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第43話 それぞれの焦燥

『…という訳だ。我は3年前にララがマクグラン王国に来る時にロベールから聞いたんだがな。その後、ララがサウストン男爵領地に行く前に王都に立ち寄った際、たまたま王宮騎士団筆頭騎士をしていたトーマスと出会って付き合い始めた時はさすがに皆驚いたものだ。トーマスも結婚が決まってから、ララが神代だと聞かされたと言っていたしな。』

ウィルは、ブライトの秘密主義は自分に限った事ではないのかと思いつつもふと疑問が浮かぶ。

「カルデ、それじゃあ何で出発前にララさんが神代だって教えてくれなかったんですか?」

『教えるも何も知っていると思ってたからな。あえて言った所でララを助ける事に変わりはないだろう?』

「確かに知ってると思ってたら話さないですね…。」

ウィルはブライト達の秘密主義も実は、家族の誰かがウィルには話してるだろうから別に話さなくてもいいか的な単純な行き違いから来ているものなのではと感じていた。

『それで話に出たトーマスについてだが、今朝方マクグラン城から連絡があって、昨日トーマスが城に来てサウストン男爵位の継承権を破棄する申し出をしたそうだ。そして、息子とメイドを連れボルケニア帝国へと向かったらしい。」

「えっ!?トーマス兄さんがですか!?継承権の破棄って、まさか!?」

『そうだ。トーマスはララを助ける為に貴族を辞めた。貴族のままボルケニア帝国へ向かえば六神六国条約に触れるからな。』

「六神六国条約…。そうですか…。

でもトーマス兄さんらしいですね。」

この世界で爵位の継承権を破棄する事の重大さを知るウィルにとって、トーマスの行動が正しいものであるかは分からなかったが、愛する人のために全てを捨てられるトーマスは同じ男として誇らしく思えた。

『バカ真面目だが良い兄ではないか。』

「はい…。」

そして、前世で一人っ子だった雄介にとって、トーマスがウィルの兄でいてくれた事が嬉しくなり思わず目頭が熱くなるのを感じていると、テスカが口を開いた。

「それじゃあ、話を戻すけどララが神代って事はオグニイーナの狙いは魂移しだと思って間違いなさそうだねぇ?」

『ああ、6人の神々の中で一番信仰を集められてないのがオグニイーナだからな。魂移しをして信仰を取り戻そうとしていてもおかしくはないだろう。』

「そうさねぇ。皇帝派と神聖派の衝突する場所に大規模魔法陣でも仕掛けて鏡を使えばてっとり早く魂を集められるだろうしねぇ。」

「結局の所、ララさんとサーシャさんの救出は皇帝派と神聖派の衝突を待ってからじゃ遅いって事ですね。だったらサーシャさんの事を考えると今夜の晩餐会に潜り込みたいですね。もしかしたらトーマス兄さん達とも合流出来るかもしれませんし。」

「そうさねぇ。あちきも鏡を取り返さなきゃならないし最後までウィルに付き合うよ。」

「アリエルもお手伝いする。」

「お、俺っちも何が出来るかわかりやせんがお手伝いさせて下せえ。」

ウィル、テスカ、アリエルが立ち上がるとゲンも慌てて立ち上がった。

こうして、ウィル達はその夜ボルケニア城へと潜入する事を決めたのだった。


一方その頃トーマス達はボルケニア帝国へと入り、ボルケニア火山の麓に生い茂る森の上空をトーマスの飛行魔法の旋風に乗り帝都バーナへと向かっていた。

トーマスは布に包まれた背丈ほどはあろうかという大剣を背中に背負い、その横にいるアリスは気持ちよさそうにスヤスヤと眠るラスクをおんぶ紐で背負っていた。

「トーマス様、地図ですとそろそろヒノッコという村があるみたいです。昨日、マクグラン城を出てからずっと飛行魔法を使ってますし少しその村で休憩しましょう。」

「いや、義父上には昨日手紙が届いているはずなんだ。あの手紙の本当の暗号解読方式に気付いてくれていれば皇帝派の帝都バーナへの進軍は今夜になるはずだ。だとすれば時間がない。急がないと。」

「ですが魔力を使いすぎです。このままでは…きゃあああああっ!?」

その時、突如トーマスの魔力供給が途切れ旋風は制御を失い急降下した。

「くっ!?魔力切れか!」

いくらトーマスが超級中位の実力者であっても丸一日近く飛行魔法を使っていれば魔力が枯渇するのも当然だった。

咄嗟にトーマスは魔力を振り絞り再び飛行魔法を唱え旋風の制御を取り戻すが、それも長くは続かず森の木々をかすめ不時着した。

『ズシャアアアアッ!』

砂埃が巻き上がる中トーマスはアリス達に駆け寄った。

「すまない!2人とも怪我は無いかい!?」

「は、はい!わたしは大丈夫です!ラスク様も…ウソっ!?寝てる!?」

アリスが背中に目をやるとラスクは何事も無かった様にスヤスヤと眠っている。

トーマスとアリスはそんなラスクを見てホッとしながらも、そのあまりの図太さに可笑しくなるのだった。

「自分の魔力残量にすら気が回らなかったなんて、私は焦りすぎて自分を見失っていたようだ。危険な目に合わせて本当にすまなかった。」

「いえ、気にしないで下さい。トーマス様の気持ちもわかりますから。あと少し行けばヒノッコ村ですから、そこで食事を食べながら休憩しましょう。」

「アリス、ありがとう。そうしよう。」

「それじゃあ、村まではわたしの移動魔法で行きますよー!空は飛べないけどスピードなら飛行魔法にだって負けませんよー!トーマス様はゆっくり休んでて下さいね。では行きますよー!」

すると、アリスはトーマスの手を取り魔法を唱えた。そしてトーマスの身体がスッと軽くなった次の瞬間、アリスが凄まじいスピードで木々を縫うように走り出した。

「えっ?…うわああああああっ!!!」

トーマスの身体に凄まじい横Gがかかり思わず顔が歪み、それと同時に体験した事のない恐怖が押し寄せトーマスの絶叫が森の中に響き渡るのだった。



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