Part9 Engagement
Part9 Engagement
「お待たせ、蒼くん、お茶も淹れてきたよ」
ミルクティーとケーキ皿、ナイフをトレイに載せた美紅が戻ってきた。
「ああ、ありがとう」
「あ、そうだ。バウムクーヘンにはロウソク立てられないけど、やっぱりキャンドルほしいなあと思ってこれ買ってきた」
そう言うと、美紅はバックから紙袋を取り出した。その中から出てきたのは、可愛らしいグラスに入った、赤と青のキャンドル。
「アロマキャンドルなの、可愛いでしょ。蒼くんの青と、あたしの赤」
「そうだね。美紅、そこ座って」
「うん」
正面に座った美紅の顔を見つめる。
深呼吸したのに、まだ胸の動悸が治まらない。
落ち着け、きっと運命の女神は味方してくれる。
「20歳おめでとう、これ、プレゼント」
俺はさっきチェストから出した紙包みを美紅に手渡した。
「わあ、ありがとう」
美紅が嬉しそうに言って、包みを開ける。中に入っているのは、掌に載るくらいの小さな箱。
「これ・・・」
美紅が箱を開ける。
「可愛い・・・」
言いながら美紅は愛おしそうに微笑んだ。
「指環、いいの?高かったでしょ」
「いや、半貴石だし、台もシルバーだから、そんなに高いもんじゃない」
プレゼントに選んだのはローズクォーツの指環、アクセサリーとしては安いほうだと思う。とはいっても俺にとっては半月分の食費だけど。
「すごくうれしい。このペンダントとお揃いでつけられるね」
そう、初めてのデートのときにプレゼントした、ローズクォーツのペンダント。それ以来デートのときはいつもつけてきてくれていて、今も美紅の胸元で揺れている。
愛の女神・アフロディーテの石と呼ばれていて、恋愛に効くパワーストーンだと、あとで美紅に聞いて知った。
「ねえ・・・」「あの・・・」
言葉がかぶってしまった。美紅と俺の間でこういうことは珍しい。お互いわりと相手の言葉を待つほうだから。
「蒼くんからどうぞ」
「いや、美紅から。レディーファーストで。バースディだし」
「じゃあ・・・」
美紅ははにかんだような表情で俺を見て、指環の入った箱を俺に手渡した。
「指環、嵌めてくれる?」
「え?」
驚いた・・・。
「どうかした?」
「あ、いや。今、俺“指環、嵌めさせて”って言おうと思ってたから」
「そうなんだ、よかった・・・。同じ気持ちで」
僅かに頬を染める美紅がとても可愛くて愛しい。
俺はケースから淡いピンク色をしたローズクォーツの指環を取り出した。
「じゃあ、左手、出して」
差し出された白い手。細い手首をそっと握る。
すんなりとした、形のよい美紅の5本の指。
どの指にこれを嵌めたいか、答えは決まっている。
まっすぐに心臓に繋がっていると信じられてきた、神聖な指。
意を決して、俺は美紅の薬指にそっと触れた。
そして、そのまま手にした指環をゆっくりと嵌めてゆく。心臓が破裂しそうに高鳴っていた。
愛の女神の石が嵌められた、美紅の薬指。
そこにそっとキスする、思いを込めて。
「美紅・・・」
美紅は無言でこちらを見つめる。
驚いているような、戸惑っているような表情だった。
「俺は美紅が好きだ、愛してる。この思いは一生変わらない」
「ほんとに・・・?」
美紅の声が小さく震えているのがわかった。
「神様の前で嘘はつけない」
本物の菩提樹ではないかもしれない。でも、美紅が生まれたこの日に神様の木がここにあって、俺たちはともに同じ時を過ごしている、これはきっと運命だ。
「結婚は美紅としたい、昼間そう思ったんだ。でも、言えなかった。そんなのまだ早すぎるって美紅に言われたし、断られるのが怖かった。だけど、神様の木の前で自分の気持ちを誤魔化すようなことはしたくない。確かにまだ早いかもしれない。美紅はまだ全然結婚なんて考えてないのかもしれない。でも、今言いたいのは俺の気持ちが・・・」
言い終わらないうちに、美紅が俺にしがみついてきた。
その体をしっかりと抱きとめる。
感じるぬくもり、決して離さない。
「昼間、ごめん。あたしも怖かったの・・・」
「怖い?何が?」
「蒼くんが結婚は、って言ったあとに、まだ全然考えてないって言うんじゃないかと思って。それがいやで自分で言ったの、まだ早すぎるって」
そうだったのか。
自分の気持ちは、わかる。だけど相手の気持ちは、はっきりと見えるわけじゃない。
本当は俺たちの気持ちに温度差なんかなかったんだ。
でも、お互いそのことに気づかなかった。
今、互いに自分の思いを口にするまで。
美紅の柔らかな頬に触れ、唇を重ねる。
互いの思いを重ねあわせるように。
やっと通じました。てか、蒼くんも気づいてなかったですね、美紅ちゃんの真意に。
ええ・・・
恥ずかしいですとも。




