第76話 恵比寿ラブストーリー6
ここは恵比寿のアメリカ橋。
会社帰りのサラリーマンやデートをしているカップルが行き交う中、ヨウタとナオキは客先での打ち合わせを終え、ビール工場跡地に建設中の高層ビルを横目に最近オープンしたばかりのイタめしの店へと向かっていた。
ちなみに、イタめしとはバブル時代に流行したイタリア料理を指す言葉である。
「ナオキ、その店本当に美味いんだろうな?こないだお前が美味いって言ってた店に女の子連れて行ったら、ヨウタさんって食べ物のセンスは無いんですねって言われちまったじゃねえか?」
「はははっ、やっぱりあの店ダメでした?」
「ダメでした?ってお前!まさか行ってもない店を薦めたのか!?」
「いやっ、あはははっ!だ、だから今回は本当に美味くてデートに使える店か下見に付き合ってるんじゃないですか!?そ、それより女の子って誰ですか?もしかして、スキー旅行のあの子ですか?」
「んっ?話変えたな。まぁいいか。女の子は先月コンパで知り合った子だよ。つーか、スキー旅行の子はお礼だけ言ってすぐにいなくなったのをお前も見てただろうが。」
スキー旅行でヨウタが助けたアリス似の女は結局お礼だけ言うと顔を真っ赤にして逃げるようにラウンジを後にしていた。
「だってヨウタさん女の子達がいなくなって、しばらく茫然としてたかと思えば突然血相変えてラウンジを飛び出して行ったじゃないですか?あの時、実は連絡先とか聞いてたんでしょ?」
「お前も疑り深いな。追いかけたけど会えなかったって説明しただろ。」
「本当ですかー?」
「あんまりしつこいとメシおごってやんねぇぞ。」
ヨウタは我に戻ると女を追いかけたものの、女が乗った帰りの夜行バスと行き違いになり話をする事は出来ず、あれから2週間が経っていた。
「ヒィっ!?それは勘弁して下さい!今月、スキー旅行のおかげで金欠なんですよぉ!でも、ヨウタさんの助けた子マジで可愛かったですよねぇー。」
「お前、まだ言うか!?」
「あっ!ほら、ヨウタさん店に着きましたよ。ここです。」
ヨウタ達は路地裏にある雑居ビルの一階に入る真っ白な石造りの外壁と植え込みのオリーブの木が目を引く店の前に立っていた。
入り口横のお洒落なデザインの看板には「Olive」と書かれている。
「なんだ俺の家の近所じゃないか?こんなシャレオツな店が出来てたのか?」
「さあ、早く入りましょう!」
「ああ。」
ヨウタ達が店の中に入ると店内は食事をする客で賑わっていた。
すると、ヨウタ達に気付いたミニスカートのメイド服のような制服を着た女の店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?…あっ!?」
「あっ!?キ、キミは!?」
それはヨウタがスキー旅行で助けた、あのアリスにそっくりな女だった。
2人が驚きの声を上げて固まっていると、後ろにいたナオキが女に気付き声を上げた。
「あっ!スキー旅行の時の女の子じゃないですか!?すげー偶然!ヨウタさん、良かったじゃないですか、まさか運命!?」
固まる2人をよそにナオキが騒ぎ立てていると厨房の方からコック服を着たワンレンの女が様子を見にやって来た。
「リサ、どうしたの…あっ!?アナタ達はあの時の!?ウソー!どうしてここにいるの!?」
「どうしてって美味いイタめしの店がオープンしたって聞いて食べに来たんだよ。ねっ、ヨウタさん?」
「あ、ああ、そうなんだ。あのキミ達はここで働いてるのかな?」
「ええ、ワタシもリサもここでバイトしてるの。」
「へぇ、そうなんだ。」
「リサったらスキー旅行から帰ってきてもずっとアナタの事、話してたのよ?あぁっ、ワタシの王子様!ってね。」
「えっ?そうなの?」
「もうっ!カズミったら余計な事言わないで!」
「はいはい。それじゃ、ゆっくりして行ってね。あっ、ちなみにリサとワタシはあと1時間でバイト上がりだから。ウフフ。」
カズミはそう言うと顔を真っ赤にしたリサを残し厨房の方へと去って行った。
「あ、あのお食事ですよね?こ、こちらのテーブルにどうぞ。」
リサはヨウタ達を窓際の席に案内すると水を取りに厨房へと去って行った。
「ヨウタさん、これはチャンスですよ!もうすぐバイトも終わりだって言ってたしこの後飲みにでも誘ってみましょうよ。」
「うるさいな。注文は決まったのか?」
「チェッ、ヨウタさんらしくないなぁ。いつもだったらすぐに口説き出すくせに…。」
「俺には俺のタイミングってもんがあるんだよ。それ以上余計な事言うならマジでおごってやらないからな。」
「はいはい。うーん、何にしようかなっと。」
ヨウタ達がメニューを見ているとリサが水とおしぼりを持ってきた。
相変わらずその顔は真っ赤に染まっている。
「お水とおしぼりになります。あ、あの注文がお決まりでしたらお伺いします。」
「ヨウタさん、何を食べても良いんですよね?」
「ああ、いいよ。」
「そんじゃあ、このボロネーゼとコトレッタと生ハムとチーズの盛り合わせとこのマルゲリータとかいうピザと…。」
「おいおい!まだ頼むのかよ!?」
「せっかくなんで明日の朝メシ分も食べておこーかと。あっ!あとこのアクアパッツァとビール、それと食後にティラミスをお願いします!」
「お前、絶対残すなよ!残したら仕事の量を倍にするからな!」
「大丈夫ですよ。俺、今が育ち盛りなんで。」
「あのなー、お前もう24歳だろうが。」
「ヨウタさん、俺の胃袋はまだ育ち盛りの中坊並みなんですよ。」
「胃袋だけならまだしも頭の中も中坊並みだけどな。」
「あっ、ひでーなぁ!どうせ俺の頭の中は中坊並みですよーだ!チクショー、こうなったらもっと食べてやる!追加でこのラザニアもお願いします!」
「おいおい!マジかよ!」
ヨウタがナオキに呆れているとリサの顔から笑みが溢れた。
「ウフフっ、あっ!?す、すみません!お2人仲が良い、んですね?同じ会社なんですか?」
「は、はい、困った後輩です…。」
思わずヨウタがリサの笑顔に見惚れていると、リサは恥ずかしそうに顔を背けた。
「…あっ、あの、ご注文は?」
「す、すみません。俺はボンゴレとイタリアンサラダと、このワインをグラスでお願いします。」
「か、かしこまりました。」
「あ、あの、それともし良ければバイト終わったら俺たちと飲みに行きませんか?と、当然、さっきのお友達もご一緒に…。」
突然のヨウタの誘いに更に顔を真っ赤にしあたふたしていたリサだったがが、厨房の方から覗き込むように様子を見ていたカズミと目が合うと小さく頷いた。
「…は、はい。」
「それじゃあ、1時間後この店の外でまってますね。」
「はい。」
リサは返事をすると恥ずかしそうに厨房の奥へと去って行った。
それからヨウタとナオキは運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら食事を終えると約束通り、店の前でリサ達を待っていた。
「あー!美味かったぁ!ヨウタさん、ご馳走様でした!」
「本当この店のイタめしは美味かったな。それにしてもお前少しは遠慮ってもんをだな…。」
「あっ、来ましたよ!うひょー、2人ともめちゃくちゃ可愛いじゃないですか!?」
ヨウタが振り向くと店の裏手から私服に着替えたリサとカズミが歩いてくるのが見えた。
「お、お待たせしました。」
「お待たせしましたぁ!ワタシも誘ってもらちゃって良かったんですか?」
「俺の方こそ急に誘ったりして迷惑じゃなかったかな?えーと、カズミさんで良いかな?」
「さん付はやめてよー!アナタ達の方が年上でしょ?そうだ!ちゃんと自己紹介してなかったわね。ワタシはカズミでこの子はリサ。同じ大学に通ってるの。アナタ達は?」
「俺たちはデンワンっていう会社に勤めてる。俺はヨウタでコイツは後輩のナオキ。ヨロシク。」
「デンワンって、あの大手広告代理店のデンワン!?一流企業じゃない!?」
「ま、まぁ大した事ないよ。それよりお腹空いてるよね?何か食べたいものあるかな?」
「もうお腹ペコペコよ。ねっ?リサもお腹減ったわよね?何食べたい?」
「ワ、ワタシは何でも大丈夫だよ。」
「うーん、それならエスニック料理がいいなぁ。ヨウタさん、どこか美味しいお店知ってる?」
「ああ、それならこの近くに美味しいエスニック料理を出すダイニングバーなら知ってるよ。そこ行ってみる?」
「いいわね!よーし今日はたくさん食べて飲むわよー!ねっ?リサ?」
「そ、そうだね。でもカズミは酔っ払っちゃうと大変だからほどほどにね。」
「大丈夫よ。酔っ払っちゃっても大人のお兄さん達が介抱してくれるじゃない?」
釘を刺すリサをよそにカズミは艶っぽい笑みを浮かべナオキを見た。
「うひょー!カズミちゃん、ノリが良いねー!その通り!介抱ならこの大人のナオキお兄さんに任せなさい!」
「お前さっきまで自分は成長期の中坊並みって言ってなかったか?」
「えっ!?そんな事言いましたっけ?」
「ホント、調子の良い奴だな…。」
「そんな事より2人ともお腹空いてるんだから早く連れて行ってあげましょうよ!」
「それじゃ行こうか。」
こうして、ヨウタとリサは運命的な再会を果たし、夜の恵比寿の街へと繰り出すのだった。




