Ⅰ・幾島ミズキによる勉強会 →Ⅲ
久しぶりに、実に久しぶりに、親からのコールが届いた。着信を確認して、無視をする。デバイスの画面には、不在着信を知らせる文字が浮かんでいた。
最後に会ったのはいつだったろうか……。確か、小学校の卒業式に顔を出していた気がする。中学はどうだったか……なにかの用事で来られなかったのだったか。
学校の節目や、なにか起きた時にしか会うことはない両親。
なにか起きた時にしか顔を出さない両親。
学校に通う前は、よく面会に来ていた。いつからだったか……彼らが会いに来なくなったのは。
彼らはきっと、なにも変わっちゃいない。変わったとしたら、僕のほうだ。
第二世代……それは、過渡期だ。うまくいかなかった部分と、うまくいった部分と、旧世界の擦り合わせの最中の世代だ。
だからなのだろうか……僕と両親は、違う種類の生き物のような気がしてならない。
リコは時折、楽しそうに両親と会話している。デバイス越しの両親の声は、一体どんなものだろう。
リコのその時の顔を思い出すと、無視をした自分がひどく小さく思える。
親は敬うべき存在だと、学校で教わった。なら、僕が今抱いている感情は、罪悪にも似たものなのだろうか。悪いことをした時と同じ感覚……?
感情の隙間や、なにか起きた時にしか自覚できない良心。
なにかが起きたから、顔を出した良心。
僕とリコの両親には、どんな違いがあるのだろう。
僕とリコの良心には、どんな違いがあるのだろう。
ベッドの中では、無駄な考えばかりが渦巻く。
夜は、どうにも落ち着かない。全然慣れないという訳ではないけど、それを日常と呼ぶには、まだ時間が足りない。
自分達の境遇において、それがひどくつまらないことなのは、自分でも理解している。これを打破したいのなら、いっそしてしまえばいいだけのことだ。
イクオに言われただろう。一度やってしまえば、これほどいいものはないと。
ただ、それに踏ん切りをつけるのもまた、多大なる勇気を必要とした。
頭まで毛布を被る。その中で、口の中で小さく唸りながら腕を組む。腰を折って身体を丸める。それから、全部崩して寝返りを打った。
自分で自分がわからない。いったい、何をしているんだろうか。
そんな風に、馬鹿なことをしていた。誰かに見られたら、死にたくなるような行為の数々。意味は僕にしかわからないけど、自分でもよくはわからない。
「アキ」
「ん……」
明かりの落ちた部屋の中、頭の上から、リコの小さな声がした。もしかしたら、さっきガサゴソしていたので起こしてしまったのかもしれない。
「なに? リコ……」
声を掛けて、しばらく待つ。寝言だったのだろうか。だとしたら、僕の夢とは一体どんな夢だろう。考えると少し怖い。
「会長に、さあ」
「うん」
どうやら寝言ではないらしい。五秒くらい、間を開けて。
「選ばれた、んだよね」
「……みたいだね」
「ってことは、さ」
「うん」
リコは小さく息を吐いた。
「閣下に、会えるかもしれない、よね」
「……かも、ね」
「閣下に会えたら、さ」
「うん」
「システムを、さ……」
それ以上は……続かなかった。
途中で寝てしまったのか、それとも、言い淀んだのか……判別はつかなかった。もしかしたら、やっぱり寝言だったのかもしれない。
僕は、思う。
きっとリコは、システムが嫌なのだろう。いや、それとも……。
だったら、僕にできるのは……。
大丈夫、大丈夫だよ、リコ。
僕が、リコの望みを、叶える、から……。
リコは、だから、側にいて。
例えば、リコがシステムの廃止を望むのなら、僕が。
僕は…………。
いつの間にか、リコは浅い寝息を立てていた。僕もゆっくりと目を閉じる。
思考はきっと、眠りと夢の中に溶けたのだろう。朝起きた時には、リコはいつものリコだったし、僕もきっとそうだった。
メッセージを再生します。
『久しぶり、元気にしているかな。報告、聞きました。あなたがミズキさんに見出されたことは、とても喜ばしいことです。おめでとう! これからも精進を欠かさず、どんどん上を目指してね。大丈夫、あなたならできるわ。あなたはわた』
プッ――
メッセージを消去しますか?
▽はい。




