第49話 ぎっくり腰
テスカ達がオグニイーナと鉢合わせしているとは知る由もなく、ウィルは神殿騎士に成りすましたゲンを連れて再びボルケニア城へと潜入していた。
城内はウィルがサーシャを助けている間に、ミカエルから案内のあった晩餐会の余興に向かおうとする貴族達で溢れていた。
「なんか騒がしいですね。晩餐会終わっちゃったんですかね?とにかく今の内に西塔の結界を解除しちゃいましょう。ゲンさん、隠し部屋ってどの辺りですか?」
先を急ごうと見取り図を開いたウィルに、ゲンは申し訳なさそうに口を開いた。
「ウィルさん、すまねぇ。ど忘れしてたんだが、隠し部屋に入る為には皇帝陛下の部屋にある鍵が必要なんだ。」
「えっ?そうなんですか。
うーん、皇帝陛下の部屋となると警備体制も厳重そうだし、いっそ瞬間移動で乗り込んじゃいましょうか?騒ぎになったら警備も引きつけられるし、テスカ達も鏡を探しやすくなるかもしれないですしね。」
その提案にゲンが頷くとウィルは見取り図で皇帝の部屋である帝の間の位置を確認し、瞬間移動を使った。
帝の間では天蓋付きのベッドの上で痩せ細ったロベールが眠っていた。
そしてその周りを数人の従者が取り囲み危篤状態の続くロベールを心配そうに見ていた。
するとそこへ突然、ウィル達が現れその場は騒然となるが、ウィルは構わず隔離結界を展開した。
その場にいたほとんどの従者が突然どこからともなく現れたウィル達に怯える中、腰を直角に曲げ杖をついた老婆が叫んだ。
「おぬしら、何者じゃ!?」
この老婆はボルケニア城従者長兼皇帝世話役のメリンダ・クローア・サリンジャである。
メリンダは怯むことなくウィル達に近付くとギロッと睨みつけた。
「あの俺達は怪しい者では…って、怪しいですよね?でも別に皆さんに危害を加えたりはしないので安心して下さい。西塔の隠し部屋の鍵を借りに来ただけですから。」
「おぬしら、何者じゃ!?
そんな、何処の馬の骨ともわからん輩に貸すものなど無いわ!とっとと立ち去れぇい!さもなくば、このメリンダが成敗して…ぐはっ!?」
突如、メリンダの腰に稲妻に打たれたような激痛が走り動きが止まった。
ぎっくり腰である。
脂汗を流し苦悶の表情を浮かべ身体を震わせるメリンダに、ウィルは戸惑いながら声をかけた。
「あ、あの、お婆さん大丈夫ですか?」
「うぐっ…うぅ…な、なんと卑劣な!先先代の皇帝陛下の時代よりお仕えして60年!こんな卑劣な仕打ちを受けたのは初めてじゃ!」
「えっ!?な、何を言ってるんですか!?それは自分で勝手に…。」
「ええい!とぼけおって、ま、まさか老体の腰を攻撃してくるとは!まさに鬼畜の所業!許さんぞっ!」
「いやいやいやいや!何もしてませんから!」
「黙れぇ!この下衆めが成敗してくれる!」
身の潔白を主張するウィルの話を聞かないまま、メリンダが魔法の詠唱を始めようとした、その時。
今まで危篤状態だったはずのロベールが目を覚まし口を開いた。
「…メ、メリンダ、騒がしいぞ…。
こう騒がしくては…眠れんではないか…。」
「陛下!!!」
その声にメリンダや従者達はウィル達の存在も忘れロベールを取り囲むと涙を流し喜び始めた。
しばらくそんな時間が流れ、思わぬ感動シーンにウィル達が目頭を熱くしていると、徐々に意識がはっきりしてきたロベールがウィル達に気付いた。
「何故、ここに帝国騎士ではなく神殿騎士がいる?それにこの銀色の空間は…隔離結界なのか?説明せよ。」
か細いながらもしっかりとした口調でロベールが話しかけると、メリンダは我に返り再びウィル達の前に立った。
「こやつらは神殿騎士に成りすました賊ですじゃ!今しがた、卑劣極まりない攻撃を仕掛けてきましたが、この婆が身を呈してお守りした所ですじゃ!」
「だからあれは、お婆さんが勝手にぎっくり腰になっただけでしょうが!俺達はオグニイーナ様に攫われた家族を助ける為に西塔の結界を解除したいだけなんですって!」
「オグニイーナに攫われた家族?」
ウィルの言葉にロベールが反応するがすぐにメリンダが割って入る。
「陛下、こんな賊の言う事に耳を傾けてはなりませぬ!陛下はこの婆が命に代えてもお守り致しま…ぐはっ!」
再びメリンダの腰に稲妻に打たれたような激痛が走る。
「うぐっ…ううっ、お、おのれぇ!一度ならず二度までも…まさに鬼畜を通り越して、魔王の所業じゃぁぁぁ!」
「はぁ、もういいです…。」
そんなメリンダに突っ込むのを諦めたウィルを見たロベールは、メリンダの介抱をするよう従者達に目配せをした。
しばらく騒いでいたメリンダも従者達の回復魔法のおかげで腰の痛みが引き始めると気分も落ち着いてきたのか、警戒しながらもロベールの言う事を聞いて大人しくなった。
「それでは話を始めよう。我が名はロベール・プロメテウス・ボルケニア。ボルケニア帝国の皇帝だ。そなたらの名は?」
まさか皇帝が先に名乗るとは思いもせずウィルは驚きながらもフルフェイスのヘルムを外し、声変わりの魔法を解くと胸に手を当て挨拶をした。
「私はウィル・バークリー・サウストンです。マクグラン王国から来ました。それでこちらは…。」
「なっ!?サウストンじゃと!?」
メリンダの驚きの声が上がるも下手に反応してまたぎっくり腰をされてはたまらないとウィルは無視してゲンを見た。
するとその視線に気付いたゲンは緊張しながらもウィルを真似て挨拶をした。
「お、俺っちじゃなくて、わ、私はゲント・モーリス・ダイクーンと言います。縁あってウィルさんのお手伝いをしております。」
そんなゲンの必死の自己紹介もロベールの耳にはほとんど入る事は無く、ロベールはウィルの名前を聞いてから驚きで言葉を失っていたが我に帰ると、先程のウィルの攫われた家族という言葉の意味を理解し深いため息をついた。
「そうか。ブライトの息子だったか。我が意識を失っている間に大変な事になっていたのだな…。ララがオグニイーナの手に落ちたのか?」
「はい。オグニイーナ様の襲撃に遭いララさんを拐われてしまいました。それで私は密かに風の神カルデ様の支援を受けララさんを助けに来たのです。」
予想だにしないその言葉にメリンダや従者達が驚きの声を上げる中、ロベールが気を失っていた時間を埋めるようにウィルは話を続けるのだった。
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