██の斬獲者 死忘旋風/黄金狂獣
タイトルは誤字ではありません
「『終壊焦動』」
『全壊死動』は世にも珍しい、『戦闘中に変化する』アクティブスキルである。
変化条件はスキルコストで消費したHPが総HPの9割を超えること及び状態異常『死熱』の継続時間が5分を超えること。
「ガァァァァァ!!!」
「色まで変わってなんですのいきなり!?」
変化後のテキスト4つ。現在の効果は『毎秒1ずつHP上限を削りステータスを上昇させる』こと及び『死熱』の悪化、敵性存在の排除まで解除不可の3つ。
このゲームは基本的に痛覚は設定でフィールドバック率を100%まで上げてもショック死しない範囲までカットされる。
しかしあくまでも痛覚の話であり、暑さ自体は感じる。そして死熱の悪化により現在の俺は触れれば火傷するほどに熱を帯びた金属である。
端的に換言するとクソ暑い。
故にそれを誤魔化すべく叫ぶ。思考回路を暑さに割きたくない。
「ァァァ……『竜闘気』」
竜闘気はあくまでも外からの属性ダメージ軽減。体を犯す熱はなんら軽減されない。むしろ。
「燃えてますわよファケリーさん……!?」
熱は伝染する。
4つ目。自身にかけられたバフ、デバフ全てに『終壊焦動』のテキストが追加される。
闘気を発生させる軍服、更には闘気を吸い上げる刀の耐久上限も削りながらステータスを底上げしていく。
殺るか。
「『真界超越』」
装備している飛行ユニットから魔力を噴射して加速。この際に飛行ユニットも耐久値が削れている事は確認済み。
先ずは鳥。熊の目的がキルパクと推測されてるのが一つ。あとコイツの方が近くにいる。
異常強化された加速スキルは制御を誤ると死に至る。しかしここは開けた山。
「ガァ!!」
スキル起動も必要ない。ただ刀を振るうのみ。
狙うのは右の翼、その根元。MPで肉体の保全をしてるだけで低耐久の鳥がノコノコ地べたを這いつくばってる結果を教えてやる。
『██████████!?』
「五月蝿い」
何の抵抗もなく切れた。この装備とスキルの組み合わせでは傷口は炭化して出血ダメージは見込めないがそもそもアンデットには縁のない話。
そのまま返す刃で首を落とす。
【死忘旋風 イーグリンの討伐を確認しました】
『Congratulation!!』
『討伐パーティは、『ルナテック』『ファケリー・ヴァイス』『レーズン』『ガルザーク』『スペル・マスター』『れな』です』
『討伐MVPは『ファケリー・ヴァイス』です』
『MVP特典として……
死亡確認ヨシ!
「次!」
熊の方に目を向けるとガルザークのテイムモンスター達が頑張って食い止めている。
1回納刀、抜刀準備。これ以上加速ユニット起動すると耐久値が心配だが加速も入れて首を刎ねるか。
いや焦るな冷静になろう。スキルで勝手に背水の陣な訳だしプレミのリカバーだってキツい。
戦力確認。魔法が通らないかられなは半分置物、レーズンは元から置物、デメリットでステータスが死んでるからルナテックも推定置物。非戦闘職なのにスキル連打でやりくりしてるお姉さんも有効打無し、致し方ない。実質ガルザーク1人で食い止めてるのか。前回の自爆とまではいかないが本土から連れてきてるメンツが汎用性重視と思われるし物理特化と言っていい熊の相手はキツいか?
正直ヘイトこっちに向けさせてほぼしタイマした方が効率的……さっきヘイト貰ってるけどルナテックにバフ使ってもらって殺しきるか……?
いや待て、あの熊に魔法は効いてないし彼女がバフを再使用していたのは見てない。デメリットで物理ステータスが死んでるルナテックはヘイトを貰う要素なんて殆ど無いはず。じゃあなんでさっき熊にヘイト貰ってたんだ?
踏み込み、駆け出す。
ルナテックはあの熊に危機感を与えたんだ。じゃあ何故?弱点になりうる何かに触れたからだ。
属性?ノー。彼女が使っていた飛ぶ斬撃は通常の斬撃属性となんら代わりはなく、ダメージ計算も物理属性で行われているはず。それにただの物理属性が弱点ならガルザークのテイムモンスターがもっとえげつないヘイトを貰ってなきゃおかしい。俺も前回の偵察時に何度か斬撃を当てはしたが違和感はなかった。
つまりは弱点部位、ルナテックが攻撃した部位は弱点だったんだ。しかし背中、それも黄金の杭のようなものが生えてる部位に?とりあえず狙うか。
「力の限り進め『不退転の誓い』、『ハイジャンプ』」
バフをかけて高く跳躍。足からミシッと嫌な音がしたが無視。
…………思い出した。前回の撤退の前にフォルが奥義をぶち込んだ部位だ。カサブタに攻撃されたらそりゃキレるわ。
こちらに気づいた熊は迎撃体制。アッパーカットのような構え。
関係ないね。
「見様見真似ですが────ッ!」
抜刀。落下のエネルギーも載せて袈裟斬り。
『gogyuruaaaaaaaaaa!!』
激突。刀にピキピキと罅が入りミシミシと腕が嫌な音を立てる。
このまま腕ごとぶった切れれば良かったが流石に純粋な剣士のステータスじゃないからキツいか。
吹き飛ばされる前に膂力に任せて空中で身を捩る。要は初めてフォルと手合わせした時にやられたアレだ。
この熊は関節部は可動域を確保するために金の装甲が無い。つまるところ首は柔い。
「『一閃』」
ザンッ、と音を立てて首が舞った。
『深緑旋風 イーグリン』
そこそこの知能と多めのMPを抱えた鳥型ユニークモンスター。所謂徘徊型でありヤマト全域に出没するようになった。ポップした時期は比較的最近。
クソゲーポイントはひたすら遠距離から魔法や羽(斬撃属性)を飛ばす点、致命傷が飛んでこようものなら自分に風魔法を当ててノックバックを発生させる疑似オートガードを使用する点、少しでも危険を感じたら即座に逃走を選ぶ点。
普段はジリ貧になる前に逃走するが今回のように逃走を封じられると遠距離チキンプレイをチマチマ行うだけの不愉快なモンスターでしかない。
鳴き声はどう聴いても鶏。
『死忘旋風イーグリン』
上記のイーグリンがMPを抱え落ちした場合の第2形態に当たる。自分を殺した相手に対する最期の悪あがきとも。アンデット化によりSTRが上がっている。また、MPで体を保護しており潤沢なMPがそのまま実質的なHPになる。このままでは自前のMPで動いているだけの疑似アンデットに近く、頭部の破壊でも死亡する。システムに『コイツアンデットだな』と認識されシステム側の補助を貰うと完全にアンデットになり自意識がすり減る代わりに肉体維持に使うMPが減る。今回はシステム側の補助を貰う前に炎上マシーンに首を落とされて討伐された。
『終壊焦動』
削るHPが無くなりそう?じゃあHP最大値削ろっか!
凄まじいステータス補正の代償として死ぬまで治らないHP最大値の減少とVRソフトの都合上カット出来ないためクソ不愉快な高熱、バフを使うとその装備の耐久値上限の低下とよく死ぬファケリーでもなかなかしんどいデメリットを負う。状態異常やデバフにも効果が伝染するのでいっせいにバフをかけると数秒でHP上限が0になる。その数秒があれば龍冠ジェリンドも全盛期ナイトメアリスもボコれるのが問題である。代償さえ払えば本来手が届かないようなエンドコンテンツすらも踏破できるまさに悪魔の契約とも言うべきスキル。
統合スキルなのでもう2段階、あるいはまだ2段階進化する余地の残されている。
また、一人称視点なので描写されていなかったが髪が白くなり目が赤くなるなど容姿が微妙に変わる。




