Ⅷ・屋良零の襲撃→Ⅳ
ミズキの出発に合わせて、僕らも呆気ないほど簡単に解放された。てっきり僕らを人質にミズキを動かすものと思っていた。どうやら僕らは、閣下に怪しまれないようにする小道具としての役割を割り振られたらしい。
勿論、ケンちゃん達は依然として人質のままだ。二人がミズキに対する人質として機能するのは、奴らも承知しているのだろう。
タイヤだけを交換して、エレカートは何の問題もなく発進する。位置情報の誤認は、奴らのエンジニアもどきが解消した。
僕達は最後の予定をすっ飛ばして、閣下のいる場所へ向かった。
「結局さ、閣下はどこにいるの?」
「あ、そうそう。試験の答えは?」
「んー……予定が少し狂ったけど、もうあそこにいるはずだよ」
「どこさ?」
「脳科学研究所」
「……へえ」
結局、試験の答えはあそこだったのか。
僕達が発った後、閣下が入れ違いでやってくれば、一度訪れた場所だ。ミスリードとしても機能する。
「それで、どうする?」
「何がかな」
「武力制圧でもするの? それとも、油断しているところを縛り上げる? まさか暗殺するわけじゃないでしょ?」
「暗殺……」
言葉の響きだけで、リコが息を飲んだ。
「どうとでもなる。今の段階でも、私が政権を寄越せと言えば寄越すだろう。連中は研究所をまるごと制圧するとか宣っていたがね。却下したよ。大袈裟な作戦なんか必要ない。クーデターなんて簡単なんだ。私にとってはね」
「そりゃまあ、そうかもしれないけど」
人気のない道を走る。いつしか見覚えのある場所にいた。そろそろ研究所のある山奥が近い。襲撃された場所を過ぎた。しばらくして、脳科学研究所の門が見える。
「降りよう」
エレカートが止まる。ミズキに続いて僕らも外に出た。
一昨日と同じように、警備員と談笑し、テイリを呼び出す。ぷりぷりしながらテイリが迎えに来て、僕達は研究所に入った。こんな時までイスズさんを呼び出さないあたりに、ミズキの趣味を感じる。
「じいさん、どこ?」
「……安置室だ。邪魔するなよ」
「はいはい」
テイリの案内で、僕達は一昨日訪れたばかりの保管室の横にある、安置室へ向かった。
「テイリ」
「あん?」
「二人を連れて、ちょっと席を外してくれ」
「……はいよ。ほら、行くぞ」
「ちょ、ちょっと」
「ぁんだよ」
テイリは不機嫌そうに唸った。
「ミズキ! 僕も行く」
「ダメだ。行くのは私だけ」
その言い方に、どうしようもない拒絶を感じた。
これは……粘るだけ無駄だろう。
「どうしても?」
「どうしても」
それでも僕は、念押しせざるを得なかった。
「まあ、少し待っててくれ。あんまり時間は掛けないから」
ミズキは笑って手を振る。
僕もリコも、ミズキが安置室に入ってしまうまで、ずっとその背中を見ていた。
僕らはテイリに連れられ、イスズさんの部屋へ入った。イスズさんはいない。実験でもしているのだろうか。テイリはここにいるのだけど。
「そこらに触るなよ。イスズはマメなぶん神経質だから、物が移動しているとガン切れするからな」
あのイスズさんが……? そんなまさか。
そう思いながらも、座布団以外には触らぬように座る。
「ほらよ、茶」
急須と湯呑みとケトルを渡される。いれてはくれないらしい。リコが受け取り、お茶をいれる。
「お前ら、試験合格か」
啜りながら、テイリが言った。
そうか。テイリは事情を知らない。なら、僕達がここに来たことは、試験の合格を意味する。
僕らは答えられず、苦笑いを返すしかなかった。
「なんだよ、嬉しくねぇのか?」
「いや、まあ……」
「しっかし、お前らも大変だな。いきなり政権に組み込まれるんだから」
「まあね」
それを言うなら、テイリだってそうだろう。
「報酬は決めたのか?」
「あ、まだ」
「とっとと決めろ。もう時間ねぇぞ」
沈黙が流れる。話し合う余地はない。だって僕らは不合格だ。
扉が……小さな音を立てた。
「よぉ、もういいのか」
テイリは何事もないように言う。当然だ。テイリにとっては何事もないはずなのだから。
そこにはミズキが立っていた。
「終わったよ」
「あん?」
「終ったんだよ。今日から私が」
僕とリコの肩に手を置いた。耳元まで顔を近付け……
「独裁者だ」




