第11話 ベーゼからの解放
オグニイーナの高笑いが辺りに響き渡る中、カルデは宙に浮かびながら様子を伺っていた。
「何か言う事はないの?まぁ、分身体の貴方からじゃ面白い言葉は聞けないかしら?」
カルデは無表情のまま、蔑むような冷ややかな視線をオグニイーナに向けた。
「おぬしは誰だ?そんな下品な笑いをする者を我は知らん。」
その感情を逆撫でする様な言葉にオグニイーナの顔が真っ赤になると、周囲に無数の大小様々な火の玉が出現した。
「人形のくせに生意気よ!グリルしてあげる!」
無数の火の玉が一斉に凄まじいスピードで飛んでいき、カルデに直撃した。
『ドカァァァァン!!!』
爆炎が辺りを包み込む中、カルデはゆっくりと地面に着地すると片膝をついた。
カルデは火の玉が直撃する前に何とか風の防御障壁を展開したが、防ぎきれずに何発か火の玉をくらっていた。
すかさずオグニイーナはカルデの上空に無数の火の矢を出現させ、一斉に降らせた。
それに気付いたカルデは左の手のひらを天にかざし防御障壁を展開した。
「クッ!」
『ドゴォォォォォォン!!!』
凄まじい爆発が起こり、岩や石が爆風で飛び散る。
砂煙が落ち着くと、カルデがいた場所は地面が大きく抉れて小さなクレーターの様になり、その中央にカルデがうつ伏せに倒れていた。
透けるように美しかった羽衣は所々破け肌が露出しすすこけている。
「あらら。焼きすぎちゃったかしら?
これじゃあ美味しくないわね。あはははははっ!」
勝ち誇った様にオグニイーナが高笑いをしていると、倒れるカルデに向かいクレーターを駆け下りるウィルの姿が見えた。
「カルデ様!」
ウィルは駆け寄りながら祝詞を唱え、カルデの元に辿り着くと仰向けにし上半身を抱き上げた。
「ヒールエア!」
この魔法はウィルが唯一使用出来る風属性の初級回復魔法であり、軽い切り傷や打撲や火傷程度を治す効果しかなかった。
今のカルデにとっては焼け石に水程度のものであったが、カルデは咳込み何とか意識を取り戻した。
カルデのぼやけた視界にウィルの心配そうな顔が映る。
「げほっげほっ。……こ、この愚か者めが、何故戻ってきた?」
それはウィルが何とか聞き取る事ができる程度の小さな声だった。
「逃げようと思ったんですけど、どうも嫌な予感がしたもので戻ってきてみたんですが…カルデ様、あの女性は?」
「あ、あれは火の神オグニイーナだ。」
「えっ!?火の神って、あの女性が!?」
「しかも本体だ。分身体の今の我ではどうにもならん。げほっげほっ…。せめて我の本体が来るまで保てば…。」
カルデの今にも途切れそうな声を遮る様にオグニイーナの声が響いた。
「あら?カルデちゃん、また貧相な騎士様ね。今の貴方にお似合いだわ。あはははははっ!
それで騎士様、今カルデちゃんを調理中なの。
邪魔しないでくれるかしら。それとも、一緒にミックスグリルにして欲しいのかしら?あははははっ!」
「オグニイーナ様。ミックスグリルにするのは構わないですが、少しだけカルデ様とお話しする時間を頂けないでしょうか?」
あまりに想像を超える驚きや恐怖の連続にウィルの胆力は短時間で上昇しというよりも麻痺しており、こんな状況にも関わらず恐怖心を一切感じなくなっていた。
「嫌よ!何で私があなたの言う事を聞かないといけないのかしら?それにどうせカルデちゃんの事だから、本体を向かわせてるんでしょ?
だから残念だけどそんな時間なんてあげないわ。」
オグニイーナはそう言うと手のひらを差し出し、火の玉を出現させると宙に放り投げた。
ウィルは覚悟して目を閉じるが火の玉はいつまで経っても来ない。
恐る恐るウィルが目を開くと、火の玉は宙に浮いたまま少しずつ大きくなっていた。
「でも、まぁあなたの命に免じてこの火の玉が完成するまでは待ってあげるわ。せいぜい1分ってところかしら。感謝しなさい。あはははははっ!」
「あ、ありがとうございます!」
ウィルはオグニイーナに礼を言うとカルデを見た。
「時間がないので端的に言います。俺の根詰まりを治してください。
そうすれば何とかなるかもしれません。カルデ様も今、分身体を失うのはまずいでしょう?」
その言い回しに、カルデは分身体を失った場合の影響を既にウィルが知っている事に気付きニヤリと笑った。
「フッ、良いだろう。但し恵比寿ラブストーリーPART2は忘れるなよ。
そ、それとこれから起こる事は絶対に誰にも話すな。知ったら面倒な奴もいるし、我も、その…は…恥ずかしいからな。」
心なしかカルデのすすこけた頬が赤く染まり瞳が潤んでいる様に見えたが、頭上の火の玉がクレーターを覆い隠す程の大きさになっている事に気付きウィルは話を急いだ。
「わかりました。それでどうすれば?」
「お、おぬしの顔を我に、ち、近づけよ。」
言われた通りウィルが顔を近づけると、カルデの左手がウィルの後頭部をそっと押した。
そして、ウィルの少し乾いた唇にカルデの潤んだ柔らかな唇が触れると同時に舌が中に入ってきた。
「んっ!?んんん!?」
ウィルは驚きカルデから離れようとするが、カルデの左手が後頭部を押さえつけていて離れる事が出来ない。
それどころかカルデの舌がウィルの舌に絡みついてくる。
「あああ、貴方達!なっ、何をしているの!?汚らわしい!」
オグニイーナは2人の予期せぬ行動に両手で顔を隠しながらも、指の隙間から2人を凝視し叫んでいるがウィルの耳には届かない。
ウィルの頭があまりの気持ちよさにボーッとしそうになった次の瞬間。
『ズキンっ!!!』
ウィルがこの世界で目覚めた時にあったような激しい頭痛が襲い、頭の中に様々な知識が流れ込むと共に、身体の奥底から力が湧き上がるような感覚を感じた。
しかしそのあまりの激痛に耐えかね、ウィルが叫び声を上げた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
カルデはそれを見ると微笑みながら気を失った。
「何をしているのかわからないけど、もう終わりよ!消し炭になりなさい!」
頭上にあった巨大な火の玉が、ウィル達を押しつぶすように落ちてきた。
凄まじい爆炎が発生しオグニイーナの展開した隔離結界内を焼き尽くしていく。
『ドゴゴゴォォォォォン!!!』
しばらくして爆炎が収まると、隔離結界内はオグニイーナとヘルガルムが立っている場所ともう一箇所を除き、凄まじい熱量によりグツグツとマグマのように溶けていた。
「…何ですって!?」
オグニイーナはそのもう一箇所を見て驚愕の声を上げた。
そこにはカルデを抱き上げ、銀色の防御障壁を展開したウィルが立っていた。




