プロローグ 着信音
ゆめいろ・バウム プロローグ 着信音
子供のころ、あたしは携帯電話が大嫌いだった。
あの小さな機械がありえないほどの大きな音で持ち主を呼ぶ。
そして、
持ち主が通話ボタンを押すと5分以内に持ち主はあたしの前からいなくなる。
お父さんのときもあるし、お母さんのときもある。
たまにだけど、時間差で両方いなくなることもあった。
9歳から19歳まで、あたしの誕生日に家族がそろったことはない。
それは、仕方のないことだ。
お父さんもお母さんも責任ある仕事をしてるんだ、そばにいて欲しいと思うのはあたしのわがままだ。
だって、あたしはお父さんがいないとすぐ死んでしまうわけでもない。
お母さんがいないからってすぐ自殺したくなるわけでもない。
でも、お父さんの患者さんや、お母さんの依頼人はそういう立場の人ばかりだ。
あたしは大丈夫。
健康だし、事件に巻き込まれているわけでもないし。
だけど。
おねえちゃんが留学していた17歳の誕生日。
たったひとりで食べたバースディケーキは、甘くてふわふわなのに、とっても味気なかった・・・。
携帯電話はあたしの好きな人を連れ去ってしまう、意地悪な機械。ずっとそう思ってきた。
でも、今は・・・。
着信音・・・。
お父さんのじゃない、お母さんのでもない。
あたしの携帯電話。
通話ボタンを押す。
流れてきたのは、あたしの大切な人の声。
「はい、蒼くん?」
“もしもし、美紅?もうすぐ駅に着く。電車乗って、あと15分くらいでそっちにいけると思う”
「うん、待ってる。一階のカフェテリアね、じゃあ・・・」
待ち合わせ場所について、アイスカフェラテを飲みながら彼を待つ。
と・・・
また携帯が鳴った。
「もしもし・・・」
“美紅?今ついた。すぐ行くから・・・”
「うん・・・」
もう、見えてるけど。
あたしに向かって駆けてくる、大好きな人。
子供のころ、あたしは携帯電話が大嫌いだった。
でも、今は嫌いじゃない、というより、好き。
だって、携帯はあたしの大好きな人を連れてきてくれるようになったから。
明日はあたしの20回目の誕生日。
“日付の変わる瞬間を二人で迎えよう”
そう言ってくれたのは・・・
あたしの
一番大切なひと・・・。
プロローグは美紅目線ですが、本編は蒼祐目線になります。




