03 舞踏会(2)
舞踏会で踊る人々を見ながら彼女を腕の中に入れて踊るのは、どんな気持ちだろうと考える。
ガルスにこの様な文化は無い。
エルメニアに来て、学びはしたが好んで踊る事はないし、踊っても未婚の女性とは踊らない。
獣人が未婚の女性と踊るという事は、自分の番だと宣言しているのとほとんど同じ意味を持つ。
先程も今も、他人の腕の中で踊る彼女を見て沸き起こる自分の感情を持て余す。
今日がどんな日か判っていた。
なぜ、わざわざこんな場所に来たのか考えていると、パートナーを父親に交代して踊っていた彼女が、彼に連れられてこちらにやって来る。
「殿下、娘の事は覚えているかな?」
もちろんと言うように彼女に視線を向けて挨拶を交わす。
「こんばんは、リディア嬢」
「こんばんは、ザイード殿下」
「久々に踊ると疲れるね。リディアはここにいてくれるかな? ちょっと飲み物でも取ってこよう」
父親は、彼女を壁の方に立たせると離れて行く。
残れと言われたという事は、自分の相手をしなさいという意味なので彼女が少し困った顔をする。
「お相手をさせて申しわけない」
「いいえ、機会があって良かったです。昨年届けて頂いた魔鉱石が、お支払いしたもので良かったのか気になっていたのです」
「今、付けているものですね?」
失礼にならない程度に視線を下ろして、胸元を飾っているネックレスを指す。
あの時の石は美しい細工のネックレスになっている。
魔道具ではあるが、どちらかと言えば飾りを意識して作られているように見える。
「叔父がとても良い石だと、無理なお願いしたのでは無いかと心配していました」
「大丈夫です。良くお似合いだ」
「ありがとうございます」
そう言うと、ほんのり頬を染めながら話を続ける。
「ウエストリアにいらっしゃるのでしたね。是非、寒くなる前にいらっしゃって下さいね、ウエストリアは、その頃が本当に美しいの」
自分が行く事を歓迎してくれているのかと一瞬期待するが、単にウエストリア領に興味を持った事が嬉しいらしい。
ウエストリアの森や森人の話、収穫祭の事など楽しそうに話している。
麦畑が金色に染まるのが綺麗だと伝えると、殿下が楽しみだと答える。
「ガルスの国では麦を育てていないのですか?」
「そうですね。平地の少ない土地なので。以前お話したかと思いますが、麦の代わりに"レテ"を育てています。
「"トルテ"と言う料理に使うのでしたね。ザイード様に教えて頂いてから、どんな料理なのか食べてみたくて、調べたりしたのですよ」
「獣人街の方には行かれていない?」
「はい、食事に意味があるのだから行ってはいけないと」
「それなら良かった」
「どういう意味があるのか聞いてもよろしいですか?」
「獣人の食事には、求愛の意味があります」
「食事をする事が求愛になるのですか?」と首を傾ける。
まっすぐにこちらの目を見て話しをする様子は、獣人にはないものでドキドキさせられる。
「私たちは、番にと望んだ相手に”トルテ”を作って食べさせます。
相手がそれを食べれば、番に選んでもらえる可能性ができ、その相手が作った”トルテ”を食べれば、番になるのを受け入れて貰えたと考えます」
「私たちが婚約するようなものですか?」
「と言うよりも結婚を了承したという意味になります。自分が作った物を受け入れて貰えれば、その時点で婚約したのと同じ意味がありますので」
と持っていた甘い物が乗った小皿を彼女に渡しながら答える。
「まぁ、知りませんでした」
「ですから私がお渡ししたものも、安易にお召し上がりにならないように」と少し意地悪をする。
「これは”トルテ”ではありませんよね?」既に1つ口の中にいれた小皿を見ながら困った様子を見せる。
「はい、ですが自分の渡した物を受け入れて貰えたと考える者もいますので」と伝えるが、こちらが笑っていると冗談に気が付き、彼女も安心した顔をする。
こうして距離を保ちながら自分が何を考えているのか知れば、彼女はすぐに逃げ出してしまうだろう。
彼女を腕の中に入れ、食事をし、触れ合うのはどんな感じだろうと体が勝手に熱くなりかけるが
「姉さま、、、」と言う声で冷静になる。
少しはなれた所から金髪の少年がこちらにやって来るのが見える。
彼女の左手首が、またうっすらと赤く光っている所をみるとこのせいかと納得させられる。
この弟は、なかなか手強い。
彼女は全く気が付いていないが、今までもこうして彼女に近づく者たちを牽制していたに違いない、そしてどうやら今は、自分がその対象になっている。




