廃人になってしまったですが」
三十二…予想よりも十を超えるとは。廃人とはいえもし、今後そんな相手とかち合って戦うとなったら俺は勝てるのか?……いや、無理だわ。絶対に無理。
「なあ?土花。今の聞いてたか?」
黙々と作業をしていた土花に声をかける。こうでもしなければ俺の頭の容量がいっぱいになりそうだったからだ。
土花は作業を一時中断し、額に少しかいた汗を拭って俺達の会話に混ざる。
「えっと、憑依の話ですよね?そうですね、確かに三十二というのは驚異的だと思います。そんなに供物があるのは純粋に凄いです」
「最後は自分の自我も渡してましたからね。そこまでして力が欲しかったんですかね?」
皮肉を交えた笑みを浮かべてルイは抉れた地面に腰を下ろす。
俺も土花も細かい所まで見て回ったがめぼしい物は何も無かった。まあ、目に見える物があったら警察が持って行ってしまうから、淡い期待ではあったな。
「ここまで何も無いとはな」
「ええ、何か爆発物の欠片でもあれば話は違ったんですが…」
「警察にだって妖怪絡みの部署はあるのです。おそらく、そういった物はそこが持って行ったのですよ」
警察にも妖怪が入っているとは…この国って意外にもオカルトで出来ているのでは?
そんなくだらない事を考えてしまう程に、何も手がかりの無い状態に落胆する。俺達三人はほぼ同時に溜め息を吐いた。
時刻はもうすぐお昼時。ホテルで一応各自昼食を摂る事にはなっているから時間は気にしなくていいが…。
「どうする?一度ホテルに戻って作戦を練り直すか?」
「そうですね。動き回ったからお腹も空きました」
照れくさそうに笑う土花に、俺も少し笑みを浮かべる。さて、そうと決まればさっそく…
「おや?丁度調査終了かい?ご苦労様、有象無象のイレギュラーさん?」
声と殺気。明確たる殺意を向けられた事で身体が咄嗟に臨戦態勢を取る。振り返って刀を構えた矢先、何かが刀に当たって軌道を逸らす。
「これは…短剣?」
抉れた地面はクレーターじみているだけに、俺達は短剣を投げた相手を見上げる形になる。
刀に弾かれた短剣は年代を窺わせる木の柄をしており、丁寧に手入れされていて深々と土に刺さっている。その短剣を投げた相手は……見るからに外国人だった。
「あんた何者だ?俺達の幻術が効いてないって事は、ソッチの関係者だろ?」
「へえ、そんな細い棒ッキレで不意打ちを弾く実力に加え、頭の回転も速そうだ」
こちらを完全に舐めた態度で、男は顔をニヤつかせる。どうやら、短剣を弾けたのは偶然だと看破されてるらしい。
この穴のすぐ上には通行人が平然と歩いている。警察官が近くには付いているが、この男がここにいる時点でコイツも何らかの術があるはずだ。
幻術?透明化?それとも、認知されない事が奴の力か?
「くっ…」
「雷咼さん、ここでの戦闘は流石に…」
「分かってるよ。だが、奴を人気の無い所に誘導しようにも…手段が無い」
俺の力はどうあっても悪目立ちしてしまう。もしも、今が夜ならば電気を操って周囲を一時的に停電させられる。なら、一瞬の間が出来る。
「……私に任せてください」
「土花?」
土花が一歩、力強い足取りと引き締まった面持ちで縁に立つ男を見据える。
まさか、交渉でもしようというのか?
「おやおや、お嬢ちゃんかい?例の半妖の女の子ってのは」
「それを知っているという事は、あなたはお父さんとお母さんを殺した妖怪の関係者…いえ、共謀者ですか?」
「ははっ!どうやら本物のお母さんに色々教えてもらったらしいね。で?君達はどうしたいんだい?」
「出来れば、戦いたくありません。というより、関わりすらしたくありません」
あちゃー、という擬音が似合いそうな様子で男が額に手を当てる。しかし、俺の方は男よりも、土花の方から視線を離せずにいた。
「(土花が半妖?どういう事だ?)」
マンガやゲームでよくある半妖という存在。だが、それは実際には酷く確率の低い話なのだ。
なぜなら、妖怪がそもそもとして存在が不確かだからだ。
妖怪は語られる事で存在する。それは時として、姿形や能力に関わる。例を挙げるならばセレと朱雀が良いだろう。セレの普段の容姿は青く長い髪、歳は僕と同じかやや上、伝説上のセイレーンとは少し違う所もあるがイメージしやすいと言えばしやすいと言える。
では朱雀は、こちらは実に不憫だ。
朱雀は四神獣の一柱だが、西洋の方にも朱雀に似た妖怪がいる。フェニックスだ。
朱雀とフェニックスのイメージが一つになった結果、朱雀さんは炎を操る力がある。元来、朱雀に炎を操る事は出来ないのに、だ。
妖怪はイメージに左右される。だから、子供を産めるか分からない者もいるのだ。
「土花、半妖って…」
「その話は後でします。私も、話さなければとは思っていたので…」
少し声を震わせて、俯き気味に土花は言う。一先ずは、このピンチを凌いでからだ、と。
「お嬢ちゃん、そしてそこの坊や。悪いけどね、俺は今日ただの証拠隠滅が必要かどうかを判断しに来ただけだ。でもね、あの方を知っているのなら、生かしておく事は出来ない。俺からすれば、ここでドンパチした方が都合が良いんだけどね…」
男のにやけ顏は治らない。天然物の輝く金髪と碧眼で睨みつけてくる男。小皺が見える事から四十か五十といった所のはずなのに、その殺気は実に子供じみて気味が悪い。
一般人を傷つける事を厭わない。それだけでも異常だというのに、その上どんな敵かも判断がつかない。
「くっ…、マジでヤベえな」
握る刀を更に強く握る。こうなれば、一瞬で片をつけるのに賭けるか?
しかし、俺がそんな強行策を考えていたというにも関わらず、男はくるりと百八十度回転して踵を返してしまった。
「良いよ。そこのお嬢ちゃんの奇策に乗ってあげようじゃないか。…人目につかない所で、殺り合おう!」
変わらず殺気を振りまきながら、俺達を誘導するように歩き出す男。俺は、土花の顔を見る事も出来ず、ただ歩き出す土花の背中を追い掛ける事しか、出来なかった。
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ーー所変わって青田家
「さてっと、そろそろ出掛けるかね!」
「一時的とはいえ、よく帰る決心がつきましたね?」
「余計なお世話だ、この黒猫」
元々、持っている私物が少ないだけに準備は手短に、効率良く終わらせる。
「んじゃ、連中が帰ってくるまでには戻るから、それまで留守は頼んだぞ」
「お任せを。あっ!では、帰ってくるまでにこの手紙に目を通して出場するかどうか決めておいて下さい」
「んだ?コレ」
「一種の、招待状です」
猫の手を器用に使って手紙を滑らせて渡してくる。中身は…やっぱり透けて見えたりはしなかった。
しかし、招待状か。デジャブを感じるな。
「まあ、道中お気をつけて下さいね。私はそろそろお嬢様達を起こしてきます」
「頼むぞ、召使いさん」
手紙をバッグの中に入れて玄関を出る。玄関の塀には大きな烏が止まっており、俺の姿を視認するや飛んでいく。
新幹線の時間は…少しギリギリか。
時計を確認して駅に向かって歩き出す。それと同時に、ポケットの中で携帯が震えた。
「ああ、今から帰る。着くのは…たぶん夕方だな。分かってるよ。…ああ、はいはい。それじゃ、着いたら連絡するわ」
烏が急かすように空で旋回している。あいつも、久々に帰れて嬉しいのだろうか?
「それじゃ、帰りますかね!」
一歩ずつ、一歩ずつ。きちんと前を向いて、しゃんと背中を伸ばして。でなければ、あの人に会う資格を失っちまう。
苦笑を漏らして歩く俺の心は、柄にも無く高ぶらせているのであった。
片 「記念すべき第五十話!気まぐれラジオ放送〜」
カ 「いえ〜い」
ル 「……」
片 「あれ、テンション低くありません?ほらほら、笑って笑って〜」
カ 「うるさい!家に引きこもってた所を無理やり連れてきた誘拐犯が、口開いてんじゃないわよ!」
片 「いきなりキツイ事を言いますね。これはあくまで、家主からの依頼なのですが」
ル 「わたしに至っては状況理解もままならないのですが、誰か説明して欲しいのです」
片 「その件に関してはご安心を、ただの気まぐれ&記念すべき第五十話というだけですから」
カ 「その記念すべき、の所がよく分からないのよ。何か重要な回というわけでもないでしょうに」
片 「何を仰いますか⁉︎五十ですよ、五十!よくここまで続いたものだと思いませんか⁉︎」
ル 「読者も増えていないのでは大して今までと変わらないのです」
片 「……。さて、というわけで今回のゲストはカゲメさんとルイさんという、異色幼女コンビで送らせてもらいます〜」
カ 「ちょっと、話逸らしてんじゃないわよ」
片「私、片府はあとは空気となっておりますので、お二人のマジトークをどうぞ楽しんで下さい!」
カ 「こりゃダメね」
ル 「最近体調崩しているのは聞いてたですが、遂に頭もヤられたのです」
カ 「それは元からじゃない?」
ル 「ですね」
片 「お二人さん、私へのマジディスは後ほど聞きますので、今は仕事して下さい…」
カ「しょうがないわね。何を話しましょうか?」
ル 「そうですね。……これ見よがしに机に置いてある『お二人が今まで旅してきた中で、最も印象に残ってる場所は?』で良いのではないですか?」
カ 「まあ、私達らしいと言えば、らしいテーマね」
ル 「今までの旅行経験ですか?そうですね、わたしは富士山から見た御来光なのです」
カ 「なに?あなた富士山に登ったの?」
ル 「マスターと一緒に登ったのです。心から綺麗だと思ったのは、アレが初めてです」
カ 「ふ〜ん、ロマンチックね。私は…京都かしら」
ル 「カゲメ…さんは日本中を歩き回っていたとか。それなのに京都を選んだのは何故です?」
カ 「カゲメで良いわよ。…当時は復讐だけが目的だったから、特に休みもせずに歩き詰めだったの。とはいえ、やっぱり体力が無くなったりすると休んでたんだけど、その時ばっかりは日頃の疲れが祟って行き倒れたの。その時に、偶然私を助けた人間に案内されたのよ」
ル 「よく殺しませんでしたね」
カ 「私だって害意の無い奴を殺すような真似はしないわ」
ル 「わたしの場合は一発でお腹を貫かれたのです…」
カ 「あれはライカの身体に勝手に入って面倒を起こしたから。というか、まだ根に持ってたのね」
ル 「一生忘れないのです」
カ 「どうぞご勝手に。さて、その時に清水寺を案内されたのだけれど…少しがっかりしたのよね」
ル 「というと?」
カ 「昔、よくあそこで自殺者が出たって言うから、少し期待していたのだけれど、全然普通に助かるじゃない、って思ったわ」
ル 「飛び降りたのですか?」
カ 「えっ?しない?」
ル 「すぐ治るとはいえ、無傷では済みそうにないです」
カ 「私は傷一つつかなかったわ!」
ル 「自慢気に語られても…」
カ 「まあ、人間には辛いでしょうね。でも、一ヶ所に留まったのはアレ以降無いわ。だから、印象に残ってるも何も、殆どの観光名所なんて知らないわ。…こんなもので良いかしら?作者さん」
片 「ええ、充分です。これで新しいスピンオフネタも決まりました!」
カ・ル「は?」
片 「次のスピンオフネタはカゲメさんのその京都の旅編に決定!というわけで、収録終わったら詳細を根掘り葉掘り教えてくださいね〜」
カ 「ちょっと、待ちなさい!絶対に許さないわよ、そんな事。私にも秘密というものがあるのよ!」
片 「その秘密を…読者は待っている!」
カ 「キメ顔で言うんじゃない!」
片 「というわけで、修学旅行編が終わるか、その途中にでも出したいと思います。ルイさん、締めをお願いします」
ル 「次回、土花さん達の全力の戦い。ぜひご覧くださいです。ではまた、次の『狐の事情の裏事情』でお会いしたいのです。さよならです」
片 「さようなら〜」
カ 「貴方、この後覚悟しなさいよ!」




