第30話 3人と1匹
その後テスカとの話は1時間程度で終わり、早速帝都バーナに向け出発するという事でウィルはテスカの支度が終わるまでヒノッコ村を探索して時間を潰していた。
「まさか協力者が神様だなんてビックリしたなぁ。それにアリエルちゃんが大天使だなんてなぁ。連れて行くって言ってたけどあんな小さな子が大丈夫かな?」
テスカは、古傷の治療の為とは表向きの理由で趣味の男漁りの為に長年国を配下に丸投げし、アリエルと一緒に世界中の湯治場を旅して回っているらしい。
そして今回の救出作戦にテスカが協力する事になったのは、1ヶ月ほど前に大事な鏡をオグニイーナに盗まれ、どうやって取り返そうか思案している所にこの話があり、都合が良いという事で乗っかったとの事だった。
ウィルが温泉地ならではの硫黄臭さを満喫しながら、道端の店で買った温泉卵を頬張っていると少し離れた店にアリエルの姿を見つけた。
当然、レオナルドも一緒である。
「目立つな…。アリエルちゃん何してるんだろう?」
ウィルが近づくとアリエルは射的で遊んでいた。
「射的かぁ。この世界にもあるんだなぁ。まぁ露天風呂や浴衣もあるんだし、あっても不思議じゃないか。アリエルちゃんは何を狙ってるのかな?」
少し離れた所からしばらく様子を見ていると、アリエルは一番上の段にあるライオンのぬいぐるみを狙っているらしく、的確にぬいぐるみに弾を命中させていた。
しかし、ぬいぐるみは微動だにしない。
そうこうしている内に持ち弾が無くなり所持金も底をついたのかアリエルは物欲しそうにぬいぐるみを見ている。
「お嬢ちゃん!残念だったねぇ!金貨はもう無いのかい?」
射的屋の店主がニヤニヤしながらアリエルに声をかけると、アリエルはコクリと頷いた。
「それなら帰った!帰った!商売の邪魔だよ!」
店主は態度を一変させアリエルを追い払おうとするが、それを見ていたウィルが話しかけた。
「あの、この子の知り合いなんですけど1回分お願いします。いくらですか?」
ウィルが現れるとさっきまでの感じの悪さはどこへやら、店主は営業スマイルに戻る。
「お知り合いですか!?可愛らしいお嬢ちゃんですね!ウチの景品はそんじょそこらじゃ手に入らない物ばかりですよ!1回分だと弾が5個で銀貨1枚になります。」
この世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類が存在し価値は以下のようになっている。
銅貨・・・100円
銀貨・・・1000円
金貨・・・10000円
白金貨・・・1000000円
ウィルは財布代わりの小袋から銀貨を取り出し、店主に手渡すと代わりに弾を受け取った。
「アリエルちゃん、あのぬいぐるみで良いかな?お兄ちゃんが取ってあげるよ。」
「えっ、ホント?ありがとう。」
「うん。任せてよ。」
ウィルは前世ではサバゲーもかじっていた事もあり自信満々に弾を鉄砲に込め、ぬいぐるみを狙い発射した。
「そりゃ!」
『パチンッ』
弾はぬいぐるみに命中するが微動だにしない。
「あれ?良い感じで当たったと思うんだけどなぁ?よしもう1発。そりゃ!」
弾はぬいぐるみにクリーンヒットするがやはり微動だにしない。
「うーん。あれで全く動かないなんて、なんか重いものでも入ってるのかな?」
ウィルが呟くと、店主が胡散臭い笑みを浮かべながら近づいてきた。
「お客さん、妙な言い掛かりつけないで下さいよお。もっと真ん中に当てないとあれは取れませんよ。へっへっへっ。」
ウィルは店主を無視してアリエルに話しかけた。
「アリエルちゃん、もしかしてさっきテスカ様に貰った金貨全部使っちゃったのかな?」
「うん。使っちゃった。」
「金貨1枚って事は10回分で50発かぁ。それで取れないとなると…。」
アリエルはしょんぼりと俯くが、ウィルはその頭を優しく撫でてから、店主を見た。
店主は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。
「へっへっへっ。お客さん、魔法とかでズルしちゃダメですからね。まぁ詠唱した時点でわかりますけどね。さぁどんどん射っちゃって下さい!」
ウィルは店主がぬいぐるみが落ちない様に何か細工をしている事に気付く。
「わかりました。詠唱なんてしませんよ。」
ウィルの無属性魔法はそもそも無詠唱であり、さらには一般的にはほとんど知られていない魔法である。
ウィルは威力を上げる為に弾に銀撃をかけた。店主は全く気付かない。
ウィルは鉄砲にその弾を込めるとぬいぐるみを狙い発射した。
『ズドンッ!』
弾が命中するとぬいぐるみは床に落ち、それと同時に重りとして使っていた石が床に転がった。
店主は何が起こったのか訳もわからず口をあんぐりと開けている。
「おじさん、ぬいぐるみ落ちましたよ。取ってもらえますか?」
ウィルがそう言うと店主は未だに信じられないのか、ぬいぐるみを拾い上げるとまじまじと見ながら、ウィルに手渡した。
そしてウィルがぬいぐるみをアリエルに手渡すと、アリエルは嬉しそうにぬいぐるみを抱き上げ笑った。
「お兄ちゃん、ありがとう。大事にする!」
「いえいえ、喜んでもらえて良かったよ。さてとまだ弾残ってるからやっちゃおうかな。」
「ヒィッ!」
ウィルが爽やかな笑みを浮かべると店主は引き攣ったような声を上げた。
その後、ウィルはぬいぐるみと同じように重りのくくりつけられていた、いくら物を入れても重くならない魔法のバッグと、ある程度の暑さや寒さなら防ぐ事の出来るという灰色のマントを相次いで撃ち落とすと満足げに射的屋を後にした。
そして店主は枯れ木のように真っ白になり、その夜、射的屋は夜逃げ同然に店を閉めヒノッコ村から姿を消したのだった。
ウィルとアリエルが宿の前に戻ると、ちょうどテスカも支度を終えて宿から出て来た所だった。
「テスカ様!」
ウィルは駆け寄るとテスカの服装に唖然とした。
それは、黒地に紫色の薔薇の刺繍が上品にあしらわれた着物を着崩し、何故か胸元をこれでもかと言わんばかりにはだけさせた格好だった。
「待たせたね。さぁ出発するかね。んっ?ウィルどうした?」
「あ、あの、テスカ様その格好で行かれるのでしょうか?そ、その何て言うか…目のやり場に困るんですが…。」
ウィルが恥ずかしそうに目を背けるとテスカが噴き出した。
「プッ!アハハハハッ!ウブだねぇ。さっき全部見たじゃないか。フフッ、それなら困らないようにもう一度見せようかねぇ?」
テスカは艶っぽい笑みを浮かべウィルの顔を覗き込んだ。
「い、いえっ!結構です!そ、それでは出発しましょう!」
ウィルが恥ずかしさを紛らわすように歩き出すと、テスカとアリエルを乗せたレオナルドもゆっくりと歩き出した。
こうして、ボルケニア帝国の行く末など知ったこっちゃない3人と1匹の冒険は幕を開けるのだった。




