竜の神様、修行に行く。
食べて、遊んで、夜は爆睡だった。
あ、ちゃんと小さい方のベッドで寝たけど、翌朝しっかりオミさんの腕の中だった‥。頑張れ〜私。それも今日までだ。
今日からオミさんは、私の夏休み終了ギリギリまで修行だ。
薄い壁を隔てたような空間で修行とは?神様の世界って、本当によく分からない‥。
朝ご飯を一緒に食べるけど、オミさんにとっては1年、私にとっては2週間‥。しばらく離ればなれなのでお肉も朝だけど焼いて出してあげると嬉しそうに食べて、
「また昨日の牛肉食べたい」
「あれはもうお値段が凄すぎて‥」
思わず遠い目で昨日のお肉の味を思い出した。
あんな高級なのこの先また食べる機会が訪れるのだろうか‥。
お皿を片付けて私はバイトだし、オミさんはこの後すぐに蛇神様が迎えに来るらしいから、玄関で一旦お別れだ。
‥泣くなよって言われたけど、やっぱり寂しいなぁ。
靴を履いて、オミさんの方を振り返る。
いつものようにジーンズのポケットに手を突っ込んでこっちを見ているオミさん。髪も結べっていうので、今日はハーフアップして後ろはお団子にしてある。修行の邪魔にならないといいけど‥。
「‥えーと、行ってきます。オミさん、体に気をつけて下さいね。あ!野菜は食べて下さいよ、髪もちゃんと乾かして、あとはえーと‥」
「青葉」
「はい?」
「泣くなよ」
「‥だから、泣きませんって」
いつの間にか俯いていた自分の顔を上げると、オミさんが小さく笑って私の頬を指でそっと撫でる。ドキッと心臓が跳ねた。な、何をするんだ!!?オミさんはそんな私に構う事なく、頬を撫で続けるので目がウロウロしてしまうんだが!??
「‥ちっとは寂しいって泣け」
「嫌ですよ、子供みたいだし」
「りんごだろ?」
「乙女です!!」
口を尖らせると、その唇にオミさんの指の腹が触れる。
「‥オミさ、」
スリッと、ゆっくり唇の上を指がなぞっていく感覚に、ドキドキするし目が回りそうになる。完全に私の顔が真っ赤なのが分かる。
視線だけ、そっと上げるとオミさんと目が合う。
わぁああ!!な、なんでそんなじっと見てるんだよ!!!思わず目を逸らすと、指がピタリと動きを止める。
な、何??
なんで動きを止めた???
そろっとオミさんを見上げようとすると、突然鼻をつままれた!
「「ふがっ!!!」」
「この間のお返しだ」
「もう!!!このガキンチョ!!」
今、本当に心臓がバクバクいってるのに!!
こっちの気も知らんと!いや、知って欲しくないけど、脇腹をパンチしていると、オミさんの大きな腕がぐるっと私の首回りに回されて、そのまま胸の中に引き込まれた。
な、何をする〜〜〜!!!慌てて、腕で押し返そうとすると、
「‥気をつけろよ」
静かな低い声に、ハッとしてそっと上を向くとオミさんが寂しそうな笑顔で私を見つめているのに気付いた。瞬間、目を見開いて、はくっと、口だけが動く。
「「おはようございます!本日もお迎えに上がりました」」
「「「「わぁああああ!!!!はい!どうもぉおお!!!」」」」
シキさんの声に、ものすっごい勢いでオミさんから離れた。
み、見られた?!!見られた???
真っ赤な顔で私はシキさんと、オミさんを交互に見ると、オミさんがニヤニヤ笑っている。その笑いの意味とは??
「じゃあ、りんご精々バイトに励め」
「〜〜〜〜オミさんこそ!!じゃあ行ってきます!!」
「お〜、じゃあな」
オミさんが面白そうに笑って、手を上げるのを見てから私はそっと引き戸を閉めた。
寂しいって気持ちよりも、恥ずかしいって気持ちで一杯で今は良かったかもしれない‥。葉月さんのお店の屋上の扉を開けると、今日も雲ひとつない快晴だ!
「今日も暑くなりそうですね」
「はい、気持ち良い天気ですね」
シキさんがにっこり微笑み、私も微笑み返した。
よ〜〜し、留守中‥いっちょ私も勉強頑張ろう!そう思って、一階の葉月さんの店へ勇み足で降りて行った。




