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私は神様に好かれたらしい  作者: 鳥魔莉沙


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3/3

神様、服を買う

お昼を食べて、とりあえず服を買うことにした。

一様リードも__


とりあえず。


「服、買いに行きましょう」


「服?これじゃダメか?」


アマテラスが首を傾げる。昨日の黒柴と同じ角度だ。ずるい。


「その格好で外は無理です」


黒Tシャツ一枚。しかも私の。ちょっとぶかぶかで、裾からのぞく脚がやけに目立つ。


「問題あるか?」


「あります」


即答した。


財布の中身を確認する。

……うん。見なかったことにしたい残高。


「足りるのか?」


背後から覗き込まれて、私は思わず財布を閉じた。


「だ、大丈夫です!セールって偉大なんです!」


「せーる?」


「人類の希望なんです!」


アマテラスはよく分からないという顔で瞬きをした。


とりあえず、私はクローゼットからパーカーを引っ張り出して彼女に渡す。


「羽織ってください」


「暑い」


「神様なんだから我慢してください」


アマテラスは不満そうにしながらも、パーカーに腕を通した。

パーカーのフードから黒髪がこぼれる。


「……重いな」


「布ですからね」


玄関に向かいながら、私はふと思い出す。


「あ」


「どうした」


「一応……その……」


下駄箱の上に置いてあったリードを、私はそっと手に取った。


昨日、念のために買ったもの。


アマテラスの視線がそれに落ちる。


沈黙。


「それは何だ」


「……保険です」


「誰に対する」


「近所の目に対するです」


アマテラスはしばらくリードを見つめてから、ゆっくりと顔を上げた。


「私は神だぞ」


「昨日まで犬でしたよね?」


痛いところを突かれたのか、ほんの少しだけ眉が動く。


「……持つだけなら許す」


「つけませんよ!?」


慌てて否定する。


なんとなく、つけたら太陽が沈みそうな気がした。


ドアを開けると、昼の光が一気に差し込んできた。


さっきまでの雨が嘘みたいに、空は青い。


アマテラスが目を細める。


「やはり、これくらいがいい」


「自分でやったんですよね?」


「うむ」


悪びれる様子はない。


神様って自由だ。


玄関の鍵を閉めて、並んで歩き出す。


アマテラスは周囲をきょろきょろ見回していた。


「人間の街というのは、面白いな」


「そうですか?」


「同じ形の建物が並んでいるのに、どれも違う匂いがする」


「匂いで判断してるんですか」


「昨日までは犬だったからな」


ちょっとだけ誇らしげに言う。


なんでそこ誇るんだろう。


歩いていると、すれ違う人たちの視線がちらちらとこちらに向く。


そりゃそうだ。


パーカー一枚の美人が、堂々と歩いてるんだから。


「……見られてますね」


「なぜだ?」


「その格好です」


「布は着ているぞ」


「布の問題じゃないんです」


ため息をつきながら、私は少し歩幅を速めた。


商店街に入ると、人の数が増える。


セールの旗が揺れていた。


「ほら、あれです」


「せーるか」


アマテラスが看板をじっと見る。


「安くなるのか?」


「そうです!人類の味方です!」


「なるほど」


少しだけ興味を持ったらしい。


店に入ると、冷房の空気が肌に触れた。


アマテラスがぴくっとする。


「寒いな」


「さっき暑いって言ってたのに」


「極端だ」


文句が多い神様だ。


適当にTシャツとスカートを手に取る。


できるだけ安いやつ。大事。


「これ、どうですか?」


アマテラスに当ててみる。


鏡の前。


黒髪にシンプルな白のトップス。


「……」


「似合ってますね」


「そうか?」


「はい。すごく」


正直、モデルみたいだった。


アマテラスは鏡をじっと見つめる。


「人間の姿というのは、不思議だな」


ぽつりと呟く。


「どういう意味ですか?」


「昨日まで四つ足だったのに、今はこうして立っている」


「まあ……そうですね」


「だが」


アマテラスは少しだけ首を傾げた。


「悪くない」


その言い方が、少しだけ嬉しそうに聞こえた。


会計を済ませる。


レジの数字を見て、内心ちょっとだけ泣いた。


「ありがとうございましたー」


店を出る。


紙袋を抱えて、私は空を見上げた。


青い。


どこまでも青い。


「……晴れてますね」


「当然だ」


隣から即答が飛んでくる。


私は小さく笑った。


「じゃあ、その力……あんまり使いすぎないでくださいね」


「なぜだ?」


「……そのうち、バカになるんですよね?」


アマテラスが一瞬、固まる。


「誰から聞いた」


「なんとなくです」


適当に言っただけだけど、図星っぽい。


「……気をつけよう」


珍しく素直だった。


少しだけ、風が吹く。


洗濯物がよく乾きそうな風。


私は紙袋を抱え直した。


「帰りましょうか」


「ああ」


並んで歩く。


影が二つ、地面に伸びていた。


ひとつは人間。


もうひとつも、今は人間。


でもその正体は――太陽。


「未乃」


「はい?」


「腹が減った」


「帰ったら何か作ります」


「楽しみだ」


その言い方が、少しだけ子供みたいで。


私はまた、少しだけ笑った。

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