第74話 グリドール
間も無くしてウィルたちの乗った馬車が城の入口の前に到着すると、そこでは50人程の王宮騎士と神殿騎士が出迎えの為に整列していた。
一斉に敬礼する騎士達を横目にマッカランの案内で城の中へと入るとウィルは思わず声を漏らした。
「うわぁ!すごいな…。」
ウィルの目の前には煌びやかな装飾や壁画に彩られた吹き抜けの空間が広がり、まるで絵画のようなステンドグラスから射し込む光も相まって神秘的な空間が広がっていた。
アリスは今まで見た事の無い美しい光景に目を奪われている。
「フフッ、なかなか良いだろう?これはグリドールがこだわって国中の芸術家や建築家を集めて作らせたんだ。」
「はい。これはすごいですね。」
「グリドールは芸術に造詣が深いからな。」
「そういえば前にカルデはよく演劇を国王陛下と観に行くとか言ってましたよね?」
「ああ、もしかしたらおぬしと気が合うかもな。」
「ははは、だと良いんですけど。」
しばらく話をしながら通路を進むと、ウィル達は一際大きな両開きの扉の先にある謁見の間へと通された。
そこはまるで歌劇場のような作りのドーム状の空間が広がり、正面奥の玉座には無造作に跳ねた緑色の髪を後ろで束ねた目つきの鋭い若い男が座っていた。
その男は王侯貴族が着用するダブレットを着崩し気怠そうに肘掛に肩肘をついている。
そして、壁際には数段の貴族席が設けられ、100人ほどの貴族が座っていた。
「グリドール国王陛下、カルデ様達をお連れしたのである。」
マッカランがそういうと男はニヤリと笑い身を乗り出した。
「おう、カルデ戻ったか。あんまり遅ぇから寝ちまうところだったぜ。それでロベールのジジイは予定通りこっちに来れそうか?」
この粗暴な雰囲気を漂わせる男こそ若干23歳でマクグラン王国の国王を務めるグリドール・ティオネ・マクグランである。
「ああ、それなら、予定通り2週間後にマクグラン王国に来るって言ってたぞ。」
カルデはそう言いながらグリドールの横まで行くといつもの巨大な玉座をどこからともなく取り出し座った。
「そうか、これでようやくボルケニアとも平和条約を結べるな…。」
グリドールは一瞬感慨に耽けながらもすぐに気を取直しトーマスとララを見た。
「トーマスもララもよく戻ったな。色々と気を揉んだが、まさかララが王女だったとはな。まぁ細かい事は後で話すとして、早速だが今回のボルケニア内乱でのお前の働きはなかなかのもんだったぜ。ロベールのジジイにも大きな貸しを作る事ができた。それを踏まえて今日からお前がサウストン領の領主だ。それと爵位は伯爵位をやるから今後も王国の為に尽くせ。」
「グリドール陛下、それはどういう事でしょうか?父上は魔界にはいますが健在です。それに私は継承権を…。」
「ああー、面倒臭ぇなぁ。ハンバー、説明してやれ。」
グリドールが気怠そうに玉座にもたれかかると、貴族席にいたサンタクロースのように真っ白な髭をたくわえた見るからに温厚そうな老人が立ち上がった。
「承知しました。まず、我が国としてはサウストン家の三男であるクラスティ殿のボルケニア帝国内乱への加担と宝剣プロメテウスの盗難を重く見ております。
しかしながら、クラスティ殿は未成年者であり、その責任は父であるブライト殿にあります。本来であれば爵位と領地を没収した上で死罪が妥当ですが、ボルケニア皇帝陛下からの恩赦を与えて欲しいとのお声もあり、爵位と領地の没収のみの処分となりました。そして、トーマス殿は今回のボルケニア帝国での功績とその奥方であるララ様と息子であるラスク様の身分を考慮した結果、新たに伯爵位と現在のサウストン領を与える事になりました。ちなみにこの話は現在魔界におられるブライト殿にもお伝えしており納得されております。以上です。」
この老人はマクグラン王国宰相にしてハンバー公爵家当主のグリモス・パテムント・ハンバーである。
「そういう事だ。反論は聞かねぇ。わかったな?」
有無も言わせぬグリドールの態度にトーマスは諦めたように敬礼をした。
「…承知致しました。有り難くお受けいたします。」
「それじゃ、そこのメイドの嬢ちゃんと脇に下がってくれ。」
グリドールが目配せするとマッカランはウィルだけをその場に残し、トーマス達を壁際の席へと案内した。
グリドールは横目でそれを確認すると、おもむろに立ち上がり玉座に立て掛けてあった細身の剣を手に取った。
「お前がウィルか?」
「はい。ウィル・バークリー・サウストンと申します。」
「お前、ずいぶんとよく斬れる魔法剣を出せるらしいじゃねぇか?出してみせろ。」
「魔法剣?もしかして、これの事でしょうか?」
ウィルがいつものように無詠唱で手に銀震刃を出現させると、周囲の貴族達から驚きの声が上がった。
それもそのはず、この天地界において無詠唱で魔法が使えるのは6人の属性神だけであり、それ以外の者が無詠唱で魔法を使う事などあり得なかった。
「ほう、本当に無詠唱なんだな。それじゃあ、いくぜ!」
「えっ!?」
次の瞬間、グリドールは鞘から漆黒の刀身を抜き放つと、瞬きする間も無くウィルとの間合いを詰め剣を振り下ろした。
ウィルは咄嗟に銀震刃でグリドールの一撃を受け止める。
『ギィィィィイン!!』
ウィルの銀震刃の発する超振動とグリドールの漆黒の剣がぶつかり合い、けたたましい金属音が鳴り響く。
「へ、陛下、突然何をするのですか!?」
「初見で俺の剣を受け止めるたぁ。なかなかやるじゃあねぇか。それじゃあ少し本気を出すぜ!」
そういうとグリドールは休む間も無く斬撃を繰り出しながら魔法の高速詠唱を始めた。
訳もわからずウィルが斬撃を受け流していると、カルデの隔離結界がウィルとグリドールを包み込んだ。
「隔離結界!?」
隔離結界にウィルが戸惑っていると、高速詠唱を終えたグリドールが叫んだ。
「死ぬなよ!爆風打聖十字剣!!!」
グリドールの力ある言葉と共に聖なる風が十字の斬撃となりウィルへと襲いかかった。
「くっ!?亜空間障壁!」
ウィルは亜空間障壁でその一撃を時空の狭間に消滅させると、反射的にグリドールの喉元に銀震刃を突きつけるが、それと同時にグリドールもウィルの喉元に剣先を突きつけていた。
グリドール・ティオネ・マクグラン
男性 23歳
マクグラン国王にして剣帝という異名を持つ剣の使い手。
国王でありながら王宮騎士団の団長も勤めている。
ツンツンと無造作に跳ねた緑色の長髪を後ろで束ねダブレットを着崩しいつも気怠そうにしているが、トーマスに負けず劣らずの美男子。
性格は粗暴だが政治手腕に優れ芸術をこよなく愛する知的な一面も持つ。
前国王の急死に伴い若干16歳で国王に即位するが類稀な政治手腕でマクグラン王国を統治してきた。
暇さえあれば身分を隠して街に出て世直しをしている。
トーマスとは上級騎士学校時代からの無二の親友。
グリモス・パテムント・ハンバー
男性 60歳
ハンバー侯爵家当主にしてマクグラン王国宰相。
サンタクロースのような風貌と温厚な人柄で貴族達からの人望も厚い。
跡継ぎがいない事が悩み。
新年早々筆が進まず投稿に間が空いてしまいました。申し訳ありませんm(_ _)m
これからまた宜しくお願いします^_^
それと年末年始でブクマや評価してくださった皆様本当にありがとうございました^_^




