15 ザイード
久しぶりに顔を見る。
意識が戻ってから、彼は私から離れてしまい、明らかに距離を取っていた。
その理由が判っていても、少し腹立たしいので殊更丁寧に話す。
「ありがとうございます、ザイード様。助けて頂いたと、ジャルドやロニから聞きました」
「体調は?」
「大丈夫です。もう毒は残っていないそうですし、後は体力が戻るのを待つだけです」
しばらく私の中に彼の魔力が残っていたので、彼は知っていると思うが言葉で伝えておく。
「うん」
「もういらっしゃらないかと思っていました」
「うん」
近づいてくると、愛おしいと言うように、そっと頬に指が触れる。
「私が側にいるのは嫌ですか?」
「嫌なわけがない、だが、いつか貴方はいなくなる」
「ザイード様、私には貴方が抱える不安を取り除いてあげる事はできません。
それでも一緒にいる間は、幸せにしたいと思っていますし、幸せになりたいとも思っています。
それだけではダメですか?」
「そうだな、、、そなたを離したく無いのだから仕方がない」
それが全てだった。
彼が私を諦められないのなら、私も離れるつもりはない。
「ザイード」
自分に触れていた指に手を重ね微笑むと、その手で抱きしめられた。
「愛している、リディア」
「ふふっ」
リディアが嬉しそうにこちらを向いて笑っている。
「どうした」
「ザイード様が大切に思って下さるのは分っていましたけど、言葉にして下さるのは初めてです。
思っていた以上に嬉しいものなのですね」
「そう思っているのなら、私にも言って欲しいな」
両手を広げ、少し困ったような顔をするので、首に両手を回して耳元で伝える。
「私も愛しています、ザイード」
そのままぎゅっと抱きしめられた、けっして離さないというように。
やっと腕の中から解放したかと思うと、今度は抱き上げられ、ガゼボに連れて行かれる。
日差しが強くなって来たからかと思えば、そのまま彼の膝の上に座らされ、額や頬に彼の唇が触れてくる。
愛おしくて仕方ないと言うように。
「私といる事で、辛い思いをするぞ」
「私が人だからですか?」
「そうだ」
「気になりますか?」
「リディアが辛いのは嫌だ」
「どこにいても辛いことはありますわ、傷つくことも。現に、安全だと思っていた場所で大変な目に合いましたし」
「解っている。だが、ここに居れば考えられない事だ」
「辛いことや大変な事があっても、それ以上に楽しい事や嬉しい事があれば良いのです」
「そうかも知れないが」
「では、辛いことがあった時は、ザイード様が慰めて下さい」
「私が?」
「はい」
「私にできる事など」
「こうして抱きしめて下されば良いのですわ」
「そんな事で良いのか?」
「ザイード様しか出来ない事です。もちろん嫌だと言うなら他の方に、、、」
「それはダメだ」
「ふふっ」
甘える様に彼に身を預けると、そっと抱きしめて髪を撫でてくれる。
「これで良いのか?」
「はい」
この時から、こうして甘えると彼が必ずそっと抱きしめてくれる様になった。
彼の指が唇にふれたかと思うと、今度は唇が重なる。
軽く、そっと、、、そして、また額にとふれては、困ったように笑う。
彼が魔力を与えてくれていたのは聞いているが、意識のない間なので、私には初めてのことだった。
ぼんやりと彼の腕の中で彼の唇に指をふれ、唇が重なった時のことを考えていると、
唸るような声が聞こえて、また唇が重なる。
先程とは違い、もっと強く。
愛しいものがこうして腕の中にいる。
嬉しいはずなのに、今度は気持ちが先走らないよう抑えなくてはならない。
気持ちが通じたので、獣人としての所有欲や独占欲が出てきて、だんだん抑えが効かなくなっている。
本来、こうした二人だけの時間を持つことは、今の自分には許されていない。
これ以上、約定に沿わぬことをするわけにはいかない。
「だめだ、貴方は体調も戻っていない、それに、まず伯にお許しを頂かないと」
ザイード様の言葉で少し冷静になる。
カシム様との婚約が解消されたとは言え、ザイード様と何か決まっている訳ではない。
ロニは気を使って離れてくれているが、ここは屋敷の庭園で人目もある。
自分が何をしていたのか考えると、顔から火が出るくらい恥ずかしい




