第31話 はじめてのスライム
ヒノッコ村を出発したウィル達は、時々すれ違う人々に珍妙なモノを見るような視線を向けられながら一路、帝都バーナに向かい森の中を歩いていた。
時刻は昼過ぎ。首都バーナには順調に行けば夕方には到着する計画である。
「やっぱり悪目立ちしてるよなぁ…。」
ウィルがチラッと後ろを見ると、そこには花魁を更にエロくしたような女と天使の羽根が生えたツインテールの少女が、体長2メートルを超えるライオンの背中に乗っていた。
2人は周囲の目など気にする様子など無く談笑している。
全くもって悪目立ちしないはずがない光景である。
ウィルはため息混じりに前を向いた。
「はぁ、やっぱり夜まで待って飛行魔法で一気に帝都まで飛んだ方が良かったんじゃ…。」
ヒノッコ村でテスカと今後の計画を話し合った時にウィルはその提案をしていたが、徒歩の方が目立たないというテスカに却下されていた。
ウィル達がしばらく森の中を進んでいると、突然道端の茂みがガサガサと音を立て始めた。
「魔物か?テスカ様、止まってください。」
すると茂みの中から1匹のスライムが現れた。
「キィッキキィッー!!」
スライムは初級下位に認定されている魔物で、ゼリー状の身体から溶解液を撒き散らして攻撃してくるKING OF ザコ魔物である。
「スライムか。よし、せっかくだしこのオリハルコンの短剣の切れ味を試してみよう!」
いくら格下のザコ魔物とは言っても、少し前までサラリーマンだった今のウィルにとっては、とあるRPGゲーム以外では初めてのスライムとの戦闘である。
緊張で短剣の柄を握る手に汗が滲む。
ウィルが短剣を引き抜き足を踏み込んだ次の瞬間、突然目の前のスライムが破裂した。
『パァーーーンッ!!!」
ウィルにヌルヌルの溶解液が降り注いだ。
「うわぁ!な、なんだ!?いきなり自爆したぞ!?」
ウィルが全身ヌルヌルになりながら困惑していると、笑いながらテスカ達が近づいてきた。
「アハハハハ!あらあら、ヌルヌルだねぇ。こりゃあ、レオナルドの覇気に耐えられなくて破裂したみたいだねぇ。」
覇気とは超級以上の一部の魔物が扱う事が出来る能力で、敵の動きを止めたり、味方を回復したり、味方の身体能力を引き上げたりと色々な種類が存在し、レオナルドの場合は自分より格下の魔物であれば弱体化する覇気を持っていた。
「レオナルドの覇気って何ですか!?そんなのあるなら事前に教えておいて…んっ!?ああーーーっ!!!」
ウィルは手に持っていたオリハルコンの短剣を見て思わず叫び声を上げた。
「刀身が溶けちゃった!?ええー!?オリハルコンじゃないの!?まさか偽物?勘弁してよぉー!」
刀身が跡形もなくなった柄を握り締めながらウィルが肩を落としていると、レオナルドが大きな舌でベロベロとウィルを舐め回し始めた。
「うわぁ!レオナルドやめて!というか口クサいんだけど、クサッ!!!」
「お兄ちゃん、ヌルヌルで溶けちゃうからレオちゃんが綺麗にしてあげるって。」
「そ、そうなの?ありがとう!だ、だけどかなりクサいかなー?うぷっ!」
「覇気使うとお口がクサくなるの。いつもはクサく無いの。」
「あはは。そ、そうなんだ。うぷっ!!!」
そして、ウィルはあまりの臭さにたまらず茂みに駆け込みキラキラしたものを吐き出すのだった。
結局、スライムの溶解液により溶けたのは短剣の刀身だけで、柄や鞘は溶ける事なく残り、また胸あても無事だった。
その後も何度かスライムやゴブリンなどのザコ魔物が出現するも、レオナルドが覇気で瞬殺してしまう為、一度もウィルの出る幕など無いまま、森を抜けた所にあった茶屋でウィル達は休憩していた。
「ふぅーっ!サッパリしたぁ!やっと匂い取れましたよ!」
ウィルはあまりの臭さに入店拒否されかけたが、店主に事情を話すと水浴び場を貸してくれたのだった。
「プッ!アハハハハ!災難だったねぇ。まぁ座りなよ。」
ウィルが席に着くと、テスカとアリエルはあんみつを美味しそうに食べていた。
どうやらボルケニア帝国の食文化は日本に近いようで、あんみつやかき氷といった甘味も存在していた。
「美味しそうですね。俺も食べようかな。」
「それなら、あちきのを食べさせてあげようか?ほら、アーン。」
テスカはあんみつをスプーンですくうとウィルに差し出した。
「い、いえっ!大丈夫ですって!自分の注文するので!」
ウィルが照れくさそうに断るとテスカはその反応を楽しそうにみながらスプーンを引っ込めると自分の口に運んだ。
「ウブだねぇ。フフッ、それならあちきとアリエルはこのかき氷を追加しようかねぇ。」
店主に注文を伝えるとしばらくしてあんみつとかき氷がやってきた。
3人が甘味を味わいながら話をしていると、いつの間にかウィルの装備している短剣と胸あての話になっていた。
「…もう完全に偽物だと思うんですよね!だって、刀身なんてスライムなんかに溶かされちゃってますしね。テスカ様、どう思いますか?」
「あははは!まぁオリハルコンなんていうのはそうそう見つかるもんじゃないしねぇ。どれ、見てあげるから貸してごらんよ。」
「えっ!?テスカ様、わかるんですか?」
「まぁその胸あてと短剣の記憶を見るだけだけどね。」
ウィルは胸あてと短剣をテーブルに置くと、テスカがその上に手をかざした。
胸あてと短剣が淡く光り始めるとテスカが驚きの表情を浮かべた。
「こりゃあ、驚いた!最初に見た時からどこかで見た事のある胸あてと短剣だとは思っていたけど、まさかあの人の物だとはねぇ。」
テスカは懐かしそうに目を細めている。
「テスカ様、あの人って誰の事ですか?」
「知りたいかい?……名前はグラヴィザードって言ってね。この世界に昔あった無属性魔力を持つ人間だけが住んでいた国の、最後の国王さ…。」
ウィルの問いかけにテスカは悲しげな表情を浮かべ遠い目をしながら答えた。
「あ、あの、テスカ様、そのグラヴィザードっていう人と何かあったんですか?」
「フフッ、あちきが初めて愛した男さ。まぁ最後は300年前の戦いであちきが殺しちまったんだがねぇ。」
初めて愛した男という言葉にどう返そうか戸惑っていると、ふとウィルは無属性魔力についてカルデがしてくれた話を思い出す。
「あの、カルデ様も昔は無属性魔力を持つ人達を狩り殺していたって言ってましたけど、300年前に何があったんですか?」
テスカは苦笑いを浮かべると席を立ち上がった。
「カルデがそんな事を言ってたのかい?フフッ、この胸あてと短剣がウィルに辿り着いたのも何かの縁かもしれないねぇ。
まぁ話しも長くなりそうだから、歩きながら話そうじゃないかねぇ?」
こうして、オリハルコンの偽物疑惑から無属性魔法の知られざる過去へと話は移り、ウィル達は茶屋を後にするのだった。




