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夏の香りと甘党の神様  作者: うさぎ荘
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第2話「こわ〜い話」

「あ、あの…、暑くないですか?」



気が付けば僕は、その女の子に話しかけていた。


「ううん。全然。風が気持ち良いよ。君もこっち来れば?」


僕は、近くの木の影に立ったまま首を振った。

彼女はそんな怯える僕を見て笑っていた。


笑う顔がこんなに可愛い人がいるなんて思わなかった。


純粋で、爽やかで穏やかな笑顔を見ているだけで、僕の心は段々と熱くなっていくのを感じた。


「ねぇ、君暇?よかったら私とお話ししない?」


僕は、少し考えた。


「向こうに日陰の多い場所があるから、そっちで話さない?」


彼女は目を輝かせて岡を降りてきた。


「嬉しい!私ずっと一人だったから…、早く行こ!」


少しスキップ調の彼女とそれに合わせて早足な僕は近くの木が生い茂った場所にあるベンチに腰掛けた。


「な…名前何て言うの?」


「私は香園美菜。君は?」


「ぼ、僕は八坂勇人。み・美菜ちゃんはどこから来たの?」


僕は、ふいに名前で呼んでしまった事に気付き、焦ってしまったが、そのせいで噛んだ事を美菜ちゃんが笑ってくれて、成り行きでその後も名前で呼ぶようになった。


美菜ちゃんは自分の事をあまり話そうとしなかったが、僕の話は凄く楽しそうに聞いてくれたし、美菜ちゃんもいくつかは話してくれた。


気付けば日が落ちかけていた。


僕は慌てて家に戻ろうとした。


「ご、ごめん。家に戻らないといけないんだった。帰るね。」


「ううん。長い時間付き合わせちゃってごめんね。」


「い、いや、いいんだよ。沢山話しちゃったのは僕の方なんだし。…そ、それに楽しかったし…。」


「そう言ってくれるなら嬉しいなぁ。」


悲しい顔だった表情が急にぱっと明るくなっていく様子を見て、僕は照れ臭くなってしまったけど、気付いた時には次の言葉が出てしまっていた。


「あ、明日も会えるかな?特にやる事もないし…暇なので…。」


「ほんとぉ?会ってくれるの?」


目を輝かせながら美菜ちゃんは僕に最高の笑顔で見送ってくれた。


僕は急いで帰らないと真帆ちゃんさんに怒られるという不安な気持ちと、何だかよくわからないこの感覚…地面から足が浮いたような気持ちで東暖家に向かっていった。


真帆ちゃんさんは顔を一杯に膨らませながら怒っていた。


「真帆ちゃんさん、本当にごめんなさい!」


「もう、知らない!ぷんすかなんだから!」


「そ、そんなに怒らなくても…。反省してますから。ごめんなさい…。」


「知らない知らない!私、もうあなたとはぷんすかする!」


「『ぷんすか』の使い方間違ってません?」


「いいのよ!伝わってるでしょ?私が何言いたいか伝わったでしょ!?伝わればいいのよ!」


「そ、そんな…滅茶苦茶ですよ!ぼ、僕だってねぇ!申し訳ないって思ってるんですよ!こんな体たらくな自分に!」


真帆ちゃんさんは急に黙りこんだ。

もう聞く耳すら持っていないのかもしれない。

「情けないったらありゃしない!」


真帆ちゃんさんは下を向いたまま、動こうとはしていない。



「あー!不甲斐ない。自分が不甲斐ない!」


突然、高い音が部屋中に響いた。


真帆ちゃんさんがお腹を抱えて笑っていた。


僕は何が何だかよくわからなかったけど、


「あなた、小学生でよくそんな難しい言葉知ってるわね。珍しいわよ。」


僕には友達がいないので、よく図書室で本を読んでいた。その影響もあってよくお前の言葉は難しいと言われていた。


「でもそういう感情が暴走しちゃうの、おじさんにそっくり。」


曽祖父の事がより気になったけど、詳しくは聞かなかった。


その後は真帆ちゃんさんの機嫌も収まり、夕飯の手伝いをしてお風呂の掃除もした。


夕方に祠へみかんを持っていったが、やっぱりその後に覗き見ると皮だけが残されていた。

やっぱり祠の近くには何かを飼っているのかもしれない。


僕は感動に感動を重ねていた。

こんな体験初めてだった。


「何ですか!?このおかず。美味しすぎますよ!こんなに美味しい里芋の煮付けは初めてですよ!?それにこの焼いた鯖なんて、こんなに脂ののったのなんて初めて食べました。こ、この…沢庵の漬物なんて…塩加減が絶妙で…。」


「な、何で普通の夕飯食べてるだけで泣いてるのよ!?ば、バッカじゃないの!?」


「だ、だって、こんなの…テレビでしか見た事ないのにこんなにうまいなんて、このきんぴらとか、甘辛具合が丁度良すぎて止まらないですよ!正直、うちの母さんの料理が食べれなくなりそうです…。」


また、涙がこみ上げてきた僕はあまりの美味しさに、いかに食卓においてあるご飯が美味しいかを力説した。


なぜか、真帆ちゃんさんは、真っ赤な顔をしていて、


「そ、そんな事言って口説こうったってそうはいかないんだからねー!」


と、奥の仏間に入っていき、何度も鈴を鳴らしていた。


お腹が膨れすぎた僕はいつものように食器を片付けて洗い始めた。


真帆ちゃんさんが奥から出てきて驚きながら食器の残りを洗ってくれた。


食後は二人でテレビをつけて真帆ちゃんさんのお勧めの番組を観る事になった。


この家では食事中はテレビを見てはいけないらしかった。


真帆ちゃんさんが観ていた番組はマジックショーの夏休み特番だった。



『マジカル・ジェンキンスの世界一マジックショー』

という番組名で、何でも、『マジカル・ジェンキンス』という芸名のマジシャンが世界のショーコンテストで日本人が初めて賞を取り、マスコミはこぞってこの無名であったマジシャンをテレビで取り上げようとしていた。


しかし、本人はショーとしての番組以外には一切出演をしないという謎の多い人物なのも人気の秘訣であると真帆ちゃんさんが熱弁していた。


真帆ちゃんさんにこんなに好きになる芸能人がいるなんて意外な感じがしたけど、番組を見終わる頃にはすっかり僕も魅了されていた。


「凄いですよp!あんなにちぎって燃やしたカードが何であんな場所から出てきたんですか不思議ですね!」


「確かにそれも凄いけど、あの補助のお姉さんの大脱出劇はかなりの実物だったわぁ。」


「そうですよね!あんなに小さいカバンの中に入ってたくさん剣を差し込まれたのに、どうして無傷で脱出が出来たんですかね?」


「あと、人差し指一本で人が宙に浮いていくのとか、金魚の大ジャンプとか、もう過ごすぎるわね!」


僕と真帆ちゃんさんはしばらく興奮ぎみに話をした後、お茶を入れてくれた。


ふと、落ち着いてきたところで、僕は昼間に会った美菜ちゃんの情報を知りたくて、さり気なく聞いてみる事にした。


「そういえば、香園さん家のご家族はいつまでこっちにいるんですかねぇ?」


「ん?どうしてそんな事を聞くの?」


「いえー、そのぉ、昼間に会ってお話ししたもので…そのぉ…娘さんと…。」


「娘?あそこには息子さんしかいないわよ。私と同じ年くらいの…昌くんに会ったの?」

「い、いえ、それじゃあ、孫娘さんですかね、名前は確か、えぇと、美菜ちゃんだった…かな?」


一瞬、真帆ちゃんさんは無言になった。しばらく黙ったまま、うちわを仰ぎながら外を眺めていた。


「あなた、よく知ってるわね。十五年前に亡くなった子の事。お墓でも見たの?」


僕は、その言葉を理解するのに数十秒かかった。


そして、理解した途端、背筋が凍るように寒くなり震え出した。

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