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私は神様に好かれたらしい  作者: 鳥魔莉沙


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拾った犬は神でした

雨は、嫌いじゃない。


好きかと聞かれたら困るけど、街の音が少しだけ静かになる感じは悪くないと思う。


コンビニの自動ドアが閉まると同時に、外の雨音が一段とはっきり耳に届いた。


「お疲れ様でしたー」


店長の声に軽く頭を下げて、私は傘を開く。


時刻は夜21時過ぎ。住宅街へ続く道には人影も少なく、街灯に照らされたアスファルトが黒く光っていた。


一歩踏み出すと、水たまりが小さく揺れる。


「……あれ、明日もバイトだっけ?」


シフト表を頭の中で思い出そうとしながら歩く。


「テストも近いし、できればシフト入ってなかったら嬉しいんだけど」


そんなことを考えていた、その時だった。


後ろから近づいてきた車が、水たまりを__


ばしゃあっ!!


豪快に跳ね上げた。


「……え?」


一瞬、何が起きたのかわからなかった。


次の瞬間、冷たい感触が腕に広がる。


視線を落とすと、バイト代で買ったばかりの薄いベージュの上着が、見事にまだら模様になっていた。


雨よりも重たい水滴が、ぽたぽたと袖から落ちていく。


「……もう最悪」


小さく呟く。


怒鳴る相手もいないし、追いかける元気もない。ただテンションだけが静かに沈んでいく。


「今日は気になってたアニメの放送日なのに……」


ため息を一つ吐いて、歩き出そうとした時。


視界の端に、黒い塊が見えた。


道路脇の電柱の下。


雨に打たれながら、小さく丸まっている。


「……犬?」


近づいてみると、それは黒柴だった。


けれど、どこかおかしい。


ぐったりしていて、ほとんど動かない。


濡れた毛が体に張り付いて、呼吸も弱々しい。


「ちょ、ちょっと……大丈夫?」


しゃがみ込んで顔を覗き込む。


逃げる様子も、吠える気配もない。ただ、かすかに瞼が震えた。


首輪はない。


捨て犬だろうか。


一瞬だけ迷う。


頭の中で、現実的な声がする。


高校生の一人暮らしで犬?無理でしょ。

お金かかるよ?

そもそも連れてっていいの?


そう思い、スマホの連絡先を見る。


「こういう時誰かに相談できたらいいのに……」


再び捨て犬を見つめる。

捨て犬もこちらを見つめている。


「やっぱり……見過ごすの、無理だよね」


気づけば、私は自分の傘を犬の方へ傾けていた。


上着がさらに濡れるのも構わず、そっと抱き上げる。


思ったより軽い。

それに雨で冷えているはずなのに、少し温かい。


驚くほど。


「よし……とりあえず、うち来る?」


返事があるはずもないのに、そう声をかける。


黒柴は抵抗しなかった。


それどころか、ほんの少しだけ体を預けてきた気がした。


「暴れないんだ。クールな子なのかな」


小さく笑う。


家に着く頃には、私のスカートも靴下もびしょ濡れだった。


玄関でタオルを引っ張り出し、すぐにお風呂の準備をする。


「熱すぎるのはダメだよね……ぬるめ、ぬるめ」


慎重に体を洗って、泡を流す。


黒い毛並みが水を含んで艶やかに光った。


「わ、ちょっと美人じゃない?」


「ん?犬だし美犬か……」


タオルで拭きながら呟く。


ドライヤーを当てると、犬は気持ちよさそうに目を細めた。


やっぱり大人しい。


お風呂のあと、急いで近所の店まで走ってドッグフードを買ってくる。


予定外の出費に少しだけ胸が痛んだけど、この子が空腹なのはもっと嫌だった。


お皿に盛ると、黒柴はゆっくりと食べ始めた。


「よかった……」


その姿を見ているだけで、不思議と心が温かくなる。


時計を見ると、もうアニメは始まっていた。


今日は諦めよう。


代わりに、ベッドの横に毛布を敷く。


「おやすみ。明日は動物病院、行こうね」


電気を消すと、雨音だけが部屋に満ちた。


目を閉じる。


すぐに眠気がやってきた。


そして__。


朝。

違和感で、目が覚めた。


重い__。

何かいる。


恐る恐る視線を向ける。


そこには。


私の黒いTシャツを一枚だけ着た、黒髪の少女が立っていた。


裾が少し余っていて、太ももがやけに眩しい。


寝起きの頭が理解を拒否する。


数秒の沈黙。


少女が口を開いた。


「おはよう、人間……」

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