第70話 ナターシャとシーザー
ウィル達が露天風呂で汗を流している頃、ボルケニア城のテラスではロベール、シーザー、ナターシャ、チャールズの4人とララとラスクの2人が紅茶を嗜みながら談笑していた。
「それにしてもラスクは可愛いのぉ。我に目元がよく似ておる。将来はきっと大物になるぞ!いや、それとも皇帝になるか!?わっはっはっはっ!」
ロベールがこぼれ落ちそうな満面の笑みを浮かべながらラスクの右ほっぺをプニプニとつついていると、同じようにこぼれ落ちそうな満面の笑みを浮かべながらラスクの左ほっぺをプニプニつついていたシーザーが立ち上がった。
「いや!陛下、ラスクは私に似ております!特にこの高い鼻筋はまさに私と瓜二つ!ラスクは行く行くはシルバリオン公爵家の養子となり私の後継となるのです!なぁ、ラスクよ。」
その物言いにロベールも負けじと立ち上がる。
「シーザー!何をいっておる!?この顔立ちはボルケニア皇室由来のものだ!どこからどう見ても我にそっくりだろう!」
「いえ、この顔立ちはシルバリオン公爵家由来のもの!私にそっくりです!」
「我にそっくりだ!」
「私にそっくりです!」
「我だ!」
「私です!」
そんな2人の爺馬鹿な言い争いなど気にもとめず、ラスクがいつもの仏頂面で出されたケーキを頬張っていると、その様子を呆れながら見ていたナターシャが口を開いた。
「いや、どう見てもこの仏頂面はブライト似だろう。なあ、ララ?」
「ええ、ロベール父様とシーザー父様には残念ですがワタシもブライト父様に一番似ていると思いますわ。ウフフ。」
「なっ!!ララもナターシャも何を言っておる!?あんな品のかけらもない野人のブライトに似ているだと!?それは断じてありえん!」
「そうだ!あんな粗暴で筋肉バカのブライトには似ても似つかん!」
ロベールとシーザーはそう言い放つと再びラスクがどちらに似ているのか言い争いを始めた。
「はぁー。父上も叔父上も何をしてるんだか。叔母上、そういえばララが皇族である事はどのように公表するのですか?」
「ああ、それならバーナの目抜き通りをパレードする形式を考えている。ついでにその時にウィルの英雄勲章の受勲パレードもやる予定だ。まぁ準備や告知もあるからパレードは3日後だな。」
「叔母さま、ワタシは既にサウストン男爵家に嫁いだ身ですわ。今更国民に公表などしなくても良いのではないでしょうか?」
「いいや、ダメだ。ボルケニア皇室典範の規定では皇帝の継承権は血族の男にのみ与えられている。そうなればラスクもれっきとした跡継ぎ候補だ。そんなラスクの母親であるお前の身分を伏せたままでは後々面倒な事になりかねん。それにマイセンがああなった今、継承権を持つのはチャールズだけだ。もしチャールズの身に何かあったり結婚しても男の子が生まれなければ、継承権欲しさにどこの馬ともわからん輩が出て来て混乱が起きる事になるだろう。そういう面倒事を避ける為にも公表しておく必要があるのさ。分かったかい?」
ボルケニア帝国の皇族は20年前の大戦でそのほとんどが戦死した為、血族としてはロベール、ナターシャ、チャールズ、マイセンの4人しか残っていなかった。
「はい。叔母さま、わかりましたわ。でも跡継ぎ候補を増やすのであれば良い考えがありますわ。」
「それはなんだ?」
「叔母さまとシーザー父様が夫婦になられて子を授かればよいのですわ。」
思いがけないララの提案に、ナターシャは口にくわえていた葉巻を落とし、シーザーは飲んでいた紅茶を吹き出した。
そんな2人の顔は真っ赤に染まっている。
「なっ!?な、な、何をバカな事を!?」
「ラ、ララ!?いきなりな、何を言い出すのだ!?」
「あら?だって叔母さまもシーザー父様も独身ですわよね?それにお2人はシーザー父様がワタシを引き取るまでお付き合いされていたと風の噂で聞きましたわ。」
その昔、シーザーとナターシャは結婚を誓い合った仲だったが、シーザーがララを引き取る事となり2人は別れていた。
その後、シーザーは独身を貫き、ナターシャは政略結婚でマクスウェル公爵家に嫁ぐも、その直後に公爵は病で他界し跡継ぎもいなかった事から、ナターシャがマクスウェル公爵家の当主となっていた。
そしてまたナターシャもその後は独身を貫いていた。
「ララ、それは良い考えだね。叔母さまは見た目だけは若いんだから、きっとウェディングドレスだって似合いますよ!ぷぷっ!炎の魔女がウェディングドレスって、あははははは!」
「…チャールズ、貴様何がおかしい?消し炭にしてやろうか?」
「お、叔母さま!?落ち着いて下さい!でも悪い話じゃないですよね?ねっ、父上?」
ナターシャの背後に静かな怒りの炎が燃え上がると、チャールズは慌てて後ずさりながらロベールに話を振った。
「ふむ、そうだな。シーザー、お前はどうなのだ?」
「そ、それは…。わ、私は…。」
先程よりも更に顔を真っ赤にしてシーザーが困惑していると、その手をララが握りしめた。
「シーザー父様、ワタシはもう十分過ぎるほど大切にしてもらいましたわ。だから、これからはご自分のお心を大切になさって下さいませ。」
「ララ…。」
「ララ、からかうのもいい加減にしろ!シーザー、お前も黙っていないで何とか言ったらどうだ!?…シーザー?」
「…すまないが急用が出来た。私は失礼する。」
次の瞬間、シーザーは何かを思い立ったかのように立ち上がるとテラスを後にするのだった。




