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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
33/39

Ⅸ・世界の詠歌、政界の成果、正解の対価→Ⅲ

 ミズキは僕らに終わったと告げた後、そのまま倒れてしまったよね。僕はリコやイスズさんがミズキの介抱をしている時、安置室に向かったんだ。終わったって言葉の意味を確かめる為に。

 安置室は冷たい空気で満ちていた。そこで僕は、閣下の遺体を見つけた。安らかに、まるでただ眠ってるだけみたいな顔をして、冷たくなっていた。

 傍らの野中奏音に寄り添うように。

 それで、僕は理解した。きっと野中奏音は、閣下の恋人だったんだ。それも、唯一無二と言っていいくらいに。

 そこで僕は気付いたんだ。どうしてミズキが僕らを選んだのか。

 ミズキのほうの理由? それはちょっと待って。順番に話すから。

 僕はミズキが起きるのを待って、訊いた。




「なんだい、話って?」


 来客用のベッドに寝かされていたミズキは、身体を起こして僕と向かい合った。


「僕、気付いたんだ。ミズキが僕……いや、僕らを抱こうと思った理由に」


 ミズキは苦笑した。


「抱こうと思ったってね。私は女だから、抱かれる側だよ。君だってそうだろう?」

「そうだね。じゃあ、どうして抱かれようと思ったか、でいい」

「へえ」


 ちょっと待って、といって、ミズキはデバイスでどこかに連絡した。


「いいよ。これで盗聴盗撮の心配は無くなった」


 そういえば、この部屋は奴らに盗撮された部屋だった。


「うん……ミズキ」

「うん」

「君は、閣下だね」

「……」

「いや、正確に言えば、君の脳が、閣下なんだね」


 試験の正解は、脳科学研究所じゃない。

 ミズキの頭の中。そこに閣下がいる。僕はそう結論付けた。

 ミズキは表情を変えない。薄笑いを浮かべたままだった。


「どうして、そう思った?」

「野中奏音は、閣下の恋人だったんだ」

「……安置室を見たのかい」

「うん」

「それは、そうだね。イエスだ」

「それでわかったんだ。野中奏音は、僕に似ている。いや、僕が野中奏音に似ているのかな」

「同じことだ」


 ミズキは僕の目を見る。手を伸ばして、頬に触れた。


「顔は別段似ていないが……喋り方も、考え方も、在り様も、リコとの関係性も。ふとした仕種や、好みまで。君は……全部全部、奏音にそっくりだ」


 愛しい記憶を掘り出すように、僕の頬を撫でる。


「僕は野中奏音のコピーじゃない」

「わかってるさ。奏音は植物状態だった。今の技術では、植物状態の人間の記憶をサルベージするのはは不可能だからね」

「やっぱり、ミズキは閣下のクローンなんだね」

「いいや、それは違う。クローンではないよ。私は閣下の精子と奏音の細胞を素に創られた、試験管ベイビーだ。だけど、なんて言ったらいいかな、自分なんだけど……あの男の記憶を持っているのは事実だよ。この身体がごく小さな頃に、記憶を植え付けたんだ」


 ミズキは語った。


「私は……ああ、ややこしい。今まで通り、あっちはじいさんでいいや。じいさんは、愛してもいない相手と結婚して、世継ぎをつくる義務があった。しかし、産まれたのは俗物ばかりだったよ。そいつらはとっくに市井で生きている。私はそいつらのかわりに生み出され、記憶を植え付けられたんだ」

「だから、ミズキは野中奏音に似た僕と、男らしさの無いリコに目をつけた」

「そうだね、その通りだよ。私は身体が女で、脳みそは男なんだ。性同一性障害と似たようなものかな。だから、君達になら抱かれてもいいと思ったのさ。奏音に似た磯近明利と、女のような外見の、沖理子(おきさとし)になら」

「だから卜部さんにあんな態度だったんだ」

「そう。あんな男臭いやつに抱かれるなんて御免だった。自分でつくったシステムを恨んだよ。じいさんに言っても変えてくれないしな。システムが選んだ最適の相手なんだってさ」


 報われない卜部さんを思った。裏切ったのは、ミズキか、僕か。

 また正当化している。そんなもの、僕に決まっているじゃないか。


「ミズキ……いや、閣下」

「ん?」

「見ぃつけた」


 僕はミズキの肩を叩いた。


「試験、これで合格だろ?」


 ミズキはぽかんとしていたけど、しばらくして笑いだした。


「あっはっはっは! そうだね、色々あって、今が試験の最中なのを忘れていたよ! 確かに私は私だが、じいさんでもある。正解だよ。合格だ」


 そう言って、ひとしきり笑った後、ミズキは言った。


「それで、君は何を望むのかな」












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