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第二十三話 修羅の誕生 (古都編 第六部)

 妖怪は歴史の矯正を免れる唯一の存在だ。

 人々が望む神になる事が出来、中には時間移動をする事も可能な奴がいるらしい。

 私の目的は昔から変わらない。

 不明瞭な私に十分な存在力を。

 私が存在しているという証明を。

 生まれた時から願った望み、生まれた時から持っていた欲望。

 目の前には存在感のある世界。

 この手にはぽっかり空いた虚しい虚無感。

 私は人間にも、妖怪にも成れなかった。

 二つの境界線を行ったり来たり、時に踏み越え獲得する性質も、気付く前には泡と消える。

 この泡を凍らせたい。

 私の存在を認めたい。

 だから私は、蛇の視点を手に入れた。

 地面から這い、見上げ、暗い土の中にも潜っていく。…若返りの蛇の眼を。

 ああ、彼女はどこにいるのだろう。

 私の望む物を与える本物の神は、この世界のどこにいるのだろう。

 北か?東か?西か?はたまた南か?

 偽物の神は眠らせた。これで残りの神は三柱。

 さあ、出ておいで?

 真の世界の真ん中から、世界を見下ろす数多の神達よ。

 地獄で舌なめずりする邪神でも、勘違いから討伐された不幸な神でも、天上で護衛されている温室育ちの神でも。

 私はいつか表舞台に引き摺り出す。

 舞台が終わり、裏へと戻った貴方達を私は狩る。

 何度でも言おう。

 早くその絢爛豪華な椅子から降りといで?

 貴方達の世界を、私が壊しきる前に…。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おい!坊主、さっさとしろ!」

「赤原さん、もう全員揃ってます。」

 洋館の玄関に集まる俺を含めた四人の男女。

 鴉、土花、セレは作戦決行を今か今かと待ち構えている。

「待たせた。始めよう。」

 短い声をかけて洋館の玄関を開ける。

 二度目の九月七日が終わり、今は三回目の九月七日。今日も昨日と同じで快晴の夜だ。

 まあ、ループである以上、天気に変化なんて起こらないのだが。

 玄関をくぐり抜けて外に出ると、洋館の裏へと通じる一本の道がある。

 昨夜と同じで、洋館を出ただけでは森に変化は視られない。

 風が木々を揺らし、星は天高くで瞬き、残暑の残る道は俺達に息苦しさを与える。

 このまま何事もなく通れるのでは?

 そんな勘違いを起こしそうな程に、周りからは生命の気配を一切感じない。

 だが一歩。たった一歩、俺が足を伸ばした瞬間。森の様相は変貌する。

「駄目…か。」

「まあ、当たり前だわな。昨日の今日でこいつらがいなくなるとは思えねえ。」

「むしろ、昨日より数が増えている気さえしてきます…。」

 被りを振る鴉と土花。

 確かに数は昨日の方がまだ少なかった。だが、どちらも通れない事に変わりは無い。

 数を揃えた所で、マイナスになるにも限度があるのだ。

 既に最低値にはなっている。つまり、プラマイ0だ。

「しかし、良いのか?土花。別にここにセレを残しても良いんだぞ?」

 自身の刀を両手で持っている土花に俺は問う。

 たった一時間かそこらで練った作戦だ。

 失敗する可能性、否、成功する方法としては一番でも、綺麗な成功とは言えない可能性の方が高い作戦。

 地の利を生かした電撃戦。

「赤原さん、もう決めた事です。それに、私が自分で言い出した事でもありますから。大丈夫です。ちゃんと策もあります。」

 俺を見上げて笑いかけてくる土花。

 しかし、策と言われても俺には皆目見当がつかない。

 土花はいつの間にそんな物を用意したのだろうか?

「それよりも坊主。本当に久城は置いてきて良かったのか?あいつの能力があれば、少なくとも不意打ちは避けられたかもしれねえぞ?」

 鴉は洋館を振り返って翼をはためかせる。

 鴉としては不意打ちを最も怖れたい事態と考えているらしい。まあ、気持ちは分かる。

 だが、電撃戦は機動力が肝心だ。

 これを成功させなきゃ、土花もただでは済まなくなる。

「鴉。憑依出来ない人間がいても成功率が下がるだけだ。悪いけど、カゲメとお留守番してもらった方が安心できる。…精神的にも。」

「坊主、お主その状態じゃと言動が辛いのお。そこまで奴の能力が嫌いか。」

 当たり前だ。

 心を読むだなんて能力を持つ奴と行動を共にするなんて、好き好んでやるもんじゃない。

 道は一本道だし、道中の洞窟を何個か通れば目的の殺生石はすぐだ。

 利便性もあまり無いのならこれ以上の理由は要らないだろう。

「さて、そろそろ始めますか。ゲームでも、あまりプレイ時間を重ねたくないタイプなんだ、俺は。」

 土花の頭に手を置いて、よろしくと合図を出す。

 こくりと頷いた土花が正面に刀を構える。

 土花の持つ刀が淡く光り、光りが強くなるにつれて、地面は振動を始めた。

「…今です!」

 土花の声で俺と鴉とセレは同時に上へと跳び、土花の次の行動から難を逃れる。

「はっ‼」

 下で声が聞こえたかと思うと、体が重力に従って落下を始める。

 だが、下ではそれ以上の重力がかかっているのは、大量の妖怪のくぐもった悲鳴で想像出来た。

 森の木の一本。その上に着地した俺達は改めて下を視てみると、そこでは地震で体勢をくずし、土花の重力操作でひれ伏した妖怪共の姿があった。

「うへ〜、あんなにいたのかよ。」

「坊主の予想通り、完全に館を囲まれてるな。よくこんだけの数が森の中にいたもんだぜ。」

「惜しいのう。水場さえあれば全員溺死させられたやもしれんのに。」

 それが出来れば簡単なのは、あえて誰も指摘しない。

 だったら全員に雷落としてショック死させても良いからだ。

 だが…

「セレ。俺達の仕事はもっと後だ。ここで力使って、後で出来ませんじゃ話にならねえんだぞ。」

「ふん!分かっとるわい。そんな事。」

 セレが拗ねて顔を横に向ける。

 長い髪はその反動で鴉の横っ面に当たり、体勢を崩した鴉の所為で木が揺れる。

 各々が別の木に移らなければ、危うく妖怪共の中に突っ込んでいるところだった。

「「かーらーすー。」」

「今の俺の所為なのか⁉」

 そんな馬鹿をやっている内に、刀を地面に刺した土花が木の上に上がってくる。

 ある程度距離を離すと重力操作も出来なくなるので、土花は俺達より少し離れている。

 だが、元々土花はここで足止め、つまりは置いていく事になるので問題は無い。

「後は頼む。」

 俺は土花に頭を下げた後、残りの二人と共に木を渡りながら先を急いだ。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「さて、どうしますか。」

 木の上から見下ろした妖怪達は地面にへばりつく者、何とかして上体を起こそうと奮闘する者のどちらかに分かれている。

「赤原さんの作戦だと、私はここで時間稼ぎになってますけど、…いつまで保たせられるかな?」

 眉をひそめて妖怪達を見る。

 妖怪達は非常に低級だ。ただの時間稼ぎなら何時間でも余裕だろう。

「でも、なんだろう。かなり必死になってるような気がしますね。」

 手足を重力で縫い止められながら、少しでも力のある者は私の刀へと一心不乱に向かっている。

 事の元凶をちゃんと見極めている証拠だ。

 無理に動かした所為で手足の骨は折れ、一歩進む毎に体は地面へと倒れる。

 しかし着実に、その体は地面に刺さった私の刀へと向かっている。

「土蜘蛛、聞こえますか?」

 刀に視線を向けて、刀の中にいる者に声をかける。

 どんなに離れていても、主の声くらいは拾ってくれるだろう。

『…なんです?弱き少女よ。』

『狩り』以来の男の声。

 刀の中では明確な声として聞こえたが、実体を持たない彼等は私の頭に直接声を送る事で会話する。

 しかし、弱き少女の部分は余計だと思うのだが。

「この妖怪達、あとどれ位足止め出来ますか?」

『ふむ、明確な事は言えないが、…精々数分だろうな。一匹でも到達すれば彼等の勝ちだ。もはや時間稼ぎですらないと思うよ?』

「そうですか。」

 簡潔に答えて、私は目を閉じて考えを巡らせる。深く、深く、深遠の淵まで。

 一つの解答と重力の軽減。

 それが得られたのはほぼ同時で、私が目を開けた時、刀は地面から抜かれて土塊へと化していた。

『弱き少女よ。解は得られたのかい?』

「ええ。少しばかり厄介ではありますが、私の得意分野でもあります。殺るしかありません。」

『はあ…、なんと口汚い。それでは意中の狐を逃がしてしまいそうですね?』

 う、うるさい!余計なお世話です!

 土蜘蛛の言葉で頬を真っ赤にする私。

 うう…、感情が出やすくなったのは良い事ですが、少し面倒でもありますね。

 しかし、以前はこんな事を言ってこなかったのに、一体どういう風の吹きまわしでしょう?

『ほら、余計な事に気を取られている場合ではありませんよ?自由になった彼等を止めねば。』

「分かっています!あなたの力、存分に酷使しますから覚悟して下さいね!」

『はあ…、またそんな言葉を。これは一度きっちり教育し直した方が良いですね?』

 土蜘蛛の言葉に口を尖らせながら、私は木から降りて妖怪達の前に出る。

 獣から鬼まで。

 多種多様の低級妖怪達が道だけでなく、森にまで浸透しながら私を睨みつける。

 地面に手を着き、再び出現させた土蜘蛛の刀を正眼に構える。

 作戦は電撃戦。

 ならば、ここは絶対に通してはいけない。

「私は、赤原さんの意思を護ります‼」

 精一杯の啖呵を切り、私は彼等に技術をぶつける。

 GWにとある友人の兄から教わった、剣術の持てる力全てを使って。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「覇刀流?」

「ああ、確かそんな名前だった気がするな。」

 俺達は木の上から降り、整備された普通の道を進みながら土花の話をする。

 見当がつかない、などと先程は言っていたが、いやはや覚えているものである。

「嬢ちゃん、そんな隠し球があったのか?」

 鴉は少し意外そうな声で俺の顔を見る。

 そういえば、鴉はただ見ているだけで俺とあいつの会話は聞いていなかったんだっけか。

「俺もよくは知らねえ。俺はずっと走りこみさせられて死んでたからな。土花が技を習得していたのは俺も意外だよ。」

 俺のとある友人が当主を務める覇刀流。

 なんでも戦国時代に生き残り、知名度は最低の剣術らしいのだが…

「噂では、木刀で小さなビルなら両断出来るらしいぞ?比喩にあらず。」

「…人間じゃねえ。」

 うん。それは俺も思った。

 でも、あいつの拳、喰らったらマジで昇天しそうな程威力あったんだよなあ。

 まあ、コンとコルのおかげで助かったけど。

「覇刀流は日本刀でやる剣術だ。土花が使える以上、案外あそこの妖怪くらいなら殲滅出来るかもしれねえな。」

「はは!あの坊主、まさかそこまでの使い手とはなあ。一度体術で勝負挑んどきゃ良かったかな?」

「ほれ小僧共、談笑は終いじゃ。…次の修羅場が見えてきたぞ。」

 セレの一言で前方に注意を向ける。

 ぽっかりと空いた大きな洞窟。

 中から溢れ出る妖気の禍々しさは、軍勢であった妖怪共より上だ。

「鴉、今度はお前の仕事だ。あくまで時間稼ぎだが、無理だと思ったらすぐに逃げろよ?」

「はは!馬鹿言うんじゃねえ。誰が逃げるかよ。そろそろお前にも、俺の本気を見せなきゃ締まらねえ頃合いだしな。」

 鴉が先陣を切るように、真っ先に洞窟の中に入っていく。

 その少し後を追うように、俺とセレは続いていく。

 岩と水気の立ち込める中、少し前を進んでいた鴉が不意に立ち止まる。

 俺もそれに習うように止まると、前方には鴉と同じくらいの身長の妖怪が待っていた。

「ふむ、先陣は突破されたか。まあ、雑魚ばかりを集めたのだ、仕方ないか。」

 赤銅色の鉤爪、視るからに鬼と分かる角、口から伸びる長い牙。

 何よりも、その体から発さられる殺気はそこらの妖怪とは比べものにならないほどに…鋭い。

「坊主、作戦通りだ。先に行きな。」

 鴉が背中越しの俺に話しかけてくる。

 だが、ここまでの殺気を放つ奴を相手に、鴉は十分に戦えるのか?

 そんな俺の疑問を感じ取ったのか、鴉の翼がいつもの三倍にまで広がり俺とセレを叩き飛ばす。

 勢いのついた俺達は鬼の爪をギリギリ回避し、何とか鬼の防衛網を突破する。

「鴉⁉」

「だから言ってんだろ?そろそろお前らに本気を見せるって。戦闘タイプじゃねえ俺でも、このくらいの奴なら十分戦える。」

 鴉の黒い笑みはいつもの通りだ。

 セレに引っ張られるように先に進む俺は、鴉の自信満々な笑顔を視る事で不安を殺し、殺生石の元へと駆け抜けた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふむ、お前が頭と思っていたが、どうやら勘違いのようだな?」

 鬼は気の抜けた声で俺に話しかけてくる。

 はは!どうやらかなりの自信家のようだな、この鬼は。

「何、ウチの頭をぶつけるまでもねえ。お前は俺が殺すからな。」

 口の端を歪め、翼を一回はためかせながら俺は挑発する。

 坊主は俺の笑顔を黒い、とか言ってたが、そんなに悪く見えるかね?

 虚空から錫杖を二本出し、坊主の二刀流とは違う、槍の二刀流として構える。

「鬼…か。吸血鬼じゃなければ相手にならねえよ。雑魚!」

「複合体である私を雑魚と呼ぶか。ふふっ、おもしろい。実に活きの良い人間だ。飽きるまでなぶらせてもらうとしよう。」

 鬼の爪は猫のように伸び、凶暴性を帯びた形状になる。

 赤褐色の肌を昂らせ、俺も体の芯を沸騰させていく。

 沈黙の三秒間。

 互いのエンジンを最大まで廻して爆発力を高める。

「はっ!」

「ふっ!」

 人間と鬼

 相入れない両者の力比べが、暗い洞窟に響き渡る。…さあ、もう一つの修羅が生まれる。

 


コ・ラ・ボじゃーーーい‼

はい、すいません。読者ほっといてすいません!

え〜、今回は一つ大事なお知らせをさせていただきます。

以前のあとがきで書きましたが、面白い企画として、他の作者様とコラボをしようと言う話になりました。

作者様の名前はかわまさ先生

主な作品は『転生した俺は勇者として魔法世界を救うそうですよ?』です。

ですが、今回は『転生する前の俺は、普通の日常を満喫するそうですよ?』とのコラボです。

同じ学校の学年で同じクラスと言う事で今回のコラボは成立しました。

具体的な作品の投稿時期は未だ不明ですが、今回の話でも少しコラボが入っております。

今後も何か情報が決まり次第お知らせさせていただきます。

では、今回はこの辺で。

皆様、また次回でお会いしましょう。


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