竜の神様、助けに走る。
授業が終わって、今日は雨なので皆あちこちで食べている。
‥オミさんといると目立つしなぁ。
でも空き教室は、今日は雨でほとんどなさそうだ。
「どこで食べましょうかね‥」
私がそういうと、オミさんが周囲を見て、
「屋上の手前の部屋、空いてたはずだ」
「‥オミさん、私より教室知ってますね‥」
私なんてまだ教室、全部覚えきれてないのに‥。
ニヤッとオミさんが笑って、スタスタと歩いて行くので私も急いで後をついて行く。
電気は点いているのに、雨だからか校内全体が薄暗く感じる。
朝よりもザアザアと強い雨音がして、外を見ると結構降っている。
「‥今日バイトなのに、ビショビショになりそうですね」
窓の方を見て、オミさんに話しかけたけど、返事がない。
ちょっと無視か?!
前を見ると、辺りが真っ暗になっている。
「え??」
驚いて、周囲を見ようとすると、ビシャッと足元から水音がする。
水?
足元を見ると、水溜りが校内なのにあちこちにあるのが見えて、首を傾げる。いつの間にこんなに雨水が溜まったんだ??そう思って水たまりをみると、その水面から紺色の傘を持った人がこちらを見ているのに気付く。
背中が瞬間ゾクッとする。これは、マズイ。
慌ててその水溜りから離れて、急いで水溜りが無さそうな場所を探して走る。
っていうか、さっきオミさんと一緒にいたのになんで!?
私の身の保証はどうした!??
なんだか嫌な気配がこちらへドンドン近付いてくるけれど、怖くて後ろを見られない。
階段を駆け上がって、オミさんが行こうと言ってた教室へ走る。
と、目の前に水溜りがあって、その中から紺色の傘の先がぷかっと浮いてビシャビシャと水音を立てながら、傘を差したまま出てきたかと思うと、こちらをじっとり見る。慌てて後ずさろうとするけれど足が動かない!!
ど、どうしよう…。
ドクドクと胸が鳴って、手の甲のトカゲのマークをぎゅっと掴む。
「「お、オミさん!!!!!」」
思い切り叫ぶと、紺色の傘から真っ黒い何かがこちらへ飛びかかってくる。
目を見開いた瞬間、目の前に薄い水の膜がいっぱいに広がる。
「「青葉!!!」」
水の膜の中から、オミさんが出てきて私の体を抱きしめたかと思うと、ドンッとものすごい音がして火柱が上がる。
え、た、助けに来てくれた??
ポカンと口を開けつつオミさんを見上げると、オミさんはビシャビシャになっていて、そんな事も構わず飛びかかってきた黒い何かを睨みつけている。
「いっちょ前に幻覚なんて使いやがって‥」
「げ、幻覚??」
「外の雨見たろ。あの時に催眠かけられて、こっちの世界に引っ張られてた」
雨の様子を見ただけで!??
もう倒れていいですか??雨音が怖くなるじゃないか!
遠い目になっていると、黒い何かは火柱の中でもがき苦しむように動いている。
え、あの火柱の中でも動けるの??
ぞわぞわして、オミさんの体に思わずギュッと抱きつくと、オミさんが一瞬体を強張らせて私を見る。
「‥お前‥」
「な、なんですか?あ、あれ、大丈夫なんですか?」
「もう祓い終わる」
「はら‥??」
私がそう言うと、火柱の中の黒いものは悲鳴をあげたかと思うと、ジュッと焼けた音と共に消えてしまった‥。
祓うって言うより、焼いた気がするけど‥、
とりあえず大丈夫なのかな?
オミさんの服を掴んだまま、そっとその焼けた方を見ると、オミさんが面白そうに笑って私を見る。
「ビビりすぎ」
「あ、当たり前ですよ?!なんか嫌な感じのするものに追いかけられたら‥」
「わーった、わーった。泣くなよ?」
「泣きませんよ‥」
流石に3回目だし?
でも、怖いものは怖いけど‥。
オミさんの服を掴んでいる私の手を見ると、震えてる‥。自分でも気がつかなかったけど、怖かったのか。
少しでも落ち着こうと、深呼吸すると、オミさんの大きな手が私の手を包むように握る。
「もういない」
「‥‥は、い」
大きなオミさんの手は、水に濡れているはずなのになんだか熱くて、それだけなのに胸がギュッと痛くなる。もう片方の空いてる手がそっと背中を叩いてくれて、驚いて顔を上げると、私の視線に気付いたオミさんがプイッと横を向く。
「‥も、もう大丈夫か?」
‥もう大丈夫。
そう言おうとしたのに、言葉が出てこなくて首を横に振ったらオミさんも何も言わず、私の背中を優しく叩いてくれた‥。なんだかそれだけなのに、不思議なくらいく安心した。




