12話【崖っぷちの攻防】
「大丈夫か、マリー?」
「はい、特に問題はありませんよ!」
それならよかった。
僕がやったことではないけれど、もしも『無音殺刃』がマリーまで傷付けていたら大変だから。
「それにしてもアンタは随分と危ない状況だったんじゃないの?」
リリィが肩に乗った草花を払いながらそう口にした。
「そうでもないよ。リリィが居るのが分かったから安心して盗賊達の前に出ていけたよ」
まあ、本当は出ていってから居ることに気付いたんだけれどね。
「ああ、居ること分かっちゃったわけ……私の擬態魔法もまだまだ駄目ね」
「と言っても偶然目に入っただよ」
「……ああ、そう言えばアンタに私の魔法について言ってなかったわよね。これについては慌てすぎてて説明を忘れてたの。でも擬態魔法なんてなんとなく分かることだからいいよね」
個人的には擬態魔法よりも『無音殺刃』の説明の方が必要だと思っているのだけれど。
「まあ魔法についてはマリーから聞いたから、もう必要はない」
「そう、それならいいわ。それよりこんなところに居たら、いつさっきの盗賊みたいな奴等が来るか分からないし今すぐここから離れましょう」
「そうだね」
僕達は殺した盗賊から、各々必要と思った物資を適当に拝借してからここから離れた。
∮∮∮
もう一時間ほど歩いただろうか。
時折、空を飛んでいく小鳥を羨ましい。僕もあんな風に翼を持って移動したい。
その場に留まり休む上では心地よい暖かさをくれる太陽の光ではあったけれど、こうやって自身の持ち物や盗賊から頂いた物資、それにマリーの荷物を持ってあげているのでかなりの荷重となり、日差しも加わり歩くだけでも汗が止まらなかった。
まあマリーの荷物はお菓子と水筒らしき物と小さな小袋程度だったのでそこまで重荷にはなってないが。
多分僕はかなりきつそうな顔でもしているのだろう。度々申し訳なさそうにこちらを見てくるマリーに悪いと思う。
リリィはリリィで盗賊からかなり物をもらっていたので重荷になると思ったのに、こう言うのには慣れているのか、全く苦しそうな表情は見せなかったし、僕と違って汗一つかいてなかった。
「あっ、もしかしてあれって」
僕は呟く。
なだらかな山のような、ゆるい坂を歩いていた僕達は山とは言えない山のてっぺんへと着いた。丘のような所から見えた光景は、小さな洞窟の姿。
遠くからなので詳しい大きさは分からないけれど、一軒家一つ分くらいなんじゃないのかと思うほどの小ささだった。
小さな一軒家洞窟の向こうには、何があるか分からないほど生い茂った草木……と言うか森……と言うよりは、もうジャングルじゃないのか、って言う感じである。
「洞窟を通っていくと言ってたけど、洞窟じゃなくてあの森を通っていくのが正しいんじゃないのか?」
僕はリリィの言っていた『洞窟を通る』という言葉を正そうとする。けれど、やはりそれは間違いではないようで。
「いや、いいのよ。確かにここから見たらただの洞穴程度にしか見えないかも知れないけれど、あれはあくまで地下に繋がる道に過ぎないから」
ああ、なるほど。と僕は納得した。
でもやっぱりと思う、地下じゃなくても上の森を通っていけばいいんじゃないかと。
そんなことを僕は訊いてみたら、リリィはこう返してきた。
「確かに上を通った方がいいけれど、地下洞窟を使った方が安全なのよ。上には化け物並のモンスターがわんさか出てくるし、環境も人に優しいとは言えない……環境も敵みたいなものだから」
地下の方が地上より僅かに……比較的楽なくらいだけれど、それでもできるだけ生存確率を上げた方がいいでしょ?──と付け加えるリリィ。
「生存確率だなんて大袈裟だな」
「全然大袈裟なんかじゃないわ……行けば分かる」
そうだな──と僕は言って、一人先に洞窟の入り口へと歩き出す。
「ちょっと待ちなさいよ」
そう言って僕を後ろを歩くリリィ。
その更に後ろからマリーの一息つくような声が聞こえる。荷物を持っていない丸腰とは言え、年齢が年齢なので体力があまり無いだろうし、エプロンドレスなんて着ているから確かに疲れるだろうとは思った。
ちなみに今彼女が着ているエプロンドレスなのだが、メイドのような白と黒の物である。旅に出る前に着替えたのだ。
ちなみに着替える前は、不思議の国のアリスを例えに出した通り、白と水色の服──とにかく、黒は熱を持ちやすいと聞くので疲労、ストレスは溜まりやすいと思った。
そして、洞窟の入口前へと到着。
「近くに来ると思ったよりでかいのが分かるね」
一軒家くらいの大きさと表現したときは、なんとなくだったのだが、目の前まで来ると本当に一軒家くらいの大きさで僕は驚いた。
「見た目と違って中は広々してるわよ」
「ふーん……だといいけれど。早速入ろうか」
僕達は、家一つの大きさの洞窟へと足を踏み入れる。
∮∮∮
洞窟は下り階段のようになっていて、リリィの言っていた通りに地下へ向かっているようだった。
数十段くらい下りると、段々と通路は狭くなり腰を曲げながら下りないと頭をぶつけてしまいそうだ。全然、広々としていない。
この中は、光も灯された火なんてのもないはずなのに、虹色の不思議な光に照らされてるかのように何故かぼんやりと明るい洞窟内部は少し神秘的に感じる。
あくまでぼんやりなので、周囲数メートルが見えるくらいで、遠くは本当に黒一色にしか映らないけれど。
光がないはずの洞窟で視覚が通用するのは嬉しい誤算だが、僕は念のために壁に手をついて、しっかりと足場も確認しながら進んだ。
それにしても時々、かなりの奥から断末魔のような金切り声──叫び声が聞こえる。これはモンスターか何かの鳴き声なのだろうか。もしそうなのだとしたら、できればお目にかかりたくない……遭遇したとしても何事もなく終わってくれればいいけど。
しばらく足を動かし続けると、狭い場所から一気に解放感溢れる場所へと出てきた。
「おっと、危ない」
急に段が無くなるので、僕はつまずきかけた。
「久しぶりにここに来たなー……」
マリーが呟いた。
「こんなところに来ることなんてあったのか?」
僕は彼女に尋ねてみる。
「村長に拾われた時──初めて村に来たときここを通ったんですよ。そんな昔のことでもないけど、懐かしく感じるなー」
「ということは道はもう知ってるんだよな?」
「私は分からないけど、リリィちゃんなら分かるはずです!」
「らしいけどどうなんだい、リリィ」
マリーに言われたので僕はリリィに話を振ってみる。すると彼女は、
「そうね、私はちゃんと分かってるわ」
と、ありがたい返答をくれた。
マリーも少しくらい覚えなさいよ──という言葉も呆れたように付け加えたリリィだった。
「それじゃあこれから私が先頭を行くわ。道を知ってるのは──覚えてるのは私だけみたいだし。夏木は後ろでしっかりマリーの事守ってよね、何かあったらただじゃおかないわよ」
「分かってますよ」
とリリィに返してから、僕の頭に疑問符が浮かんだ。
「もしかしてここってモンスターが出てくるのか?」
僕の質問にリリィは、アホの子を見るかのような目でこちらを見つめてきた。
「当たり前でしょ、さっき何度か鳴き声が響いてたでしょ?」
「そっか……」
できれば関わりたくないと鳴き声の主はモンスターで、しかも遭遇、戦闘の可能性があることを示唆された僕は、とても気が重くなってくる。
「とは言っても、あの鳴き声の奴とは戦う気はないし、戦わなくてもいい相手だから気にしなくていいし、多分会ったら殺されるわよ。戦うとしたら、そこら辺に隠れているであろう『ボーンヘッド』とかでしょうね」
「ボーンヘッド? それって?」
鳴き声の主については聞きたくなかったので僕はボーンヘッドについて聞き返した。
モンスターの名前なんだろうけれど、僕には一体何なのかちゃんと分からないので説明を仰いでみることにする。
「アンタは私達のいた村よりとんだ辺境の地からやって来たのね、『ボーンヘッド』を知らないなんて」
モンスターなんて関わりようもない世界で生きてきたからしょうがないんだよな……。
「ボーンヘッドって言うのは、簡単に説明すると骨の塊みたいな奴。骨が骨の武器を使って襲いかかってくるのよ」
「へー、よく居そうな奴だ」
ゲームとかでよく出てきそうだ。
「確かに結構色んな地域で出てくるモンスターよ。まあ脅威かどうかで言えば、油断してなければ特に遅れを取ることもないと思うわ。ただ……」
「ただ?」
「こちらに剣が無いのは結構なハンデになるわね。奴等は骨の剣や槍を使って来るから、接近戦に持ち込まれたら、魔法主体の私や銃を使う夏木は辛いかも。マリーに至っては逃げることしかできないから」
リリィの隣でマリーが不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「ボーンヘッドが近付いてくる前に仕留めればいいんじゃないのか?」
「それは無理。あいつらは普段は地中に潜んでいるからね、自分の近くに人が来ないと自分から出てこようとはしない」
「それは厄介だな。確かに剣がないのは辛いかも……しれ……ない」
「どうしたの?」
そう言えば僕は確かにナイフを持ってきてたよな。ポーチの中にあったと思うけれど。
「これがあればいいんじゃないか?」
僕はポーチからナイフを取りだし、前につき出すようにして二人に見せ付けた。もちろん刃先を彼女等に向けるようなことはしていない。
「そんな数十センチの刃渡りで一メートル以上の剣と戦えるの?」
「……ないよりマシかな?」
「……じゃあ近くに来たときはアンタに任せるわ、期待はしないけど」
リリィがため息をつく。
「それじゃあ進みましょう」
リリィの言葉に僕とマリーは「おー!」とかけ声を入れて歩き出す。
前から順にリリィ、マリー、僕と形で進んでいく。
隠れていると言っていた『ボーンヘッド』というモンスターは中々出てきたりしなかった。
あまり脅威にならないと言うので、むしろ会えることにワクワクを感じていたりしたのだが、思ったより遭遇率が悪くてそんなワクワクが冷めてくる。
「気を付けて」
とリリィが言う。
ふとボーンヘッドの警戒の為に、地面ばかり見ていた視線を上へと動かす。
「わおっ」
「うひゃー、リリィちゃん、これはちょっと……」
なんと僕の目の前に広がった状況はとても危険な物だった。
細道が続いていたのだ。
天井は見えないぐらいに上の所にあり、細道も横には壁がなく、崖になっていた。
手すりなんてのもない、足を滑らせれば、底が真っ暗の崖に真っ逆さまである。
細い崖道の幅はだいたい一、二メートルで天井と同じように見えない所まで、ずっと遠くに続いてる。
いつの間にかぼんやりの明るさが、かなりの明るさになっていることに気付いた僕は、周りもちゃんと見るように心掛けようと思った。
「二人とも足元に気を付けてね」
マリーがそう言う。一番心配なのはマリー本人だったのだけれど僕は何も言わない。
今までも慎重にゆっくりと歩を進めてきたけれど、この崖道もかなり危険な為、今までの何倍も慎重にゆっくり歩いていた。
たまに小さな石ころが沢山落ちている所があって、踏んでしまうと滑りそうになる。
幅が一、二メートルと言うのは広そうに見えて、案外狭いものだ。こういう状況では尚更狭く感じる。
そんなとき、
「あっ」
マリーの声が僕の耳をスッと通っていく。
彼女が呆けたような声色で発した言葉とは言えない言葉は、明らかに足を滑らせた際に出すような物だった。
マリーが落ちる、そう思った。マリーの後ろに居た僕は、プールで飛び込みをしているかのように、右側の崖へと突っ込んでいる彼女の体に割り込むように右腕を差し込む。
「ヤバイ!」
その瞬間の出来事、僕もいきなりの事だったので咄嗟にマリーを庇おうとした訳だが、咄嗟に庇ったが故に自分の足元に注意がいかず、彼女のように足を滑らせてしまう。
僕もマリーと同じように崖から落下してしまう状況に陥ってしまった。
「二人とも!」
リリィの悲鳴のような声を聞き流しながら、僕とマリーは崖へとダイブした──のは一瞬で、僕は反射的に自身の体を動かす。
すぐに彼女の右腕を僕の右腕で掴み、残った左腕で崖の縁を掴むことで、暗闇に落下することを防いだのだった。
「ちょっと大丈夫!?」
明らかに大丈夫ではないけれど、そう言わずにはいれないシチュエーションであることは間違いない。
「全然大丈夫じゃないから、助けてくれると本当にいいんだけれど……」
「すぐに助けるから!」
リリィの案じに余裕ぶった感じで応じる僕。実際は全くのやせ我慢で強がりにも程がある。
後二十秒持つかも分からないのだから。
自重に加えマリーの体重に荷物。僕の左腕は既に限界点へ到達しようとしていた。
そんな絶体絶命の状況で、本当に絶体絶命に導かれる出来事が起こった。
地面が──僕の掴まっている崖が揺れて音がするのだ。スゴゴゴ、みたいな地響きのような音。
「まさかこんなときに骨太戦士がやってくるなんてことは……」
できればやって来るな、て言うか絶対に来るな、と心の中で祈りながら予想を述べる僕。
瞬間、僕の予想、もはや予知とも言えた台詞通り、地面から数えて三匹の骨太戦士──もとい、ボーンヘッドが出現した。
「こ、こんな時に……少しだけ待っててマリー! 夏木!」
「そいつは無理だっての!」
と、日本人形のように、ここまで何も口を動かすことなく黙っていたマリーが今の自分の状況をやっと理解したのだろう。恐怖を感じたらしく、凄いじたばたし始めた。
「……あ、えっと、今ここって……──きゃあああああああ! 夏木さん、早く助けてええええ!! リリィちゃああああん!!」
予想以上の暴走。まるで赤子のように暴れるマリー。
「待てマリー、暴れたら落ちるって! 落ち着いてくれ!」
そんなことを言ってもマリーの興奮を鎮静化することはできなかった。
僕の体に、主に左腕と右腕に負荷が多大にかかる。
崖に掴まり続ける為の残り少ない握力が減っていく。
そして。
──案の定、落ちた。
そんなことをするつもりはなかっただろうけれど、マリーは僕の手を払うようにして、崖の底へと真っ逆さまに落ちていった。
「きゃあああああああ!!」
今まで聞いた何よりも本物の悲鳴を上げるマリー。
絶体絶命より最悪な状況。
死ぬかもしれない、これはどうしようもない。
もう終わった。
こんなところで僕達は死んでしまうのか。
どうせ死ぬのなら、もっと幸せになって死にたかった。
と思った。
と思う寸前だった。
「マリー!」
迷いなく躊躇なくリリィが大地を蹴った。
綺麗に、本当に水泳の飛び込みのように跳んだ。
「リリィちゃん!」
そして、空中で、僕よりやや下の位置で、リリィの右腕がマリーの右腕を掴んだ。
そして、そして、リリィの左腕が僕の方に伸びてくる。
「うおおおおおおおお!」
僕は自分の右腕で、リリィの左腕を思いっきり掴んだ。握り潰すつもりで。そこまでじゃないと落としかねないからだ。
「ナイスよ夏木!」
「無茶苦茶しやがってええええええ!」
実際、僕は限界を越えていた。
「やばいぃぃ……! 落ちる! 絶対に落ちるううううう!!」
左腕にかかる重さは百キログラムを簡単に越える。限界を越えない方がおかしかった。
そんな状態で崖に掴まる僕に追撃をしようと近付いてくる、気持ちの悪いボーンヘッド。
この状態で僕には選択することが強いられる。
このまま二人と心中するか、二人を見捨てるか。
この極限の状態で僕の選んだ道は。
今や僕の選択で生死が決まる二人を。
リリィとマリーを捨てることだった。
それしかなかった。
生きる為に。
投げ捨てるしかなかった。
崖に投げ捨てると言うことが、現在僕に考えられる一つの生存方法だった。
「振り子……」
僕は必死に叫ぶ。叫んだつもりだったけれど力のない弱々しい言葉になってしまった。
「は?」
「え?」
二人とも振り子の原理を知らなかったようだ。
「投げるぞ……!」
僕は、振り子の要領で二人を揺らす。
二人が困惑の表情と声を上げるが、気にせずに揺らす。
揺らして、揺らして、揺らし続けて、実際はそんなに揺らしてないのだけれど──とにかく、揺らして揺らして、僕の腕が完全に限界に来た。と思ったとき僕はその手を離し、二人を頭上の崖道へと投げ捨てた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
リリィとマリーが各々声を上げて、崖道にダイレクトに着地した。
僕も重荷がなくなったので一気に体が楽になる。本当に落ちてしまう前に両手を使って、何とか縁から這い上がった。
「痛いじゃない!」
「そ、それくらい許してくれよ……。危うく皆死んでしまう所だったんだからさ」
僕のお陰?で助かったと言っても過言ではないはずだ。
「マリー、下がってるんだ」
「は、はい……」
休んでいる暇はない、目の前には体力が回復するまで待ってくれる相手なんて居ないのだから。
僕はマリーを後ろに退かせ、三匹のボーンヘッドを視界に捉える。
ナイフを構えて攻撃に備えるけれど、ボーンヘッドの持っている骨の剣に比べて貧弱な武器なので、勝てるかどうか怪しかった。
そんな僕にリリィは言う。
「数秒でいいから時間を頂戴」
「……ういっす」
魔法発動の時間稼ぎってわけだな。
──瞬間、ボーンヘッドの一匹がこちらに突っ込んできた。剣を振りかざしながらやって来る奴の動きに合わせて、僕も動く。
ボーンヘッドが剣を横に振るう、シュッと軽い音と共に襲いかかる剣先を、僕はナイフで受け流す。
奴は受け流された剣を、さっき通った軌道を戻るようにしてまた剣を振った。
僕は苦もなく、それを受け流した。
苦もなく出来たのは、ただ防御に徹するだけならナイフでもやれないことはなかったし、思った以上にボーンヘッドの力が弱かったのもあった。
二撃目を華麗に流されたボーンヘッドに大きな隙が出来る。僕はその隙を逃さずナイフを──という訳にはいかなかった。ナイフで倒せる気がしなかったから……、なので仕方なく僕はナイフを使うのをやめる。
剣を握る奴の右手を、凪ぎ払うような蹴りで打った。
すると、奴の剣は崖の底へと飛んで落ちていった。
「これでよし。もういいか?」
僕が言うとリリィは、
「ええ、ありがとう」
そして、狂気に満ちた不可視の凶器『無音殺刃』が三匹のボーンヘッドを切り刻み、葬る。
微塵切りのように細々に切られたボーンヘッドは、なんと言うか壊されたガラクタオモチャのようだった。
ついに僕達は、絶体絶命の状況を乗り越えることに成功したのであった。
「はぁ、助かった……」
僕は一気に全身の力が抜ける。そのせいで膝をついてしまう。
すると、マリーが僕達に涙声……実際涙目になりながら言った。
「リリィちゃん、夏木さん……。私のせいで……ご、ごめんなさい……」
そう謝ってきたのだ。
別に気にしてないからいいよ──と言いたかったが、そう言っても彼女は自分に責任を感じるんだろうなと思い止めた。もっといい言葉ないだろうかと僕は考える。
「別にいいわよ、気にしなくても。結局助かったんだし、マリーはいつもドジ起こすから慣れっこよ」
考えている間にリリィがマリーの謝罪に応じる。
「いつも……ドジ……慣れっこ……それはそれでなんだか……」
どうやらここはリリィに任せていいようだ。
まあずっと昔からの仲だったらしいし、こう言うのは僕がでしゃばるより親友同士で話した方がいいだろう。
よかった。リリィが居て。
これからこんなことがあったとしても、彼女がマリーをどうにかしてくれるだろう、精神面の話は。
じゃあ、二人の話が終わったら、早くここから出て街に行こう。
──と考えていたときだった。
「キュアアアアアアアアアアアアアアア!!」
崖の底から、不穏な空気をもたらす悲鳴のような鳴き声のような声が聞こえた。
嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感が。
会いたくなかった奴に会ってしまうような、そんな予感。




