竜の神様と、氷のメンタル。
オミさんへの気持ちに気付いてしまったけど、私にはどうにも出来ない。
だって好きって言っても、あっちにその気がなければ契約期間中地獄だ‥。無理、死ぬ。私のメンタルが考えただけで氷のように削られてしまう。
「‥黙っておくしかないよなぁ」
‥とはいえ、オミさんを解放したい。
いつまでも契約を先延ばしにして、オミさんを縛り付けていてもダメだ。
誰かと一緒にならないと、オミさんを解放できないし、気持ちを言っても、あっちにその気がなければ地獄だし。あ、ダメだ削られる‥私のメンタルもう早速削られてる。
最初から気持ちを言えないような状況に思わずため息が出る。
始まる前から終わってる恋じゃないか。
胸がジワリと痛むけど、まだ傷は浅い!!浅いぞ、青葉!!首を横にブンブンと振って、前に進むしかない‥そう思い直す。
「ひとまず、夕飯の仕込みでもするか‥」
冷蔵庫の扉をガコッと音を立てて開くと、さっき「夕飯は魚」と言ったからか、ものすごい立派な鯛が入ってる。え、すごいんだが!?鯛の上にメモが置いてあって、ご丁寧に「アクアパッツァの作り方」とか書いてある。
至れり尽くせり感が本当すごい!!
蛇神様の別荘から帰った自分がちゃんと生きていけるのか今から不安だ。冷凍庫を見たら海鮮のパックまで入ってるし、これはもうアクアパッツァ決定だ。
メモを見ながら仕込みをして、あとは火にかけるだけ‥そう思っていたら、
「青葉」
「へ?」
振り返ると、トレーにカップをのせたオミさんがキッチンの入り口で立っている。さっき自分の気持ちに気付いた私はドキッとするけど、平静だ。平静を装うのだ。
「お茶のお代わりですか?」
「ちげぇ、そろそろ帰るって」
「「え???もう??」」
「結婚の知らせだけしに来ただけだ」
「ああ、なるほど‥」
トレーを受け取って、流しにカップを置きつつ会話をするけど、へ、変じゃないよね??務めて冷静を装ってるけど、いつも通りだよね??
「あ、じゃあお見送り‥」
「青葉、お前大丈夫か?」
「へ??」
「顔色悪いぞ」
オミさんが私の顔を覗き込むので、瞬間赤くなる。
「あ、戻った」
「「いきなり覗きこまれたら、そうなります!!」」
ギロッとオミさんを睨み付けると、オミさんはニヤニヤ笑って面白そうに見る。
‥くそ、こっちの気も知らないで。いや、知らなくていいけど。
「まったくもう!!えーと、お見送りに行きましょうか」
「おう。蛇神も帰らねーかな」
「‥え、帰っちゃうんですか?アクアパッツァ大量だけど‥」
「あくあ???」
「アクアパッツァです」
「あくあぱっあ」
ぶっと吹きだして、オミさんを見上げる。
「言えてない!全然言えてない」
「うるせぇ」
オミさんはちょっと目を横に逸らして、リビングへ向かうので私も一緒について行く。
すでに玄関で蛇神様と立っていたファルファラさんは、ニコッと微笑み、私の手をそっと取ると、
「ルディオミ様をどうぞよろしくお願いいたしますね。いずれまた」
「は、はい!ぜひまた」
うう、綺麗‥、そして可愛い。
こんな柔らかい笑みされたら好きになっちゃうな。
私はファルファラさんに微笑むと、嬉しそうに笑って「今度お茶しましょうね」という素敵なお誘いをしてくれた。蛇神様は、「また明日な〜!」と言って、ファルファラさんを国まで送って行ってしまった‥。
今はいて欲しかったなぁ〜〜‥。
そう思いつつ、そっと扉を閉めた。
あの大量のご飯、どうしよう‥。そう思いつつ、オミさんを見上げると、オミさんも私を見ていた事に気付いた。な、なんだよ!!驚くじゃないか!!
「「な、なんですか?!!」」
「‥いや、今日の夕飯、あくあぱあってどんな料理なんだ」
「また言えてない!アクアパッツァ!」
「あくあぱっぱ」
またも吹き出す私に、「笑うな」って言いつつ、「あくあぱ‥」「あくぱっ‥」って、言おうとしながらリビングへ戻っていくオミさんを笑いつつ、一緒に戻っていった。難しいかなぁ〜?アクアパッツァ。




