新スタイルの試運転
入学して2週間が経ったが話す相手はいない。
ただ、授業のたびに先輩の宿題をこなす日々。
いや、別に魔法を学ぶために入っただけで友達を作りにきたわけでは…ない。
それにしてもまだ初めて間もないのに、かなり魔法を使用した際の魔力消費量が減った感覚がする。
やってみるとわかるが、魔力の総量が増えると魔力の消費が抑えられたように感じるんだな。
教室の扉が開かれる。先生が入ってくるのと同時にクラスは静寂に包まれる。
「今日は授業の前に1年戦闘学科のクラス対抗トーナメントについて話す」
トーナメント?初日に言っていたイベントとかいうやつか?
「これは、学園のイベントの一つである。その名の通り1年のクラス16組対抗のトーナメント形式の試合だ。1クラス3人のグループを作り戦う」
このクラス30人ぐらいいるが、この中から3人か。初日にゼクスに負けてるからなあいつは確実だとして俺は選ばれるか。
「候補として上がっているのはレイとゼクスの二人だ。残りのひと枠または、この二人を超える戦闘能力を見せつければ出場の枠は交代させる」
「イベントは2週間後だ。それまでに勝ち取るように。今日からは毎日実戦または自習だ。後、俺じゃなくても先生の許可がもらえれば休み時間や放課後でも施設の使用は可能だからな」
俺はこの席を狙われる側になるということか。狙われるならそれはそれで都合がいい。魔法を色々試すか。
「今日は、第2運動場へ行く。因みに今まで使っていたのは第一運動場だ」
「時間がもったいない早く移動するぞ」
第2運動場は森と平原の境にある。
ここならいろんな状況での戦い方ができるな。試せることが多そうで俺としてはかなり嬉しい所だな。
「じゃあ、戦いたい奴と組むように」
先生の指示が起きた瞬間にそれぞれ近くの者と組んで戦っている。俺やゼクスの元に来る奴はいない。
なぜだ?俺たちを倒すことが1番手っ取り早いと思うんだが…いや、空いてる席を取り合う方が可能性が高いと考えている?
まずいな。俺は新しいスタイルの戦い方は考えているが試していない。何とかして誰かと組まなければ。濡れた犬が水滴を振り落とすように早く首を動かして周りを見渡すがもうゼクスぐらいしか残っていない。しょうがない不本意だが、あいつと戦うしかないか。
「あ、あの〜、戦いませんか?」
サラが後ろから声をかけてきた。
声をかけられるまで気づかなかった。足音もしていなかった。
「私なんかじゃ役不足ですよね…すみません〜」
いや、すぐに凹みすぎな気がするが…だが、俺としてはかなり嬉しい提案だ。
「いや、役不足じゃない。ぜひ戦ってくれるか?」
「よかったですぅ〜」
オーバーな反応を見せるなこいつ。
始める前に先生の元へ行く。先生に戦闘をすることを伝えるとリストバンドを渡される。
「それは試験の時に使ったものと一緒だ。それをつけて戦えよ。あと、勝ち負けは報告しに来るように」
先生に報告も終えた。あとは、当人同士で始めるだけ…
「さぁ、始めるか」
「はいぃ〜」
「じゃあ、スタート」
俺の掛け声と同時に土で作った槍を何本か撃ち出してくる。
槍は風を切り裂くような音を出しながらこちらへ向かってくる。
当たれば重傷は確実。だが、気をつけていれば当たることはないだろう。それより初見殺しできたり絡めてを使ってくるイメージだったが…。
シンプルだな。だが、数は少なく曲がるわけではない。
「まだまだですぅ〜」
1.2.3…同時に出せる本数は3本。当たると特殊効果はあるのか?
今はまだ変な軌道で向かってくることもないため少し余裕を持って避けながら相手の魔法を予想する。
「ん?」
速度が上がった?
さっきまでの風の切り裂かれた音が大きくなり迫ってくる。
これは、避けきれないことはないがギリギリだな。なら少し魔法で防ぐか。
「六花」
授業中に常時使っている魔法。今回は物理ではなく魔法の耐性をつけている。
槍の軌道が変化する。蛇のように俺の首元へ迫る。
六花で防ぐ。槍の先端は青白く凍りその場に落ちる。
「あ…」
少し魔法を使うのを渋ってれば負けていたかもな。
サラは2つ変化を起こすことで1回目の変化を囮にしていた。
これは確実に相手を獲物として見て狩りに来ている動きだ。
久しぶりの緊張感。額に汗が浮かぶ。枠を狙われている以上負けられないというプレッシャーか?いや、間違いなくこの戦いの緊張感がそうさせている。相手を正しく認識しろ。
「少し気を引き締めるか」
気が弱いという認識は捨てろ。こいつは論理的に俺を倒そうと策を組み立てている。
まず俺の射程距離3mに入る。俺の範囲内では制約から考えて俺の魔法の方が強いはずだ。
馬鹿正直に突っ込むつもりはない。
六花を足場にして近づく。
「流石に土属性にそのまま近づくのは危険だからな」
だんだんと距離が近づいてくる。あと少し、射程距離に入る…!
…おかしい、何で何もしてこない?
いや、もう射程距離に入る。
入った!
瞬時に氷塊を作り撃ち出す。
「ふえぇ〜」
全て受け流してサラは逆に近づいてきた。
「言動と行動が会わなすぎだろ」
「すみませ〜ん」
半泣きな様子で距離を詰める姿に、拍子抜けしてしまう。
その瞬間サラの拳が俺の顔面に向けられ発射されていた。
「っぶね」
ギリギリで避けられたか?いや、掠ってる。体術が強いのか?なら俺も同じ土俵でやってやる。
六花をグローブ上になるように腕付近に並べる。
息を吐きながら近づいていく。だんだん視界の端は消えていきサラだけが映る。
どんな動きも見逃すな確実に勝て。
あれ?視界が傾いた?
毒か?いや違う。地面の形を変えて傾けたのか!
耐性を崩したところを容赦なく攻撃してくる。
六花で防ぐが、拳のキレが凄い。ナイフを持った相手と戦っているような体術が危険だと脳が判断していく。
六花がなければ何発かくらっているな。
サラは地形の変化を更にしてくるが、氷で足場を作り隙を作らずに反撃を始める。
殴り、蹴り、氷塊。全てで攻撃しているが…
手応えがほとんどない。紙か鳥の羽を殴っているような感覚。ダメージを与えているイメージが湧かない。
だが、やっぱりわかることがある。永遠の制約がある。俺の方が魔法の性能は高い。
ここからは魔法を攻撃に向けて対処できなくなるまで攻撃を続ける。
想定通り絶え間なく攻撃を浴びせ守りに集中させる。
これで一方的に攻撃でき——
「何で今魔法を使わなかったと思います?」
何だ?急に、
「制約と能力をきめていたからなんですぅ」
この状況で能力を作ったのか?一旦距離を取るか?いや、今は攻め続ける。
「関係ないここで終わらせる」
「本当ですかぁ?私の魔法の地面の上で?」
土魔法、地面…下!
何も…ない?
瞬間、俺の喉に抜き手が入る。
息が…できない。六花が音もなく崩れ去る。
「すみませぇん騙してしまって」
まじか、本気で謝ってる。呼吸困難、体術での反撃は無理。ここから新たに魔法を作り出すことも不可能…だと思ってるだろ。
「っは!…言っただろ。ここで決めると」
サラを掴みよかられないようにする。それから、上に作った氷柱を落とす。
そもそも俺の制約があれば多少時間をかければ、攻撃力の高い魔法での攻撃は可能だ。
その瞬間サラは半泣きの顔が一瞬沈み…あとは隠れて見ることができなかった。
「うぅ〜負けましたぁ」
「いや、凄く強かったぞ」
実際体術の受け流しの技術は、俺よりも遥かに上だ。
今回の勝敗の差は確実に魔法の差だった。体術も技術自体は俺の方が上だが、当て感で見れば負けている。
それに最後のブラフ…完全に騙された。少しでも早かったら負けていたかもしれない。
この戦いは結構な運要素もあったな。
「クソッ油断した」
いや、油断はしていない真剣に相手を見ていた。だからこそブラフにかかった。サラは俺が周りを気にしながら戦っていたらまた違った戦い方をしていたと思う。観察眼が優れているのか?
どう育てばあんな性格にあのスペックが付くのか想像がつかない。いや、それとも逆か?
最後怯えていたような…気がした。




