竜の神様、諭す。
結局大量のアクアパッツァは、肉じゃない!って言ってたけど、一口食べたら美味しかったのだろう。ガツガツ食べて、オミさんの腹の中にスルスルと収まっていった。
‥本当に毎回思うんだけど、その体は何で出来てるの?
「‥あくあぱっぱ、美味かった」
「それは良かったです」
いつもは感想をあんまり言わないのに、よほど気に入ったらしい。
あとやっぱり言えてない。
「明日も休みかぁ、勉強もしておかないとだなぁ」
「こっちに来てまで勉強すんのか?」
「そりゃ、大学を無事卒業したいですし‥」
「ふ〜〜ん」
そのふーんは一体なんなんだ。
私はリビングで勉強しようと、二階から勉強道具を取って来て、ローテーブルにノートを置くと、パッと突然また山のようなお見合いの釣り書きが現れる!
「「え、ええ??ま、また??」」
「しつけーなぁ‥」
オミさんがチッと舌打ちして、釣り書きをジロリと見る。
うーん、ちょっと嬉しいけど、これはどうにもならない恋だ‥。オミさんからそっと視線を外して、釣り書きをぱらっと開く。
薄いグレーの髪に、優しそうな顔をして微笑んでいる男性が写っている。
傷が浅いうちに、離れた方がいいのかな。
それとも大学までは我慢してもらう?
でも、さっきファルファラさんが来年結婚するって言ってたけど、私と契約している間は国に帰れないんだよね‥、そうなったら心を許せるファルファラさんの結婚式にさえ出られないって事になるな。
さっきまでちょっと忘れていた胸がまたジクジクと痛みだす。
「何だよ、そいつ気に入ったのか?」
オミさんの声が頭の上からして、顔を上げるとオミさんが眉間にシワを寄せて私を見下ろしている。
「‥あ、いえ、結婚しても大学卒業させてくれるかなって‥」
私がそう言うと、オミさんの目が丸くなって、すぐにギロッと睨む。
「だから、そういう大事な事は慎重に選べって言ったろ」
「そうですけど‥、でも、オミさんが」
「しつけーなぁ。俺はいいんだよ、俺は」
「いやいや、そういう訳には‥」
「お前、本当強情だな」
オミさんはそういうと、私の後ろにドサッと腰を下ろす。
「第一、こいつ弱いぞ」
「そういう基準では選ばないかなぁ?」
ブツブツと言うけど、優しいオミさんなりの気遣いに胸が痛くなる。そうは言っても、オミさんの人生をこれ以上犠牲にはできないよ‥。
私はまた釣り書きの顔をぼんやりと見つめる。
好きって言ったら、何か変わるんだろうか。
蛇神様がヒントで「好き」って言えって言ったけど‥、今はその一言がとてもじゃないけど、言える気がしない。
オミさんは、私の手からヒョイっと釣り書きを取ると、
「こっち読め」
と、雑誌を渡してくる。
中身を見ると、
『こんなはずじゃなかった!私と彼の恋!』
と、書かれた記事だ。
‥え、こんなのオミさん読んだの??驚いて、オミさんを振り返ると、ブスッとした顔のオミさんは私を見て、
「神と結婚するってのは、こんな風に付き合って、やっぱ別れるとか簡単にできるもんじゃねーんだぞ?」
「そ、そうなんですか?」
「魂と魂が結ばれるんだ。こんならいとな関係じゃねーからな!」
らいと‥。
オミさんの言葉に、小さく笑う。
「あ、何笑ってんだよ」
「いや、オミさんの横文字面白いなって」
「「てめ、バカにしてんだろ!」」
「さ、どうぞご唱和下さい!アクアパッツァ!!」
「あくあぱっ‥ああもう!!それなんて呪文だ!!」
「「料理名です。他にもバーニャカウダ、ブルスケッタ、カルパッチョ、ペスカトーレとかあります」」
オミさんは目を丸くして「完全に呪文じゃねぇか!!」と、言って不貞腐れた顔をする。私はその様子に思わず笑ってしまう。
本当に心配してくれる気持ちも嬉しくて、もう少し‥、
もう少しだけ一緒にいてもいいかな?甘えていいかな?魂を結ぶっていう結婚を確かに急いでも仕方ないのかな‥、そう自分に言い聞かせてみた。
オミさんを見上げて、小さく微笑む。
「‥明日はアラビアータにします」
「また呪文だ」
いえ、料理名です。
ぶっと吹きだしてひとしきり笑った。オミさんはそれを完全に拗ねた顔で見てた。ごめんって‥。




