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第71話 20年越しのプロポーズ

陽が沈みすっかり暗くなった空の下、ボルケニア城の中庭では所々にランプの柔らかな明かりが灯されガーデンパーティー形式でウィル達の功績を祝う宴が開かれていた。

中庭の中央にある噴水の周りでは舞踏指南役に返り咲いたサーシャを始め数人のの踊り子が華麗な舞を披露し、その周りでは主賓であるテスカやトーマス達が招待された貴族達と出された料理を楽しみながら談笑していた。

そんな中、ウィルは宴が始まってすぐに偏屈ジジイのバトランドとギックリ腰をすぐ人のせいにするメリンダ、そして頑固一徹ボルケニアっ子のゲンのジジババ3人衆にカラまれていた。

「…ウィル殿、だから最近の若いもんは根性が足りんのじゃ!メリンダ殿もそう思うであろう?」

「まったくですじゃ!最近の若いもんは我慢が足りんのですじゃ!ゲン殿はどう思うかの?」

「全くですぜい!最近の若ぇもんは自分ってもんを持っちゃいねぇんですぜ!俺っちの若ぇ時は…。」

「そ、そうですね。それじゃ、俺はロベール陛下に話があるのでこれで…。」

あまりにも癖の強いジジババ3人衆の為か、誰にも助けてもらえず早1時間。

ようやくウィルが抜けられると思った、その時。

メリンダの腰に稲妻に打たれるような激痛が走った。

「ぐはっ!?こ、腰がぁぁぁ!?こ、これぞまさしくえ、英雄の所業じゃぁぁぁ!!!」

「ヒィッ!?か、勘弁して下さーい!」

激痛に顔を歪め崩れ落ちるメリンダの腰に回復魔法をかけるとウィルはその場から一目散に逃げ出すのだった。


ジジババ3人衆からなんとか逃げ切り、ようやくウィルがご馳走にあり付けているとテスカが話しかけてきた。

しばらく他愛もない話をしていると、テスカがふと寂しそうな顔をしたのにウィルは気付いた。

「テスカ、どうしたんですか?」

「そうさねぇ…。もう少しでウィルとしばらく一緒にいられなくなると思うと寂しくてねぇ…。」

「テスカ…。」

テスカは今回の騒動を踏まえ黒曜石の鏡が2度と悪用される事がないよう、一旦、ウィルとは別れてハーディス神教国へと戻り鏡を封印する事を決めていた。

そんな寂しそうなテスカに思わずウィルが見とれていると、次の瞬間、ウィルの頭に激痛がはしった。

『バコンッ!バキッ!』

「痛てっ!!!な、何っ!?」

ウィルが振り向くと、そこには褒美でもらったフライパンを持ったアリスとワインの空き瓶を持ったカルデが嫉妬の炎をメラメラと燃やしていた。

2人ともかなり酔っぱらっているのか、完全に目が座っている。

「ウィル様ったらぁー!なーにテスカ様とイチャついてるんれすかぁー!?ズルイれすよぉー!」

「アリスの言う通りらぞぉー!我らって寂しかったんらぞおー!」

そう言うと2人は手に持ったモノを振り回しながらウィルへと襲いかかってきた。

「ふ、2人とも、お、落ち着いて!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

ウィルは命の危険を感じ咄嗟にその場から瞬間移動で逃げ出すのだった。


「はあー、酷い目にあったな…。」

ウィルが休憩出来る場所がないかと中庭から裏庭の方へと歩いていると、物陰に隠れ何かの様子を伺うララとロベールとチャールズの姿があった。

「皆さん、何してるんですか?」

「シッ!ウィル君、隠れて!」

ウィルはララの言う通り姿勢を低くして物陰に隠れるとララ達の視線の先を伺った。

そこでは月明かりの下1人でベンチに座り葉巻を燻らせているナターシャの姿があった。

「あれはナターシャさん。…ん?あれは?」

ウィルが反対側を見るとそこには黒いタキシードを着たシーザーが立っていた。

胸には100本以上はあろうかという真紅の薔薇の花束を抱えている。

シーザーは大きく深呼吸をすると意を決したようにナターシャに向かって歩き出した。

ナターシャがその姿に気付き唖然としているとシーザーはその前に片膝をついて薔薇の花束を差し出した。

「ナターシャ、愛している。私の妻になってくれないか?」

シーザーの真剣な眼差しに耐えられずナターシャはそっぽを向いた。

その頬は薄暗い月明かりの下でもわかる程に赤く染まっている。

「…な、何をバカな事を言ってるんだ!?いい年してララ達の冗談を真に受けてんじゃないよ!」

「私は本気だ。」

「シーザー!いい加減にしないと本気で怒…!?」

ナターシャが向き直ると同時にシーザーが立ち上がりその腰にそっと両手を回した。

シーザーの持っていた薔薇の花束がふわりと地面に落ちる。

「私は本気だ。この20年間、私はお前の事を愛していた。そして、この想いはこれからも永遠に変わる事はないだろう。」

「全くヒドイ男だよ。20年前、アタシを振ったのはアンタじゃないか?それが今更、プロポーズなんて…。」

「遅くなって、すまなかった。」

「…バカだね。アンタ程の男ならもっと若い娘でも寄ってくるだろうに…。アタシみたいなオバサンで良いのかい?」

「ああ、お前以外には考えられない。何故ならお前程のいい女はこの世界に存在しないのだから…。」

「バカ…。」

ナターシャの潤んだ瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。

シーザーはその涙を指で優しく拭うとナターシャを抱き寄せるのだった。


まるでトレンディドラマの1シーンのような光景にウィルが目を奪われていると、ふとララ達の姿がない事に気付いた。

「あれっ?ララさん達はどこに行ったんだろう?」

ウィルが周囲をキョロキョロと見回していると、突然背後から声がした。

「どうした?何を探している?」

「いえ、ララさん達がいつのまにか…ヒィッ!?ナ、ナターシャ様!?」

ウィルが振り返るとそこには全身に真紅の炎を纏い、先程までの艶っぽい表情から一転、般若の面のような表情になったナターシャが指をボキボキ鳴らしていた。

「ほう、覗き見とはなかなか良い趣味だな?マクグラン王国に帰る前に消し炭にしてやろう!」

「ヒィィィィィッッッ!た、助けてぇぇぇぇぇっっ!」


こうして、シーザーとナターシャは20年越しの愛を実らせ、ウィルは消し炭にされそうになりながらも何とか逃げ切り、ウィルが主役であったはずの散々な宴の夜は更けていくのだった。


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