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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
7/39

Ⅰ・幾島ミズキによる勉強会 →Ⅲ

 久しぶりに、実に久しぶりに、親からのコールが届いた。着信を確認して、無視をする。デバイスの画面には、不在着信を知らせる文字が浮かんでいた。

 最後に会ったのはいつだったろうか……。確か、小学校の卒業式に顔を出していた気がする。中学はどうだったか……なにかの用事で来られなかったのだったか。

 学校の節目や、なにか起きた時にしか会うことはない両親。

 なにか起きた時にしか顔を出さない両親。


 学校に通う前は、よく面会に来ていた。いつからだったか……彼らが会いに来なくなったのは。

 彼らはきっと、なにも変わっちゃいない。変わったとしたら、僕のほうだ。

 第二世代……それは、過渡期だ。うまくいかなかった部分と、うまくいった部分と、旧世界の擦り合わせの最中の世代だ。

 だからなのだろうか……僕と両親は、違う種類の生き物のような気がしてならない。

 リコは時折、楽しそうに両親と会話している。デバイス越しの両親の声は、一体どんなものだろう。


 リコのその時の顔を思い出すと、無視をした自分がひどく小さく思える。

 親は敬うべき存在だと、学校で教わった。なら、僕が今抱いている感情は、罪悪にも似たものなのだろうか。悪いことをした時と同じ感覚……?


 感情の隙間や、なにか起きた時にしか自覚できない良心。

 なにかが起きたから、顔を出した良心。

 僕とリコの両親には、どんな違いがあるのだろう。

 僕とリコの良心には、どんな違いがあるのだろう。

 ベッドの中では、無駄な考えばかりが渦巻く。


 夜は、どうにも落ち着かない。全然慣れないという訳ではないけど、それを日常と呼ぶには、まだ時間が足りない。

 自分達の境遇において、それがひどくつまらないことなのは、自分でも理解している。これを打破したいのなら、いっそしてしまえばいいだけのことだ。

 イクオに言われただろう。一度やってしまえば、これほどいいものはないと。

 ただ、それに踏ん切りをつけるのもまた、多大なる勇気を必要とした。


 頭まで毛布を被る。その中で、口の中で小さく唸りながら腕を組む。腰を折って身体を丸める。それから、全部崩して寝返りを打った。

 自分で自分がわからない。いったい、何をしているんだろうか。

 そんな風に、馬鹿なことをしていた。誰かに見られたら、死にたくなるような行為の数々。意味は僕にしかわからないけど、自分でもよくはわからない。


「アキ」

「ん……」


 明かりの落ちた部屋の中、頭の上から、リコの小さな声がした。もしかしたら、さっきガサゴソしていたので起こしてしまったのかもしれない。


「なに? リコ……」


 声を掛けて、しばらく待つ。寝言だったのだろうか。だとしたら、僕の夢とは一体どんな夢だろう。考えると少し怖い。


「会長に、さあ」

「うん」


 どうやら寝言ではないらしい。五秒くらい、間を開けて。


「選ばれた、んだよね」

「……みたいだね」

「ってことは、さ」

「うん」


 リコは小さく息を吐いた。


「閣下に、会えるかもしれない、よね」

「……かも、ね」

「閣下に会えたら、さ」

「うん」

「システムを、さ……」


 それ以上は……続かなかった。

 途中で寝てしまったのか、それとも、言い淀んだのか……判別はつかなかった。もしかしたら、やっぱり寝言だったのかもしれない。


 僕は、思う。

 きっとリコは、システムが嫌なのだろう。いや、それとも……。

 だったら、僕にできるのは……。

 大丈夫、大丈夫だよ、リコ。

 僕が、リコの望みを、叶える、から……。

 リコは、だから、側にいて。

 例えば、リコがシステムの廃止を望むのなら、僕が。

 僕は…………。

 いつの間にか、リコは浅い寝息を立てていた。僕もゆっくりと目を閉じる。

 思考はきっと、眠りと夢の中に溶けたのだろう。朝起きた時には、リコはいつものリコだったし、僕もきっとそうだった。




 メッセージを再生します。

『久しぶり、元気にしているかな。報告、聞きました。あなたがミズキさんに見出されたことは、とても喜ばしいことです。おめでとう! これからも精進を欠かさず、どんどん上を目指してね。大丈夫、あなたならできるわ。あなたはわた』

 プッ――

 メッセージを消去しますか?

▽はい。

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