トーナメント準備
正直この1週間は疲労が溜まる一方だった。
トーナメントに参加しようとクラスメイトは朝昼晩いろんな人が勝負を仕掛けてきた。放課後も帰るのは常に日が落ちた頃、寮に戻ると力尽きるようにベッドに吸い込まれる毎日。
そして今日、トーナメントの出場選手とトーナメントの組分けが出る。
やっとこの大変な日常が終わる。そう思うと昨日までと比べて羽のように軽い。
教室の前に立ちゆっくりドアを開けて席に着く。いつもなら、至る所で会話が飛び交っているが今日は静かだ。
張り詰めた空気が満ちている。
やっぱ戦闘学科ってだけあって選ばれたいんだよな。だから俺に勝負を仕掛けてくる人が多かったわけだしな。
先生が、扉を開けて教壇へ歩く。
たった数秒の時間が一歩一歩長く感じる。歩みを刻む程、空気は緊迫してくる。
「では、1週間後のトーナメントに出場する選手と最初にぶつかる相手を教える」
「まず出場する選手を言う。レイ、ゼクスそしてサラの3人だ」
この言葉にさまざまなところでショックな反応や悔しそうな反応が見える。
生徒がざわつき、止まらなくなった。
そんな中サラの表情は喜びと驚きが入り混じったようで、指を絡めてソワソワとしている。
確かに1番戦っていて強いと感じたからな。
「先生、レイさんは昨日から負けなしでしたしわかります。ゼクスさんもかなりの勝率でしたし納得できました。しかしサラさんはなぜ選ばれたのか分かりません。もっといい戦績の人はいます。どうしてサラさんが選ばれたのか理由をお聞かせください」
この言葉に納得して同じ疑問を持って先生を見つめる視線が増える。静かにはなったが、納得しない人数が増えたように見える。
誰もサラに視線を向けてはいなかった。しかし、サラの表情はさっきとは違い、怯えているようで目には少し涙を浮かべている。
「実力で上位3人を選んだ」
「え?いや、だから他の人の方が戦績が高かったりするでしょう?」
「いつ、私が戦績のみで決めると言った?確かに最初他のクラスメイトの能力を観察して後から戦いを増やして戦績を良くしたものもいる。だがその勝利は実力か?実力だとしてもそれが通じると思うのか?」
「はい、だって僕たちも落ちこぼれってわけじゃない。ちゃんと対策を練って戦った僕達の方が戦えます!」
言いたいことはわかる。俺もよく準備する方だ。いや、俺は戦うための能力を想像する準備だが、クラスのみんなは対策。意外と違うものか。
「レイに歯が立たなかっただろう?しかしサラは何の情報もなしに戦えていたぞ」
「そ、それは…」
「勘違いしているようだから少し教えてやろう。戦闘学科で求められるのはそのような準備され尽くした戦いだけではない。むしろ、知らない相手に対してどう立ち回るか。これを見ている」
「え?」
「当たり前だろう?俺たちが戦うのは魔物だけではない魔法使いとも戦う。そんな時相手の情報をお前は持っているか?他にも異常事態で仲間が危険に晒された時誰が助ける?お前ら戦闘系の魔法使いだろう。その時その状況は予測していたものとは違っていて当たり前だ」
少し、先生が怒っているように見える。いや、こちらの戦いについての認識の甘さを注意してるのか…教師として。
言葉こそ淡々としていたが、先生の空気感や言葉の重さによってクラスは再び完全に静まり返る。
「では話を続ける。初戦の相手は7組だ。どこのクラスも学年のトップレベルの生徒が出るから弱いなんてことはない。出場選手は廊下に張り出されるので自分たちで調べるように。そして最後に、このトーナメントで優勝自他クラスには全員の成績にこの功績が加えられる。要するにいい成績になるってことだ。成績が一定以上無ければ参加できないイベントもある。クラスで協力してトーナメントに備えることを勧める」
なるほど——これは、ただの個人戦じゃないな。
この結果はクラス全員の今後に直結する。
休み時間。廊下にはいろんなクラスが集まり、お祭り状態…というよりはライブの最前線のような移動できないぐらい人口密度が高い。
クッソ全然7組の選手が載っているところまで行けない。
「何でこんな一箇所だけしか貼ってないんだよ」
愚痴をこぼしながらも近づこうとしてみる。しかしなかなか近づくことができない。そんな中、一人の男子生徒が歩いてくる。
「どけ」
その一言で廊下の真ん中から生徒が減る。その拍子に相手の7組代表の生徒を確認できた俺は教室へ戻ることにした。
あの生徒変な感じがしたな。できるだけ関わりたくないような感じだった。初戦の7組の生徒では無さそうだが、後々勝ち進めば当たりそうだな。
扉に手をかけると中から何か聞こえてくる。
ゆっくりとドアを開けると、
「さっきはごめん」
さっき先生に意義を申し立てた生徒がサラに謝っている。声が大きかったため外にも聞こえていた。
「いえ、別にいいですよぉ…」
「本当にさっきのは実力で出場権を勝ち取った君に失礼な言動だったと思ってる」
「本当に大丈夫ですぅ」
謝れることに慣れていないようで少し困りながら返答する。確かに、サラは俺と同じであまり人と関わるタイプでは無さそうだししょうがないのかもしれないな。
「ありがとう。これから君たちのサポートをクラスでやろうと思う」
「あ、ありがとうございます…」
こう見ると結構さっぱりしているな。全員が上にいこうと思っている。だからこそ気持ちの切り替えが早いんだろうな。
関わらなかったから知らなかった。このクラスの空気感やクラスメイトの性格。
もっと知ってみて一緒に上を目指したい。
そう思うと、さっきまでより教室が輝いて見えた。
だが、この空気に浸っている時間はない。できるだけ早く作戦会議を始めないといけない。
小走りにサラに近づく。
さっき手に入れた情報を共有しないとな。
「サラ、ちょっといいか?ゼクスも最初の対戦相手について話すからこっち来てくれ」
二人だけでなくクラスメイトも少し集まってくる。
少し緊張してしまうが構わず話し始める。
「7組代表は、グレン、ヴァイド、ザインっていう名前で炎系電気系水系の3人だ」
「と言ってもこれ以上の情報はないから属性に対しての対策を考えようと思う」
このまま話を続けようと試みるが、さらに謝っていた人に止められる。
「ちょっといいか?」
「何だ?えーっと…」
そういえばこいつの名前って何だ?
「俺の名前はラグナだ」
「少し提案したいんだが出場しない生徒のうちの何人かで相手の戦い方を調べないか?」
確かにできればそれに越したことはないが…
「できるのか?」
「あぁ、だってお前らも本番まで練習するだろ?それなら他のクラスも練習するはずだ。それにただ話し合うだけなら1週間も時間取らないと思う。後、先生が自分達で調べろって言ってたから」
「なるほど。じゃあお願いしたい」
俺はそこまで頭が回らなかったな。さっきからクラスで戦うということがどういうことか思い知らされている感じがする。
俺はまだまだだな。
「じゃあ何を話し合うか…」
「じゃあ僕から話をしようと思う」
ゼクスが手を挙げて話し始める。
「当たり前のことだからみんな忘れがちな属性の特徴を話しながら相手を考察しよう」
「まず相手の属性は炎、電気、水の3つの属性。全て広範囲に攻撃ができる属性で特に炎なんかは遠距離からの範囲攻撃が多いイメージだね。対してこちらは水、氷、土の属性。氷や土は守りこそ卓越した属性だけど範囲攻撃を出すには制約を他の3つより多くつけなければならない。そしてレイ君やサラさんは前戦ってたのを見ても分かる通り近射程での戦いが得意。つまり最初の戦いは二人はいかに相手の攻撃を対処して近づくかが鍵になるわけだね」
それはすぐに思いつくものではないだろうな。相手の戦い方次第でも使う能力は変わるだろうしな。
「それと使う能力も出来るだけ少なくしておいたほうがいい。2人とも大体どれぐらい能力を持ってる?」
「俺は10個ぐらいだ。だが、基本は誰でも思いつく使い方が多い」
「それは僕もそうだな。基本の使い方を軸に初見殺しの能力を考えてるし。 サラさんは?」
なぜかサラは困惑した顔を向けている。今の会話に変なところはなかったともうが…
申し訳なさそうにして口を開く。
「えーと…能力って?」
ん?質問の意図がよくわからない。
「属性はわかるんですけど能力の数とかってよくわからなくて…」
質問の意図を理解した ゼクスが説明しながら話し始める。
「能力は制約と効果を用いて作った魔法のことを主に指すんだよ。人によって技とかテンプレとか読んでる人もいるね。制約や効果は曖昧だと効果がなく具体的なものでなくてはならない。だから、元から制約と効果を決めたものを何個か暗記してそれを切り替えて戦うのが普通なんだ。サラさんもそうでしょ?」
「私は基本単純な能力はその時に考えて使ってるんですけど…」
え?単純な能力でも普通はできない。かなり魔法を極めた人でできるぐらいだ。これは——
「それは…かなり普通じゃないというか逸脱しているというか…」
クラスメイトはお互いできるか聞き合い、できないと報告しあっている。全員が動揺しているのは一目でわかるぐらいだった。
「よくないことなんですかぁ…」
涙目になって見つめてくる。だが…本当にありえないことだ。地面から氷を生み出そうとしても形、強度、大きさ、さまざまな効果に加え制約も同じ内容でもその人次第で変わる。俺は常時射程距離3mという制約を受けているが、戦闘中に効果を瞬時に決めることは不可能だ。
まだ話しててもいいが…
「とりあえず、一旦話し合いはここまでにして今日は休もう」
こうして、話し合いは終わる。そして…1週間後初戦が始まる。




