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05 温室 - リディア

「これは何ですか?」


 ザイード様がマテの粉を不思議そうに見ている。

 砂糖より少し茶色のマテの粉は、ウエストリアでは一般的な甘味料だが、王都では殆ど使われていない。


「それはマテの実から作った粉です。ウエストリアでは、砂糖の代わりにこれを良く使います」

「マテと言うのは、最近、王都で飲まれる様になったお茶の事ですか?」


「知っていらっしゃるのですか?」

「白いお茶だと噂に聞いています」


「白茶の茶葉は、マテの新芽を使っていて、セレスティナが作ったお茶なんですよ」

「それは凄いな」


「本当に偶然なんです。昔からリディアは色々な物をここに持込んでいて、たまたまお茶が出来ただけなんです」

「セレスティナったら。私は、いつも厄介事をここに持込んでいるだけ。それを形にしているのは、あなたでしょう?」


「そうかもしれないけれど」

「本当に自分のことを知らないのだから。セレスティナのおかげでマテの葉を処分する問題が解決しそうだわ」


「問題だったのですか?」

「マテの精製技術が上がって、ウエストリアとしては、今までの様に家庭で使うだけでなく、商品として扱いたいの、只、マテの葉や茎は燃えやすいので実と一緒に刈入れるのだけど、燃やすと甘い匂いがするの」


「匂いですか?」

「ええ、それはもう。茎は良いのよ、でも葉っぱがね。埋めるにしても大変だし、何か他に使えないかと思ってセレスティナにお願いしたの」


「びっくりしたわ。いきなり紅茶に出来ない?って、マテの葉を持ってくるんだもの」


「ちょっとニルギリの葉に似ているかと思って、紅茶の茶葉に使えたらと思ったけど、白茶が出来るとは思いもしなかったわ」


「でも殆どは、紅茶にしかならないわ」

「そこからは私の仕事だもの、大丈夫よ」


 ウエストリアが新しいお茶を作ったと王都で噂になっていたのは知っている。


 白茶と呼ばれるお茶は、王都で流通しているようだが、どうやら紅茶はそうではないらしい。

 気にはなるが余り踏み込んで聞くのも失礼にあたるかと考えていると、リディアとセレスティナ嬢が二人で話を続けている。


「ウルグさまの所に行きたいのだけど、何か良いお茶はないかしら?」

「それならマテの白茶を持って行くといいわ。本当はあなたに用意したのだけど、今日は他のお客様がいたから」


「ありがとう、それならウルグさまもきっと気に入ってくれるわね」

「噂のお茶ですか? それは興味があるな」


 ザイード様が聞いてくる、何にでも興味を持ち、知ろうとするのはこの人の性格だと思う。

 それはとても好ましい。


「ちょっと待っていてね、茶葉を持ってくるから」


 セレスティナが席を立つと、隣に座っていた、サイラス様が手を差し出しエスコートしようとする。


「まだ怖いですか?」


 セレスティナも少し戸惑った様子を見せるが、情けない顔をされると笑ってそれを許すしかない。


 なんだかちょっと驚く。


 彼とは、王都でも何度か会ったが、自分たちにそれほど興味を持っているように見えなかった。

 あくまで殿下の護衛として居るだけで、この国に対しても、人に対しても一定の距離を取って対応していた。


 それ故、安心してもいたが、今日は全く違って見える。


 おまけに、茶葉を持って帰ってくる間に、彼は温室に残って、ここの案内をして貰う事になっている。


「サイラス、それはだめだ」


 さすがに未婚の女性と二人で残す訳に行かないので、ザイード様も話すが、


「大丈夫です、温室の中だけの事だし、少しお話を聞くだけなので」


 どうやらガルスに育つ植物の話や、ウエストリアとの違いなどをセレスティナに話した様で、セレスティナ本人が全く気にしていない。


「僕がこちらに残っているよ」

「あなたが?」


「どうやらサイラス様をセレスティナ様から離す事は難しそうだし、セレスティナ様を植物から引き離す事は、もっと難しい。ここで待っているから」


 アルフレッドが居てくれるなら問題ないと思うので、彼にまかせてウルグさまの家に向かう。

 弟がリディアと離れる事をこれ程簡単に承諾するなんて珍しい。


『アルフレッド殿には、申し訳ない事をした』とザイード様は気にしているが、自分の弟がそれほど可愛らしい性格だとも思っていない。


 上手く逃げたわね。と思う。

 ウルグさまは、無類の甘党だ。


 “マテ”の白茶は、甘い香りがする。

 普通はそのままで香りを楽しみながら飲むが、ウルグさまはそれに“マテ”の粉を入れて飲む。


 これから行く場所は、ザイード様にとって試練の場所になるに違いない。


『先に言っておくべき?』と悩んでいる間にウルグさまの研究室に着く。


 始めは不機嫌だったウルグさまも、白茶を渡すとご機嫌で席に着く。


 どうやらウルグさまは、ザイード様の事が気に入った様に見える。

 魔鉱石の色の違いや硬さ、大きさなどについて実績のある事からない事まで話していて、その間、マテ粉を入れた甘いお茶を作ってはザイード様に勧めている。


 そろそろこの場所を離れた方が良さそうな気がする。

 いくら獣人が強いと言っても、このウルグ様からの攻撃には歯が立たない。


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