第33話 ヘクティア 後編
使節団にはグラヴィザードとイツトリ、そして10人余りの配下達が同行する事になった。
計画としては3年かけて属性神達の加護する国々を巡り友好交渉を行い、最終的には転移結晶でヘクティアに帰還するという大雑把なものであったが、相手側がどう出てくるかわからない以上、細かな計画は無駄であるという結論に至っていた。
そして、だからこそヘクティア最強の戦士でもあるグラヴィザードが使節団を率いる事で万が一の事態が起きた場合でも対処出来るようにしていた。
出発の朝、日の出と同時に海の終わりの海域の嵐はピタリと収まり、使節団の船は期待に胸を膨らませながらヘクティアの港を出港した。
船は順調に海の終わりの海域を抜け一路最初の目的地であるマクグラン王国へ舵を切った。
と次の瞬間、グラヴィザード達は大海原の水平線に信じられない光景を見た。
それは、水平線を埋め尽くすように広がる無数の船団だった。
グラヴィザードは一瞬で理解する。
ヘクト狩りは終わってはいなかったのだと…。
無数の船団は使節団の船の航路を塞ぎながら取り囲んだ。
すると、一際大きな6隻の船から6人の属性神達が舞い上がり、使節団の船へと近付いてきた。
聖の神ククルカン、闇の神テスカポリトカ、火の神オグニイーナ、水の神トラロック、風の神カルデ、土の神セベクである。
属性神達は使節団の船の真上まで来ると獲物の配分について話し始めた。
グラヴィザードはすかさず呼び掛けるがそれを無視し属性神達は話し続けた。
しばらくして神達の話がまとまると、ククルカン、オグニイーナ、セベクは自分達の船団へと戻り、船団を海の終わりの方角へと動かし始めた。
そして、テスカポリトカ、カルデ、トラロックは使節団の船へと舞い降りた。
グラヴィザードはなんとか話をしようとするが、それをあざ笑うかのように突然テスカポリトカが黒曜石の鏡をかざしグラヴィザードの配下達の命を吸い取り、それに続くようにトラロックが海面から巨大な水の竜を発生させイツトリに放った。
イツトリは防御障壁を展開し何とか耐えるが、次の瞬間テスカポリトカの槍で右足を貫かれその場に倒れた。
そして、テスカポリトカがイツトリの頭に槍を振り下ろした。
しかし、イツトリの頭は貫かれることはなく、代わりにグラヴィザードの放った重力渦によりテスカポリトカの右半身が消滅した。
それに激怒したカルデは両腕に旋風を纏わせグラヴィザードに襲いかかるが、グラヴィザードは瞬間移動でカルデの後ろに回り込むと銀震刃で心臓を貫いた。
カルデの身体は光の粒となり飛び散った。それを見たトラロックは恐れおののき船団の方へ逃げ出した。
それを冷めた目で見るとグラヴィザードは腰にぶら下げた短剣を引き抜き、天にかざし魔力を込めた。
次の瞬間、刀身が消滅すると同時に天を貫くような数百メートルはあろうかという巨大な銀震刃が出現した。
そして、グラヴィザードはトラロックとその先にある船団に向け巨大な銀震刃を振り下ろした。
その凄まじい一撃によりトラロックはなすすべなく光の粒となり、海は数キロに渡り割れ船団の半数が一瞬で消滅した。
グラヴィザードはそれを見届ける事なくイツトリに駆け寄ると右足に回復魔法をかけながら涙を流した。
イツトリがそんなグラヴィザードを抱きしめようとしたその時、突如鈍い音がするとグラヴィザードが力無くイツトリにもたれ掛かった。
イツトリがふとグラヴィザードの背中に目をやると、そこにはテスカポリトカの槍が突き刺さっていた。
槍は心臓を貫いていた。イツトリが悲鳴を上げるとそれを見届けるようにテスカポリトカの半身は光の粒となり、イツトリの中に流れ込んだ。
凄まじい激痛と共に頭の中にテスカポリトカの記憶や様々な知識が流れ込み、イツトリは気を失った。
イツトリは闇の神の神代だった。
その後、激怒したククルカン、オグニイーナ、セベクは使節団の船を沈めると、船団を立て直しその日のうちにヘクティアを滅亡させ、何故かそれ以降この世界にヘクトは産まれなくなった。
そして、新たなテスカポリトカとなったイツトリは海を漂流しながらも陸地へと辿り着くと世界を放浪し、数年後ハーディス神教国へと戻り、テスカポリトカとして受け入れられたのだった。
テスカの話が終わる頃、ウィル達は夕陽に染まる丘の上に立っていた。
そして目の前には帝都バーナを取り囲むように建てられた壁が広がり、その向こう側には賑やかな街並みが広がっていた。




