『星を追う者達』
『星を追う者達』は嘗て私たちが名乗った名だ。ファルコ、シーラ、ラッキィ、シーナ。伝説にて語られるのはこの四名。異説にて語られる『教授』にピーターにカリンにシルディール。ピーターの祖父ヴァニラ。他にもいた。
……。
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「一の勇者は『無敵の』ファルコ・アステリオン! 」
詩人が楽器を鳴らして堂々と胸を張る。
「強く優しく賢く炎のごとく。その剛剣は風を震わせ大地を砕き水を断つ! 」傭兵たちが盃を上げてその言葉に続ける。
『花咲く都』のような遠国でもこの歌が聞こえるとは思わなかった。
「二の神秘の妖精の乙女は『精霊の御子』ディーヌスレイト! 」思わず口に含んだ水を噴きだしそうになる。この一節が削除されて数百年が経過しているからだ。
「魔王じゃなかったっけ? 」「だよね? 」「詩人さん。間違えてるよ」
詩人は指先を軽く振って気取ってみせる。
「ファルコ・アステリオンとディーヌスレイトが世界を救った物語は事実で御座いますから」だからといって表立って発言すると異端審問官がやってくると思うが。
「本日の物語は愛と真実、夢と冒険、正義と勇気の物語。みなさん宜しくお願いします」
ざわめく群衆に端正な顔立ちの青年。吟遊詩人は告げる。
ざわめきは彼の唇から美しいテノールが流れ出すと同時に静まっていく。
「第三の乙女の名は『美しき』シーラ・カンス。風の妖精の末裔なり。
第四の青年は『幸運を伝える者』ラッキィ・リック・アクアマリン。愛を伝える伝道師。
最後を飾るは『光を放つ者』シーナ・レデン。ディーヌスレイトの親友にしてファルコ・アステリオンと共に歩むもの」
しんと静まり返った酒場。立っていた娼婦の娘が軽く座る。
エールをあおっていた男は静かにその古びた香りを放つ盃を傷だらけのテーブルに置いた。
「『星を追う者』数いれど、彼らの勲功限りなし。
されど我は語る知られざる物語。知られざる『星を追う者』を。
君は知るか。『教授』とシーラの絆の物語を。
貴女は知るか。シーナとディーヌスレイトの友情を。
老体は御存じか。ヴァニラにカリン。彼らを助ける賢者の存在を。
子供たちよ聞け。勇敢なる子供、ピーターの優しさを。
ヒトよ思いだせ。シルディールを生み出した業を……」
私はそっと器を置き、彼の邪魔にならないように小さなリュートを取る。
私と彼の瞳が合う。範奏を瞳で申し出ると彼は甘い爪弾きで応じてくれた。
「今宵、君は星を追う者になる」この歌を誰かと歌うのは久しぶりだ。今宵は楽しい一夜になりそうである。




