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08 王都にて(ウルフレッド)

「いいね、彼」


 屋敷から帰っていく馬車を見送りながら言うと、後ろに立つ執事がちょっと嫌な顔をする。


「気に入らないのかい?」


「、、、ガルスは遠いですから」


「ふむ、近くと言う選択肢もあるが、まぁ、こればかりはね

 しかし、こんなに早く候補が増えるとは思わなかったよ、さすがメリッサの娘だ」


 彼は最愛の妻にそっくりな娘が、エルメニア一の娘だと思っている。

 魔力など持っていなくても、多少お転婆な娘であっても。


「もう少し、裁縫の腕は上達して頂きたいですが」

「それは得意な者がすればいい」


 フランツは厳しいが、彼は相手にしない。


「さて、カシム様はどうなるかな?」

「お嬢様の魅力は、お側にいなければ判りません」

「園遊会で少し話した程度では、ダメかな。僕はメリッサを一目見た時から恋に落ちたけどね」


「王子は、旦那様ではありませんから」

「見る目が無いなぁ。仕方ない、もう一度、王宮に連れて行くかな」

「王子が本気で望んだらどうされるのです?」


 そうなるだろうとフランツが心配する。


「リディアは、后妃に向いていないかな?」

「后妃としての生活を、楽しまれるとは思いませんが」

「そうかも知れないね。だが、どちらにしても決めるのは、彼女さ」


「ガルスの(かた)はどうなさるのです」

「どうもしないよ」

「一年の保証をなさいました」

「大丈夫さ、カシム様が一度や二度会ったくらいでリディアの心を掴めるものか。

 それに王宮には彼もいる。どう動くか見てみたいね」


「あまり意地悪な事をされるとお嬢様に嫌われますよ」

「それは嫌だなぁ」


 フランツと話しながら、リディアの部屋に殿下が届けてくれた物を持って行く。


「リディア、殿下がこちらを届けて下さったよ」

「まぁ、ありがとうございます。殿下はお帰りになったのですか?」


「おやっ、お会いしたかったかい?」


 少し残念そうな顔をするので聞いてみるが、それ程でも無いように見える。


 こういった事に鈍いのも妻に似ているのだろうか。

 一目で恋に落ち、その場で結婚を申し込んだ。

 それから一年、彼女が承諾してくれるまで、緑樹院に通った事を思い出す。


 その妻の娘をそう簡単に奪われるのも面白くない。


「リディア」

「なんですか、お父さま」

「明日、王宮に顔をだす。お前も一緒に行こうと思っているからね。そのつもりでいなさい」

「わかりましたわ」


 婚約する相手に会う事になると判っているからか、少し嫌そうにリディアが答える。


 カシム王子をよく思っていないのか、王宮の貴族たちが面倒なのか、おそらく後者だろうが、少しは慣れてもらう必要もある。


「そんな顔をするものでは無いよ。明日は薬草園にも行ってみるといい、見てみたいと言っていただろう?」


「まぁ、行ってみたいです。薬師たちとお話しする事もできますか?」


 薬草園の話をすると途端に元気になる。


「そうだな、相手をしてくれるよう伝えておこう。」


 許可をだしながら、どうやら自分が一番娘に甘いようだなと、嬉しそうする娘を見ながら考える。


 自分にとって、妻と同様、愛おしい娘だが、自分が彼女を守り続ける事は出来ない。


 いずれは彼女を誰かに預けなくてはならないのなら、リディアを愛おしいと思うだけでなく、すべてを捨ててでも彼女を守るような相手でなくては、彼女を任せる事など出来ない。


 そういう意味でザイード殿下は意外だった。

 獣人は強い、番と呼ばれる相手に対する執着も強い。


 だが、殆ど本能で選ぶ相手にリディアが選ばれると予測する事は難しい。

 彼が娘を番に望んでいるのは、嬉しい誤算だった。


 しかし、フランツが言う通りガルスは遠く、人が暮らすには厳しい地方だ。

 おまけに獣人との間の子どもは、半人になる可能性が高い。

 娘がそれらを気にするとは思えないが、寿命の違う彼らとの間に生まれる感情が対等である保証もない。

 リディアが彼を選べば、辛い思いをする可能性は高い。


 王都の社交界はまだ続いているが、そろそろ娘を領地に戻しても良い頃だ、いつかは手放す覚悟をしている娘だが、そう簡単に渡すつもりは無い。


 娘を欲するなら、相応の覚悟が必要だと彼等にはしっかり知って貰わなくてはならない。


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