最終話 未来図
ゆめいろ・バウム 最終回です、いつにも増して恥ずかしい話にお付き合いくださり、ありがとうございます。
最終話 未来図
「そうだ、ケーキ忘れてた。ミルクティー冷めちゃうね」
ナイフを握った美紅の手に、自分の手を重ねた。
「蒼くん?」
「一緒にナイフ入れよう、今日の記念に」
美紅が大きく目を見開く。
お互いが何を考えているか、今は通じ合っている気がする。
「うん。だったらキャンドルも一緒に灯したいな」
「そうだね・・・」
美紅に頷き返して、ケーキにナイフを入れ、小さなトーチで2本のキャンドルに火を灯す。
ささやかだけど、結婚式気分。
キャンドルの灯りに浮かぶ美紅の顔は何時にも増して可愛くて綺麗だ。
そっと唇を合わせる。
「大好き、愛してる」
「うん、あたしも愛してる、ずっと変わらずに蒼くんだけ」
幸せな気分がどんどん満ちてきて、溢れてしまいそうだ。
切り分けて皿に載せたバウムクーヘンを美紅が俺の前に置いてくれる。あれ?
「美紅、指環、回ってる」
「あ、ほんとだ」
石が手のひらの方にいってしまっている。
「ごめん、サイズとかわからなくて。かなりゆるいな」
「うん、でもサイズは直してもらえるから。だけど落としそうで怖いな。うーん、でもずっとつけていたいし・・・。サイズ直してもらうまで他の指にしていてもいい?」
「うん、いいよ」
美紅は頷くと、指環を右手の中指に嵌めた。ちょうどぴったりくる。
「美紅・・・」
「なに?」
「指環はそのまま、その指にしていていいよ。ぴったりだし」
「え?でも、せっかく左手の薬指に嵌めてくれたのに」
「だからそれは今のところ二人だけの秘密。恥ずかしいだろ、塾で」
「あ、忘れてた。アヤカちゃん・・・」
そう、バイトでアヤカちゃんたちに会ったときに左手の薬指に指環をしていたら何か言われる可能性は高い。ことにアヤカちゃんは目ざといし。
「それに、正式な婚約指環はちゃんと就職してもっと稼げるようになってから贈るよ。約束する」
婚約指環が1万円台なのはあんまりだ、と思う。
「あたしはこれで十分なのにな」
美紅は名残惜しそうに指環を見つめている。こんな安物の指環をそこまで喜んでくれる美紅の気持ちがとてもうれしい。
「じゃあ、この指環はこのままにしておくけど、あたしの左手の薬指にはずっと嵌ってるから、見えないけど・・・」
「うん、それでいいよ」
他の誰にも見えないair ring。
ふたりだけの秘密、それも楽しい。
いつか、きっと。いや、近い将来。
美紅とペアのマリッジリングを嵌めて、ウンター・デン・リンデン通りをふたりで歩きたい。
口の中でやわらかくほどけてゆくバウムクーヘンを味わいながら、俺はそんな未来図を思い描いていた。
夢は、かなう・・・
きっと・・・
END
ははは・・・恥ずかしいですね、相変わらず。
ふたりの新婚旅行先はドイツで決定ですね、きっと。
読んでくださった方、ありがとうございます。
あとはエピローグで終了です。




