Ⅸ・世界の詠歌、政界の成果、正解の対価→Ⅳ
「それで、なんて答えたの?」
リコは僕と顔をくっつかんばかりに近付けた。
「システムを無くすのは、言わなくてもミズキが勝手にやるだろうからね。僕はまずこう願った。『ドームの人達を解放してくれ』ってね」
「それだけ?」
「それから……こう願った。『ドームで誰の邪魔もなく、二人きりで暮らしたい』」
「……」
「勝手なこと言ってごめん。でも、システムを無くしたがる理由を勘違いしていた僕には、そうするしかリコと一緒にいる方法が思い付かなかったんだ」
「……うん」
「ミズキは断った。ドームを解放するのはいい。でも、僕らがそこに閉じこもってしまうのは駄目だと言った。僕らは合格したのだから、ミズキの政権を手伝う義務があると」
「だから、クローン?」
「そう。僕はクローンを用意して、それをミズキの手伝いに充てればいいと言った。ミズキは突っぱねたけど、僕も譲らなかった。最後にはミズキも折れたよ。僕が折った。じゃないと物理的に折ってしまいそうだった」
「……ミズキを?」
「ミズキを」
お互いに、苦笑した顔を見合わせる。リコは突然思案げになり、不安な顔を見せた。
「そして、クローンを造った? え、ちょっと待って。じゃあ……」
「いや、君は本物のリコだよ。クローンはドームにいる。本物の僕と一緒に」
リコの気持ちも知らず、何も知らず。
「僕、本当、馬鹿だよね……」
「……」
シェルターの役割も果たすあのドームは、今は内側からロックされている。外からはもう、開ける手段はない。二人が生きていくには十分過ぎる設備があるから、きっと永遠にでも開かない。二人は死んでもあの中だろう。
アダムとイヴ、アスクとエムブラのように。
エデンであり、ミドガルド。
ミズキはエアの役割か。僕はきっと蛇だろう。
もう、取り返しはつかない。全てはもう終わってしまった。
「リコ」
「うん」
「僕のこと、好き?」
「うん」
迷いもなく、即答する。してくれる。
「偽物でも?」
「アキは、アキだよ。勝手にそんなことしたのは……ちょっと許せないけど」
「ごめん」
「うん」
「ごめん」
「うん……」
僕はリコの胸の中で繰り返した。リコは思案げな顔をしたまま、いつまでも僕の背中を撫でていた。




