第72話 信じるも信じないも…
ウィルがナターシャに消し炭にされそうになってから数日が過ぎ、ララとラスクが皇族である事がボルケニア帝国の内外に周知され様々な祝賀行事が盛大に催された。
またそれに合わせウィルの英雄勲章の受勲式典も執り行われ、ウィル・バークリー・サウストンの名声は瞬く間にボルケニア帝国だけに留まる事なく世界中を駆け巡ったのだった。
そして、ウィルはマクグラン王国のグリドール国王から呼び出しがかかりマクグラン王国へと帰国する朝を迎えていた。
ウィルは出発の前にロベールに許可をもらい、オグニイーナが幽閉されている地下牢へ来ていた。
牢屋にはテスカとゲンの作った特殊な隔離結界が張られている。
ウィルは鉄格子の前まで来ると、その中にあるベッドに両膝を抱え込むように座るオグニイーナに声をかけた。
「オグニイーナ、お前に聞きたい事がある。」
「…聞きたい事?ワタシをこんな風にした貴方に?ふざけんじゃないわよ!何も話してなんかやらないわよ!あははははは!」
オグニイーナの高笑いなど気にする様子も無く、ウィルは淡々と話を続けた。
「300年前のあの日、ヘクティアはどうなった?」
ウィルの言葉にオグニイーナは高笑いをやめてベッドから立ち上がると、ウィルのいる方まで近付いてきた。
「なんで貴方がそんな事を聞くのかしら?」
「俺はヘクティアの最後の王であるグラヴィザードの生まれ変わりだ。もう一度聞く。300年前のあの日ヘクティアはどうなった?」
「貴方があの時のバカの生まれ変わり?あははははは!あの時、テスカポリトカに殺されたあのバカの生まれ変わりですって?あははははは!嫌よ!それ位、テスカポリトカやカルデに聞けば!?」
「カルデとテスカが滅ぼした訳じゃない。実際に滅ぼしたお前に聞いているんだ。」
「あははははは!いいわ!教えてあげる。貴方の船を沈めてからワタシとククルカンとセベクであの島に向かってね。貴方が死んだ事を知るとすぐに降伏して来たわ。それでククルカンが提案したの。ヘクト同士で殺し合って最後に生き残った者だけ助けてあげるって。そうしたらどうなったと思う?」
「……。」
ウィルが苦虫を擦り潰すような表情を浮かべると、オグニイーナは愉快そうに話を続けた。
「あははははは!友人、恋人、家族、関係なく殺し合いが始まったわ!最初は子供や老人が殺されていってね!その後は女が殺されて、最後は男同士殺しあってね!それで最後に2人の男が生き残ったの!1人は誰も殺さなかったサンダルフォン!そしてもう1人は立ち向かってくる者を全て殺したメタトロン。どっちが生き残ったと思う?」
「サンダルフォンとメタトロンが!?
…2人とも殺したのか?」
2人はグラヴィザードの実弟であり、国民からも慕われとても仲の良い双子の兄弟だった。
ウィルが顔をしかめながらそう言うと、オグニイーナはつまらなさそうに舌打ちをした。
「正解よ!あまりにその2人の戦いが長くてね。飽きたククルカンは結局2人とも殺したの。でもね。2人ともすごい美形でククルカンの好みだったからすぐに2人とも生き返らせて自分に仕える天使にしちゃったのよ。その時に2人の記憶と無属性魔力は無くなったみたいだけどね。その後は島を丸ごと海に沈めて終わりよ。どう?面白かったかしら?あははははは!」
ウィルの中でざらついた感情が膨れ上がる。
「ヘクト狩りを言い出したのはククルカンか?」
「そうよ。まぁワタシ達を必要としないヘクトなんて必要無いもの。皆、喜んで賛同したわ。あぁ楽しかった!あっ、でも貴方の存在をククルカンが知ったら放っておくかしら?ご愁傷様!あははははは!!!」
ウィルは勝ち誇るように高笑いするオグニイーナを冷ややかに見つめると静かに口を開いた。
「オグニイーナ、何がそんなに面白いんだ?言っとくが俺が死ねばお前も死ぬんだぞ?」
「な、何ですって!?そ、そんな事ある訳ないでしょ!」
「俺はお前の魔力を封印する前に魂呪縛という魔法をかけておいた。効果は単純に俺が死ねばお前も死ぬというものだ。俺が生きている間に封神石の封印が解けて命を狙われても面倒だし、もし俺が誰かに殺されて封印が解けてもどうせろくな事しないだろうからな。
魔法は俺が死なない限り解ける事は無いから、せいぜい俺が死なない事を祈りながら暮らすんだな。」
不敵な笑みを浮かべるウィルにオグニイーナの顔から血の気が引き、みるみるうちに青ざめていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!そ、そんなハッタリ信じないんだから!」
「信じるも信じないもお前の好きにしろ。まぁ俺が死ねばわかるだろ。あははははは!」
そう言うとウィルは騒ぎ立てるオグニイーナを無視して地下牢を後にするのだった。
ウィルが地下牢から外に出るとそこではカルデとテスカが待っていた。
2人の表情は心なしか強張っている。
「オグニイーナから聞けたのか?」
「はい。」
「あちき達が憎いかい?」
「憎くなんてありませんよ。今のカルデとテスカは昔とは別人なんですから…。」
その言葉にホッとしたのかカルデとテスカから笑みがこぼれた。
「そうか…。だが、オグニイーナにかけたという魔法は何なのだ?我はあんな魔法聞いた事がないぞ。」
「あちきも聞いた事ない魔法さねぇ。もしかして…本当にハッタリなのかい!?」
「さあ?それは秘密です。さてと、そろそろ出発しようかなぁー!」
「あっ!ウィル待て!ひ、秘密とはなんだ!?」
「ウィル、そんな魔法があるならあちきにもかけておくれよぉー!」
「あははははは!」
ウィルが誤魔化すように走り出すと、それを追うようにカルデとテスカも走り出すのだった。
こうして、ウィルはボルケニア帝国での戦いを終え、ロベール達に見送られながらマクグラン王国へと帰国するのだった。
後付けとなりますが、これで「第2章 ボルケニア帝国内乱編」は終わりとなります。
皆様は楽しめたでしょうか?
私は書ききれない事や表現出来ない事ばかりでストレスがたまった事もありましたが、相方の協力もあり振り返ってみると楽しかったです^_^
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