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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
29/39

Ⅷ・屋良零の襲撃→Ⅲ

 なんだかんだと大層な理屈をつけてはいたが、要するに古き善き学生運動に近いものらしい。反体制、アナーキズム。合宿参加を前に、体制から抜け出した人間の集まり。それが積もり積もって一群となり、一軍となった。レジスタンスなんて大規模なものじゃないし、クーデターなんて大袈裟なものじゃない。資金もなければコネクションもない。できることといえば、精々ハッキングや誘拐くらい。しかし、熱意と行動力だけはある。そんな厄介な集団だった。

 かつての学生運動と違うのは、それがあくまでアンダーグラウンドな世界を中心にしている点。


「いいだろう、乗るよ」


 僕とリコを引き連れ、ミズキにその旨を伝えると、ミズキはあっさりとそう言った。面白がっているようにも見えた。


「老い先短いじじいをわざわざ失脚させる必要もないと思うけど……譲り受けるより、奪い取るほうが好みだしね」

「おぉ!」


 屋良含め、幹部と思しき面々は一様に破顔した。その顔は、やはり学生の集まりだ。


「では、早速打ち合わせを……」

「ああ」

「お二方、退席願えますか?」


 後ろに立つ男が僕らの腕を掴んだ。


「触るなっ!」


 僕はそれを振り払う。自分で立ち上がり、リコの手をとった。


「行こう。ここからは聞かせたくないみたいだ」

「うん……」


 部屋を出ようとする僕らに、ミズキが声を掛けてくれる。


「後でね」


 振り返ると、慌ててついてくる男二人の向こう側で、後ろ姿のミズキが片手を上げていた。


「……うん」


 僕は部屋を出る。

 今はミズキだけが頼りだ。作戦の詳細もいずれ聞けるだろう。

 …………。

 ミズキが頼りだって?

 なんの気負いもてらいもなく、そんな言葉が出てきたことに驚く。

 頼り……か。

 頼る相手がいるというのは、そう悪いものではないな。そう思った。




「リコ、大丈夫だった? 何もされてない?」

「大丈夫だよ。アキこそ大丈夫?」

「ああ、大丈夫」


 別室へ誘導され、まず互いの無事を確かめ合う。本当は引き合わされた時、いの一番に言いたかった。


「ミズキ、大丈夫かな」

「大丈夫さ。ミズキは強い。きっとなんとかしてくれる」

「うん……」


 デバイスを没収されたから、今の時間もわからない。しかし、この頭に残る疲労感は、ある程度の時間が経過したことを告げていた。

 僕らは身を寄せ合って座る。リコの肩が僕に触れた。手を握る。


「ケンちゃん、ドームにいないから、てっきり合格したものと思ってたら、こんなのに参加してたんだね」

「うん。優子さんはどうしたのかなあ」

「一緒はいないんじゃないかな。あの閣下信奉者が反政府集団に与するとは思えないし」

「だよね……試験、どうなっちゃうのかなぁ」

「中止、かな。ミズキなら追試とか言うかもね」

「あはっ、言いそう」

「ね」

「……」

「……」


 会話は続かない。でも、リコの手から伝わる熱が、何よりも雄弁に僕を勇気付けた。

 やがて、まどろみが押し寄せる。リコの寝息が聞こえた。少し鼻息の混じった、短く小さな呼吸。リコは首を傾け、僕の肩に乗せていた。

 僕も眠りに落ちようと目を閉じる。その直前――がちゃりと、ドアが開く。僕は身構えた。


「よお」


 はたして、ケンちゃんがそこにいた。


「やあ」


 リコを起こさないように、小さな声で。


「なんだ、もう寝てるのかよ」

「疲れてるんだ。慣れないことが続いたから」

「そっか」


 僕らの対面に座る。


「なんでまた、こんな組織に?」

「俺の試験……まあ、宝探しゲームみたいなもんだったんだけどよ、街中を歩き回ってた時、怪しい男に会ったんだ。どのくらい怪しいかってーと、そうだな、道端で壁に向かってしゃがみ込んで延々と足元の植物に話し掛けてる黒いコート姿の男ってくらいに怪しかった。あからさまに怪し過ぎて、これは会長の関係者だと思ったんだ」

「現実的な判断だ」

「なんだあれと思って見てると、そいつは急に立ち上がると、俺に手招きした。俺はそいつ自身以外にはなんの疑いもなく近付いたよ。そしたら、物陰に潜んでた連中に捕まった」

「……そう」


 なにかすごいことをやらかすやつは、大抵馬鹿者なのかもしれない。


「ミズキのことは調べてきたみたいだな。普段の俺なら絶対近付かねぇ。試験中じゃなけりゃな」

「それで、優子さんはどうした?」

「一緒に捕まって、軟禁っつうの? 人質にされた。俺は知ってること全部話すしかなかった。協力じゃねえ。脅迫だ」

「今、優子さんは?」

「知らね。無事なのは確かだろうけどな」

「……それでいいの?」

「どうしようがあるってんだよ」


 ケンちゃんはそっぽを向いた。


「会長が、クーデター成功させるのを祈るしかねえ」


 肩が、声が、震えている。

 責任感……なのだろう。優子さんを守れなかったこと、クーデターの要因の一つになってしまったこと、それから、僕らを巻き込んだことも。


「大丈夫だよ」


 僕はリコを起こさないように膝に横たえると、両手を伸ばしてケンちゃんの頭を抱きしめた。


「っく……」

「大丈夫。情けないけど、ミズキがなんとかしてくれる。だから、大丈夫。泣くな」

「……泣いて、ねえよ」


 強がるケンちゃんが、どうしようもなく愛しかった。











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