堕ちし██、熱き██ 一の巻
今年最後の初投稿です。良いお年を!
「……ここまで来れば奴も追ってこないだろうね」
そう言って外套の人物は森の中の小屋の近く足を止めてフードを外す。同時に声にかかっていたノイズも消えた。
「御機嫌よう、異邦人」
白い髪に赤い眼、病的に白い肌の女。つまるところ
「吸血種……」
「おや、知っていたのかい?」
こちらもフードを外して顔を見せる。女性はレンズの瞳や金属のような色合いの髪の毛、首筋あたりの機械が覗いている部分を見せるとギョッとした。
「金属系ゴーレムのテイムモンスターの類だったのかい?」
「残念ながら機人種という人類種です。やはり竜血機同盟についてはご存知ないんですか?」
「残念ながら暫く人里には寄り付いてないからさっぱりだね」
「ブラッドレイズについては?」
「いやー、隠れ里からロクに出なかったし3回しか会ったことは無いね。一応崇めてはいたよ?」
…………なるほど。
「竜血機同盟は竜人種、吸血種、機人種、妖精種、粘菌種の5種族で組まれた同盟です。主に矢面に立つのは最初の3種で、妖精種は妖精鄉の提供を、粘菌種は素材の加工等のバックアップを担当しています」
「…………まあ、今の私には関係ないことかな。私は隠居の身だしね。えーと、お名前は?」
そういや名乗ってなかったな。
「申し遅れました。当機は機人種零号機、ファケリー ヴァイスです。以後お見知り置きを」
「そりゃご丁寧にどうも。私は、…………フォル。ただのフォルだ。よろしく」
「……ええ、よろしくお願いします」
「とりあえず入りなよ、出せるお茶なんて無いが休んで行くといい」
小屋を示しながらフォルは言った。
「あと、左腕大丈夫?さっきからプラプラしてるけど」
「信号伝達用のケーブル壊れましたね。よくあることです」
「……普通の魔法薬や回復魔法で治るようには見えないけど、治るの?」
「専用の施設に入るか、手元の応急キットを使うか、専門職を訪ねるか、死ねば治ります」
施設は無理。応急キットを今使う気にはなれん。専門職はまだこの世界には居ない。実質死ぬ一択だな。
「死ねば、ねぇ。これだから異邦人は……」
「異邦人は苦手ですか」
「ちょっとゴタゴタがあってね。キミのことが嫌いな訳じゃないから気にしないで」
「いえ、当機も軽率でした」
「話題変えようか。どうしてヤマトまで?ブラッドレイズ様に会ったってことは大陸の出身だろう?今の体制じゃあここまで来るのも一苦労だろうに」
「剣聖に成りに。正確には縮地の習得を」
「縮地かぁ……。アレ、『剣聖』に紐付けされてるんじゃなくて一部流派の秘奥みたいなものだよ?」
「……当機は見ての通りお忍びです。道場に入門して訓練という訳にもいきません」
「ふむ、縮地か。一応『上忍』や『天忍』、『隠密』『無影』、『武僧』、『拳聖』、手練の『武士』の一部は習得出来た筈だが……元を辿れば『仙人』の業の模倣故に職に紐付けされたものは存在しないね。練習あるのみだ」
「………なるほど」
……マジかー。なんか一気に無理臭くなったな。
「剣聖になるだけなら教えてあげれるが?」
「何が狙いですか?」
「んー、今は隠居の身だけどこれでも愛国心は結構強いんだよね」
「それで?」
「手紙を出したい。竜血機同盟とやらにいるブラッドレイズ様と、隠居前に目をかけてた子にね」
「………大陸まで行って帰るのはなかなか手間がかかるのですが?」
「ブラッドレイズ様の手紙は後ででいい。一つ渡してくれた時点で剣聖への成り方は伝授しよう」
……悪くない取引ではあるな。
「分かりました、手紙はまた後日受け取りに来ます」
「うん。でもここから人里まで数時間はかかるよ?」
「死ねば戻れますから」
「じゃあ、ちょっとチャンバラしないかい?」
「……何故そこでチャンバラ?」
「ちらっと見た感じヘボかったし鍛えなきゃ剣業や剣理には届かなそうだったし。ミスった時点で首切って街まで送ってあげるから」
完全に舐められてるな。
「やってやりますよコンチクショー!」
「んじゃあ外出ようか」
「スキルは使わないであげるよ」
「舐めてます?」
「別に?」
直後にフォルの姿が消える。
「『神託演算#2』」
直後。後ろから赤。青のラインは既に消えてる。
「おや、天眼の類いかな?まだ打ち合ってないし異邦人の統合スキルで再現……いや、材料に使ったのかな」
後ろから振られた刀に対してこちらの刀をぶつけて弾く。
片手持ちではあるが受けきれた。
「…… 力の限り進め『不退転の誓い』」
ダメージは与えられそうにないからAGIと動体視力以外要らん。
「判断は悪くないね。しかし刀を使うにはちょっとレパートリーが足りてないよ」
『神託』が精度が上がったせいで頭痛が酷くなってる。
赤いラインは5。出現はほぼ同時。速いだけで重くは無い。
刀の打ち合いだと安物のこっちがポッキリ折れかねない。極力刀に負荷を掛けないように弾く。
「……それズルくない?」
「ッ解除!『全壊死動』!貴女がそれを言いますか!」
多分さっきの消えたのが縮地。スキル使わないんじゃなかったのかよ!
心眼的に足元横薙ぎ、頭狙いの一閃、胸元に突き、蹴り!
跳ぶ、弾く、ずらす、こっちも蹴り。
龍爪の効果で靴から水晶の爪が出てくるが対して効果は無さそうだ。『全壊』込みで筋力は漸く五分ぐらいか?
「足癖悪いなぁ…」
「先に蹴ってきたのはそちらでしょうが」
バックステップで距離を取る。
「さっきのはやめて心眼だよりかい?」
「だったらなんですか」
「いや、さすがに素で心眼持ちの防御超えるのは面倒だなって」
「縮地使ってたでしょう」
「あ、バレた?」
「寧ろそれ以降使ってないのを訝しんでますが」
「咄嗟に使ったスキルが怖くてね。焦ってスキルを使うのは三流だよ」
「なるほど」
「じゃあもう一回」
心眼無しでも分かる。また後ろ。
「██流弐の型『██』──『██』」
言葉にノイズが混ざっていてよく聞き取れない。心眼は……袈裟斬り。
刀は緑のオーラを纏っている。
刀同士の接触は避けられない。直接ぶつけ合うと確実に刀が逝くので受け流す。問題なく弾いた。
そろそろ攻めに転じるべきか……?
しかしフォルの目は笑っている。何か企んでいる時の目だ。霞や蝕天がよからぬことを考えた時によくやるタイプの。
しかし刀を振り切った直後で何を?
蹴りか頭突きか?
その予想は外れた。
刀を振った勢いをそのままにイカれた膂力で跳びながら空中で回転。ゲームならではのイカれた挙動と言える。爺ちゃんなら初見でも見切れそうだが俺は生憎一般の学生だ。
唐竹割り。
初撃を弾いたせいで避ける体勢は取れない。
故に取れる手段は防御のみ。
そしてその結果は最初から分かりきってた。
「刀が安物じゃなかったらもう少し遊べたかもね」
おぞましい程の力の込められた斬撃によって刀はいとも容易く破壊された。
対人では負け無しだったからモンスターに齧られたりぺしゃんこにされたりしたのは何度もあるが、頭から真っ二つは初めてだな?
「あ、ここのことと私のことは誰にも教えないでね」
了解だ。
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現在深夜四時也。
「…………寝るか」




