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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
8/39

Ⅰ・幾島ミズキによる勉強会 →Ⅳ

「なあ」


 授業前、僕が机に頬杖をついてぼーっと窓の外を眺めていると、雑誌を読んでいたイクオが声をかけてきた。


「なに?」

「勉強会ってどんなことするんだ?」


 改めて訊かれると、ぴったりと当て嵌まる言葉が思い付かない。

 なにをしているのだろうか……討論? 少し違う気がする。


「なんだろう……会長の出すお題にそれぞれが意見を言って、それに同意したり反論したり……まあ、そんな感じだよ」

「ふうん……なんか普通だな」

「どんな期待してたんだよ」


 僕は呆れながら呟く。


「いや、色々あるじゃんよ。閣下の秘密の暴露とか、美味いもんを食うとか、酒池肉林を繰り広げるとかさ、な」


 イクオは僕を見てから、イクオのパートナーの岡崎風子と談笑するリコのほうを伺う。


「言っとくけど」


 僕は睨むようにした。


「変な目で見たりしたら、潰すよ」

「な、なにをだよ?」


 僕は答えず、ただアクションだけで応えた。

 包むように左手を動かし、右で握り潰す。イクオがぶるっと身震いした。


「ばーか、んな発育不全みたいなのに欲情するもんかよ」


 とりあえずイクオの頭をひっぱたく。「いってぇ」 と、イクオは頭をさすった。


「まあよ、冗談はさておき」

「ん?」

「お前ら、学校出るのか?」


 学校出る……学校に出るのか、学校を出るのか。後者だろうけど。イクオは少し寂しそうに呟く。


「さあね……僕にもわからないよ」

「お前らまでいなくなったらつまんねぇじゃんか」

「みんな施設に行っただけなんだから、そのうち戻ってくるじゃないか」

「まあな」


 イクオ達はこのクラスで僕ら以外に唯一、いまだ施設に行っていない。恐らくは卒業と同時に強制施行されるだろう。

 僕らは……どうなるのだろうか。縛りから解放されるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


「イクオは」


 この質問をするのは、少しだけ憚られる。閣下の教えがまだ染み付いていないからだろうか。


「施設に行かないの?」


 だから、直接的ではなく、間接的になる。


「努力はしてるんだがなあ……磯山たちなんか、一発で出来たらしいのにな」


 下品な表現に呆れつつ、僕は磯山と綾木の顔を思いだそうとして、諦めた。

 あまり会話もしなかったからか、よく覚えていない。確か、小太りが磯山で、綾木は背の高いやつだったか。


「相変わらず、興味ないことは興味ないのな」


 イクオが言った。


「いや、わかるよ」


 うろ覚えだけど。


「だから勉強会の存在も知らないし、友達が俺くらいしかいねえんだよ。もっと身近なことに興味持て」


イクオはそう説教じみた口調で言った。


「勉強会って有名なの?」

「まぁ、みんなが一度は聞いたことがあるってくらいにはな」

「ふうん……」


 あまりに接点がなさすぎたのだろうか。


「それで、そういうお前らは? やってんのかよ?」


 その質問は……返されて初めて抵抗がわかる。それにしたって、オブラートに包むということを知らないのだろうか。


「いや……」

「なんだよ、まだやってねえのか。新入生じゃねえんだから、とっとと覚悟決めろよ。前にも言った気がするが、いっぺんやっちまえば、こんないいもんはねぇぞ?」

「イクオと僕は違うんだよ」

「そりゃそうだ。俺はお前じゃないからな」

「そりゃそうだ」


 僕達は笑う。


「あ、そうだ」

「ん」

「この学校の中等部ってさ、制服一緒だったりする?」

「いいや、違ったはずだけど」


 なら、やっぱり江間那さん達は同い年なのだろうか。外国人の年齢はわかりにくいのも一つ。


「それが?」

「いや、ちょっとね」

「ちょっとなんだよ?」

「気になってね」


 ふうん、と興味もなさそうに言って、イクオはリコ達を見た。


「お前らも大変だな」

「そうかな」

「あの会長に付き合うだけでも大変だろ」


 それはまあ、そうかもしれない。しかし、それがリコの選択なのだ。僕に否はない。


「知ってるか? 会長ってIQが百六十あるんだってよ」


 デバイスをいじりながら、イクオが言う。


「へぇ……ソースは?」

「カルテインフ」

「ウィキじゃんか」

「そんなもん、嘘書いてどうなる?」


 どうもならない。無条件に信じる訳にもいかないが。強いて言うなら愉快犯だろう。


「IQなんてものが、まずあやふやじゃんか」

「じゃあ偏差値だ。八十四だとよ」


 基準のよくわからないIQよりも、そのほうがわかりやすい。しかし、勉強の出来と頭の良さはまた別の話だろう。


「とにかく、とんでもなく頭がいいってこったろ」

「うん」

「気をつけろよ」


 不器用に、それでも僕の助けになればと。

 その言葉には、色々な意味が込められていて。


「ありがと」


 聞こえない程度の小さな声で呟く。すると、耳聡く聞き付けたのか、イクオはこう笑った。

「お前じゃねぇ。リコが心配なんだよ」













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