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α(アルバ)・第六版  作者: hachikun
14/15

後始末

今回はとても短いです。他の話に混ぜられなかった部分なので。

 さて。

 こうして事件はひと通りの終息を迎えたのだが、地球側の被害は惨憺(さんたん)たるものになっていた。

 まず高知県中央部、高知市平野の中央部が消滅。衝撃波や熱波などの被害だけに限るなら、影響は高知県の太平洋沿岸部全域に及んでいた。

 死亡者は約39万人で、その大部分は高知市民。ただし中心部で蒸発してしまった地球外の人間たちは含まないから、実際はもう少し多い可能性もあった。また、県庁所在地がほぼ消滅した事により高知県としての行政機能が完全停止。直接被害の無かった西部の幡多(はた)地方、および紀伊水道沿岸や内陸地域もこれらの影響を当然受けた。

 また、事件発生後に高知市付近を襲った、謎の津波による被害も小さくない。

 現場の状況を証言できる生存者が皆無だった事から、ピンポイントで高知市付近のみを襲ったこの津波については後年まで学者たちの議論の的になった。現場付近の温度や気圧が尋常でない変動を起こした事も明らかになっていたが、その変動が核兵器の直撃でもこれほどは、と言われるレベルだった事から、何か正体不明の宇宙空間からの飛来物が高知市内に落下・爆発し、それが被害をもたらしたのではないかという意見が多数派を占める事になった。

 もちろん通常なら、この手の意見はトンデモ扱いをされるのであろう。

 ところが今回は、彼らの説を裏付けるデータが存在した。そう、日本上空に降下をしかけていた宇宙船ソクラスのものだ。

 実は、ソクラスの一計によってソクラスには軽い探知偽装がかけられていた。それはソクラスの船名や容姿をわからないようにぼかしていたものの、明らかに地球外のものである事までは隠しておらず、むしろ地球圏の各国のセンサーや機材には、もろにその情報が拾われてしまっていた。

 

 外宇宙に、地球を滅ぼせるようなオーバーテクノロジーの世界が存在する。

 しかもそれが机上の空論でなく、実際に被害が出た。

 

 この事実は地球史を変えるほどではなかった。しかし少なくとも、大きな政変の原因にはなった。

 ベルリンの壁破壊、そして東西冷戦の終結へ。

 世界平和が来たわけではない。相変わらず諸国は牽制しあい、つばぜり合いを繰り返しつつも、その中にはひっそりと、別の視線も加わる事になった。

 そう。

 宇宙文明が実在し、そしてそれが、決して平和的でない来訪を行う事があるという事実。

 その情報は一般に公開される事こそなかったが、全世界の政治層の中には、絵空事ではない事実として、ハッキリと刻まれたのだった。

 

 

 さて。

 ワールドレベルの問題とは別に、大被害を受けてしまった高知市付近はどうなったのだろうか?

 日本国内では、高知県の事件は謎の天災として大々的に報じられた。未曾有の天災により高知県中心部が完全に孤立化している事も伝えられたが、現在、最低限のライフラインを通す復旧作業をしているので、当面は近寄らないようにという報道が繰り返された。

 もちろん、それだけでは世論が黙っているわけがないのだが……なぜか騒ぐ声は少なかった。

 当時はネットなど存在しなかったのだが、日本国内に、ひとつの噂が広がっていたのである。

 

『高知県破壊の原因は、友好のために密かに来日していた宇宙人を殺そうとした者たちのしわざである』

『今、高知県は、その宇宙の国の者たちと日米の合同で急ピッチの復興作業を続けているが、何しろ宇宙人が大量に働いているので、一般人にお見せできない状況である』

 

 まぁ流言飛語の類であり専門家には一笑に付されたのだけど、おそろしい事にかなりの部分が事実だった。

 実際のところ、当時の日本は黒字から赤字に国自体の経済が落ち込み始めており、高知県ひとつ丸ごとなんて規模の復興は間違いなく経済の方向をゆがめ、急激な凋落に進んでしまう可能性があった。にもかかわらず、なぜか復興は驚くほど急ピッチに進んでいき、奇跡の復興などと言われた。

 この裏側には、実は異星人の組織がかかわっていたといわれる。

 たとえば、とある建設会社。

 その会社『ルー建設』という聞いたこともない謎の会社だが、高知市の復興にありえない力を発揮した。何しろ作業開始から二週間後には、ただの荒れ地になっていた高知県中央部の地形を以前の形に戻したのみならず、数か月の間に主要幹線道路をすべて復興、わずか二年のうちに建物だけなら旧県庁などの公共建築物、そして驚くべきことに高知市の象徴だった、中央の大高坂山(おおだかさかやま)高知城(こうちじょう)の天守閣、さらには、溶けてしまった桂浜の坂本竜馬の銅像までもが再建されてしまったのだから。

 当然、何者だという話が出たが取材は全てシャットアウト。そして契約上の工事が終わった翌日には彼らの会社はもぬけの空というありさま。正体はまったくの不明。

 それは、後にネット時代になってから取材した記者のコメントによれば「破壊以前のデータと比べても見分けがつかないほど。まるで建築物などのデータを立体レベルで保持しており、それをコピペするか人類外レベルの3Dプリンター技術で再現したとしか思えない」だったという。一部は植木まで再現されていたというから、確かに悩んだのも無理はない。

 もちろん事実関係はわからない。

 それに、亡くなった人々は帰らない。これだってどうしようもない。

 だけど、このルー建設のような謎の会社がいくつも暗躍し、高知県の復興が行われた事だけは事実だった。

 

 そんな復興が軌道に乗り、やがて一般人が被害地域に入れるようになり。

 すると今度は、高知市に移住する一般の人が出始めた。

 人間が動くようになると新たな問題が多数出てきたが、そもそも高知県というのは、全県あわせても80万そこそこの人口だった地域である。土地代の安さを見越してやってきた者、郷里の危機に一念発起して帰ってきた者などなど。新たな住人を迎え、ゆっくりと高知市は少しずつだが、新たな自治体としての再出発を目指して動きはじめた。

 さらにこの頃、期限付きだが興味深い政策がとられた。

 それは簡単にいうと「高知市に住めば子育て補助する」政策だった。新住民の定着を狙ったこの制度は大当たりして人は増え、復興速度はさらに上昇した。

 ただしこの政策、財源が不明だった事で大いに批判を浴びたのだけど……それでも高知県にとってはありがたい事だった。高知は昔から沖縄と比べられるほどの貧乏県であり、県庁所在地をまるごとゼロから復興するような経済力も、地力もなかったのだから。

 これらの政策により高知は二十年、三十年という時間をかけて完全元通りとはいかないが復興していった。

 

 他に目立ったものというと、一部で正体不明の商品が出回るようになった事が挙げられるだろう。

 産地のよくわからない、おいしい食べ物。

 とりたてて凄い性能というわけではないが、安価で使い勝手のよい道具。

 一種の『すきま需要』的な商品が多かったが、昔は決して出回らなかったもの。

 一部は中国製に見せかけていたが、とある専門家が製造元を探してみたところ、製造元になっている中国人は単に小遣い稼ぎで名前を貸しただけで、どこで製品が作られているのかも知らなかったりした。

『まぁ、便利だからいいんじゃないか?』

 食の安全性にはナーバスになる日本人も、衣類だの細かい日用品だのになると、必要な品質が維持されていれば気にしない者も多いものだ。

 実際、あなたの愛用している冬用の帽子を見て、made in chinaの文字が chinaでなく chika になっていたとしたらどう思うだろう?いったいどこの国で作られたパチモンなんだと笑うかもしれないが、まさかそれが、何光年も離れた星『チーカ・ヤナダ』でトカゲや犬の顔をした人々が働く工場で生産されているなど、考えもしないのではないか?

 経済や流通のグローバル化に、こっそりと混ざりこむ形で。

 どことも知れない国の商品や、どことも知れない国の何かが。

 地球全体の経済などには影響を与えない範囲で、ゆっくりと広がっていった。

 

 

 そして。

 後に最初の『第二のインパクト』があるまで。

 地球は、かりそめの平和が得られたのである。


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